【特集】共用部活用や防災グッズで防災を実践

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<<リスクを知って対策 災害に備える賃貸物件>>

防犯を実践するオーナー

非常時のみにとどまらず、入居者や地域との関係を築く過程や入居付けのための工夫として、防災対策がされている事例もある。実際に平時からの備えでいざという時に機能する防災体制を構築しているオーナーを紹介する。

共用部で防災
防災用品ストックにとどまらず 日頃から地域イベントで活用

 木村憲司オーナー(川崎市)は5棟37戸の賃貸住宅を所有。多摩川が近い立地を踏まえ、特に水害を強く意識しているという。RC造マンションの共用部には、他の木造物件を含めた全入居者が3日間避難できるだけの防災備品を備えている。

木村憲司オーナー(川崎市)


 木村オーナーは、専業オーナーになった2008年から防災準備の必要性を感じていたが、「防災のためだけの設備にコストをかけるのは限界がある」とも感じていた。同時に、専業オーナーになった頃から所有物件でのイベントや地域活動に積極的に携わっており、この時に使う備品を防災備蓄として利用することを思いついたという。

 「イベントの準備物と防災備蓄の相性は非常にいいのです」と話す木村オーナー。水や食料のほか、簡易トイレを備えている。ガスボンベ式の発電機、ポータブルバッテリーなど、定期的にイベントでも使用することで状態の確認ができ、いざというときに使える状態が保てる。

 また、地域のイベントに貢献しつつ、総額47万円になる発電機とポータブル電源を不動産事業の経費として計上できるという利点もある。

 イベントを通じて入居者同士が顔見知りになっているため、被災時にも落ち着いて行動ができる。重要性を実感したのは19年、台風19号が川崎市に直撃した時だ。この時、入居者同士の「LINE」グループで、建築家として活動する入居者が情報を発信。お互いに信頼関係が出来上がっていたことで、アドバイスに従ってRC造3階以上の住人は在宅避難を選択し、冷静に行動することができた。

 「地主は自治体ではありませんから、防災組織の立ち上げはできません。反面、土地があるから備蓄ができますし、入居者と普段からあいさつをする関係を作れます。顔見知りの人が困っていたら助けたいと思うのが人情です。『関係性の構築が一番の防災』だと思っています」(木村オーナー)

▲発電機は地域での催し物でも活躍する

 

防災グッズを配布
各部屋に防災セットを準備 空室対策にもつながる防災

 中村謙二オーナー(世田谷区)は、経営するアパートの各居室に防災セットを備えている。入居者のほとんどは、近隣の大学に通う学生だ。

中村謙二オーナー(東京都世田谷区)

 防災セットには寝袋やカンパン、水のほか軍手やカセットコンロなど、避難時に必要なものが一通りそろっている。築43年になる木造アパートの空室対策として設置し、特に実際の契約者となる親には好評だ。家族で内見に来た学生の父親が、これを見て契約を決めたこともあった。

 防災グッズの中身は一つ一つ中村オーナーが購入し、1部屋1万円程度でそろえた。衣装ケースに収納した状態でクローゼットに設置。非常時以外に使用した場合は有料となる。平時は意識されにくい防災セットの存在だが、2011年3月の東日本大震災の際、存在意義を痛感したという。

 当時、中村オーナー自身も被災する中で物件の状態を見に行くことができなかった。幸いにも入居者に被害がなく、電気・水道などのライフラインも機能していたことがわかったのは、震災から数日後のことだ。

 「震災直後はコンビニエンスストアから食べ物が消えました。1人暮らしの若者が多い建物なので、防災セットには水や食料のほか、ガスが使えない場合に備えてガスコンロも入れています。数日はしのげるように準備しています」(中村オーナー)

 今年からマンスリーアパートとしての貸し出しも始め、該当の部屋では防災セットに衛生用品などを増やした。入居者の事情に合わせた準備が重要であるようだ。

 

(2025年9月号掲載)
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