<<リスクを知って対策 災害に備える賃貸物件>>
近年、地震や豪雨によって全国各地が自然災害に見舞われている。所有物件を抱える家主にとっても人ごとではない。住宅や地域の防災に詳しい不動産会社社長、防災に取り組む家主、災害時の電力供給や事前のコミュニティーづくりのためのアプリを提供する事業者にそれぞれ話を聞いた。
物件の特性と被災の段階ごとにリスクを予見
10年近く住宅や地域の防災についてセミナーで講師を務めてきたマチモリ不動産(静岡県熱海市)の三好明社長は「賃貸住宅の入居者の間でも防災への関心が高まっています」と話す。
マチモリ不動産(静岡県熱海市)
三好明社長

地域、建物、入居者で想定
三好社長は「ただ漠然と災害に備えるのではなく、リスクを明確に想定することが大切です」と指摘する。さらに「地域」「建物」「入居者」の三つそれぞれについて考えるべきだと説く。
ここでいう「地域」とは、物件がどういうエリアに所在しているのかということ。例えば、地盤は硬いのか軟らかいのか、また自治体が作成するハザードマップの危険エリアにあたるかもチェックしよう。
「建物」においては、物件の構造と設備の特性をつかむことだ。揺れには木造より鉄骨造やRC造のほうが強い。横から見た場合に長方形の集合住宅であれば、短辺方向に揺れやすい。おのずと各戸内で家具が倒れる方向も予想することができる。上空から見てL字形の集合住宅だと、L字の交わる部分は揺れに弱くなる。そもそも耐震性の把握も重要であるし、給水方式も確認しておくといい。
「入居者」は、物件にどういった人々が住んでいるのかということ。高齢者や障がいがある人は住んでいるのか、ファミリーが多いのか、若い単身者が多いのか、外国人は住んでいるのかなどを改めて把握しておきたい。日頃から入居者同士のコミュニケーションが活発かどうかでもリスクの想定が違ってくる。

災害を三つの期間に分ける
また三好社長は、災害を「発災期」「被災生活期」「復旧期」の三つの期間に分けて、リスクを想定することを推奨する。

発災期は災害が起きた直後から1日の間で、命を守ることが最優先となる。被災生活期は2日目から1週間までの間で、ライフラインが断たれた中での避難生活の期間だ。復旧期は1週間後以降を指す。
日常が著しく奪われる発災期と被災生活期においても「いつ、どこで、誰が被災するのか」と細かく想定することができる。例えば、発災期に被災場所が自宅の場合も、
・いつ 活動中▷就寝中
・どこで キッチン▷リビング▷寝室
・誰が 高齢者▷児童
といった具合だ。
被災生活期は、避難生活を自宅か避難所で送るかによって想定が変わってくる。ちなみにRC造の建物に住んでいる場合は、損壊の程度が小さければ、自宅での避難生活が原則だ。
個々のリスクに的確な対応
実際にどういったリスクと、どのような対策が考えられるのか。表を参照して、RC造3階建てマンション(1フロア4戸ずつ合計12戸)の物件を想定し、建物と入居者などを対象に一例を見ていく。

発災期では、建物において停電や断水が考えられる。自家発電機もしくは比較的手頃な蓄電池を設置しておくといい。簡易トイレや生活用水なども準備しておきたい。エレベーターの停止も考えられるので、保守点検の事業者との情報共有も重要だ。入居者に対しては、安否確認が取れない場合に備えて緊急連絡先を把握しておこう。
被災生活期はライフラインが復旧していないことが想定されるので、電源や生活用水などの確保のためにも、入居者に対して契約時に災害時の備蓄について通知しておくといい。また被災したことで、使えなくなった物を整理するのに伴い、ごみ置き場が溢れてしまうことも考えられる。ごみ置き場の使用ルールを入居者と話し合っておこう。
復旧期には、被災した不安からそのエリアを離れたい気持ちが生じ、入居者が退去することもある。空室を埋めるためには、復旧に携わる関係者に貸し出すという方法もある。その際に自治体のどの部署に連絡を取ればいいか事前に把握しておくといい。
また仮に入居者が自宅外に避難していれば、自宅が空き巣被害に遭うリスクもある。見回りで警戒したい。
家主同士で話題にする
防災のキーワードに自助と共助がある。入居者に対して、自身で災害に備える自助を呼びかけることは、家主の大切な役割だろう。また近隣住民で協力し合う共助がスムーズになるように、日頃から入居者に向けて防災の意識付けを行うことも重要だ。三好社長は「何かのイベントに合わせて、防災訓練やリスクの想定について考える機会を設けることが有効です」と話す。

一方で、自身の所有物件や入居者に向けて、今から防災について考える家主の中には、何から手を付けたらいいのかわからない人もいるだろう。三好社長は、まずは家主同士で防災を話題にすることを推奨する。
三好社長は次のようにも語る。
「入居者募集において、防災は絞り込み条件の一つとしてまだ一般化していません。防災対策を講じた家主は、管理会社や仲介会社に対して、自身の物件が防災に対応していることを絞り込み条件の項目に挙げるよう依頼するといいです」
(2025年9月号掲載)
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