「ノブレス・オブリージュ」としての子ども食堂

賃貸経営地域活性

<<地主と地域貢献>>

子どもたち、地域、未来に対する地主の使命
「ノブレス・オブリージュ」としての子ども食堂

 東京都豊島区南長崎の神社にて、“地域の人をつなぐ活動”が行われている。「南長崎子ども食堂」と名付けられたこの取り組みでは、神社の境内で子どもたちと保護者に地元飲食店のお弁当を手渡す。

 お弁当の列に並ぶ親子に声をかけるのは、伊佐龍寿オーナー(東京都豊島区)。「最初は10人も来なかったんです。だけど、『続けること』を何より大切にしてきました」と話す。2021年6月から毎月2回のペースで続くこの活動は5年目を迎えた。今では50人以上の親子が定期的に取りにきてくれるようになったという。

伊佐龍寿オーナー(東京都豊島区)

 伊佐オーナーはこの地域に代々続く地主の家に生まれ、現在はアパート5棟、マンション1棟、借地権44戸を所有・管理する不動産オーナーでもある。長年この地域で土地を守り、相続や借地権問題とも向き合ってきた。2度の相続を乗り越えたが、今後迎える3次相続に向け、借地人との共存、建て替えや再活用の検討・提案など、管理業務は多岐にわたるという。

▲神社の境内で実施される子ども食堂。時間が近づくにつれ子どもたちがやって来る

 それでも子ども食堂という地域貢献の場を自らつくり、実際に配膳や準備にも関わる伊佐オーナー。その背景には、一つの思想がある。「『ノブレス・オブリージュ(地位ある者の責任)』という言葉があります。地主は決して『地位が高い』存在ではありません。でも、国から土地を預かり、管理を任されているだけで恵まれた立場にいることも事実。その立場に見合う責任を果たす義務があると思っています」(伊佐オーナー)

 南長崎子ども食堂の活動は「子ども支援」にとどまらない。提供されるお弁当は、近隣の飲食店から仕入れており、コロナ禍以降経営が厳しくなった飲食事業を支える「店舗支援」の側面もある。さらに、学童保育に通わない小学生向けに「寺子屋」として居場所を提供している。子ども食堂と共に神社で開かれているこの寺子屋は、「学生支援」として大学生のボランティアたちが集まる。子どもたちと宿題をしたり、本を読んだり。年齢の近い“お兄さん・お姉さん”たちと過ごす時間は、子どもたちにとって特別だ。「子ども好きな学生にとって、コロナ渦で行動を制限されている中で、『こんな場所があったんですね』と喜んでくれています。地域と学生、子どもたちがつながる場になることが、こんなにも意義深いのだと実感しています」(伊佐オーナー)

▲大学生ボランティアと地域の子どもの交流の場になっている

 これらの取り組みは、同地区のほかの地主たちにも波及し始めている。「私も何かしたいと思っていた」と語る地主や企業が現れ、運営費やレトルト食品の寄付など、支援の輪が広がっている。それにより、配布できるお弁当の量も増えた。伊佐オーナーは「地域の中で、社会貢献の受け皿になれていることもうれしいです」と話した。

 土地を持ち、建物を運営し、収入を得る。それだけでは地主の役割は終わらない。「地主としてすべきことは、相続する人が円満な関係を継続できるよう資産を残してあげること、あるいは整理をしてあげることでしょう。一方で、寄付やボランティアなどにより国や地域に貢献することも、地主という比較的恵まれた境遇に生かさせてくれたことへの恩返しであり使命であると考えます」(伊佐オーナー)

 昨年からは高齢者対策にも取り組んでいる。「毎年4月には仲間と地域の高齢者サロンで、フルートコンサートを開催しています。子どもだけでなく、幅広く地域に貢献していきたいと思います」(伊佐オーナー)

▲協力してくれる近隣飲食店とは顔なじみだ

(2025年9月号掲載)

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