【特集】備えとつながりで築く 災害に強い住まい

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サービス紹介
備えとつながりで築く 災害に強い住まい

災害への備えが重要視される中、マンションや地域コミュニティーにおける防災対策にも多様なアプローチが求められている。非常用設備や備蓄といったハード面と、住人の意識や共助体制を育てるソフト面の双方に注目が集まっている。

災害時の電力供給を実現する防災サービス

ーーー 太陽光パネル・蓄電池で自立供給 ーーー

地震や台風などの災害が相次ぐ中、集合住宅における防災対策への関心が高まっている。その中でも、停電時の生活維持に着目したサービスが注目を集めている。エネルギー事業を手がけるレジル(東京都千代田区)は、太陽光パネルと蓄電池を活用した電力供給システム「マンション防災サービス」を集合住宅向けに提供する。

レジル(東京都千代田区)
入江誠執行役員

 マンション防災サービスでは、災害によって停電が発生した際に、共用部や重要設備に最大48時間にわたって電力を供給する。電力の供給対象は、非常用照明や給水ポンプ、エレベーター、機械式駐車場、オートロックなど多岐にわたる。どの設備にどれだけ電力を優先的に供給するかは、各物件の設備構成や防災方針に応じて柔軟に設計できる仕組みとなっており、災害時でも最低限の暮らしを送ることができる。平常時に供給する電力は、実質再生可能エネルギー100%であるため。脱炭素化も実現する。

 同サービスは、太陽光パネルや蓄電池の設置にかかる初期費用・維持費が一切不要であることが大きな特長だ。レジルが一括受電の仕組みで電力を供給し、入居者が支払う電気料金とレジルの電力仕入れ価格の差額を、設備の設置・メンテナンス費用に充てる。これにより、オーナーや管理組合は、金銭的負担なしで、防災インフラを整えることができる。

 同社の入江誠執行役員は、「災害対応力やBCP(事業継続計画)への注目の高まりから、賃貸住宅を開発するデベロッパーからの引き合いも多くなっています。当サービスは『災害に強い物件』として販売時や賃貸時の訴求力を高める効果があります」と話す。省エネルギー性や防災性能を評価する建築環境総合性能評価システム「CASBEE(キャスビー)」や建築物省エネルギー性能表示制度「BELS(ベルス)」などの各種制度においても、加点対象として評価される可能性があり、認証取得による資産価値向上にも寄与する。

 能登半島地震があった2024年には、問い合わせが前年の約2倍に増えたという。「防災設備の必要性を自分ごととして捉える人が確実に増えています。停電しても暮らせる環境があるか否かで、安心感は大きく変わります。日常でも非常時でも機能するインフラとして、ぜひ多くの物件に導入してほしいです」(入江執行役員) 

▲マンション防災サービスを導入した物件の蓄電池

 

「つながり」が命を守る

ーーーご近所付き合いを支えるコミュニティー形成サービスーーー

都市部の新築物件では、ご近所付き合いが希薄であることが当たり前となり、住人満足度の向上や災害時の共助といった課題が浮き彫りになっている。こうした課題を、テクノロジーの力で解決しようとしているのが、旭化成グループのスタートアップであるコネプラ(東京都千代田区)だ。「GOKINJO(ゴキンジョ)」を通して、住人同士の自然なつながりの育成に取り組む。

コネプラ(東京都千代田区)
中村磨樹央CEO

 GOKINJOは、集合住宅や自治会などの小さなコミュニティー内における「ちょうどいいご近所付き合い」を実現するためのスマホアプリとエリアマネジメントを合わせたサービスだ。スマホアプリには、掲示板やチャット機能、不用品の譲渡、住人同士の助け合い投稿、イベントの告知・参加表明などの機能があり、これらを通じて、住人同士の自然なつながりを育むことができる。管理会社や管理組合は、同アプリ上でお知らせを配信したり、住人へのアンケート調査を行ったりすることも可能だ。
 特徴は、住人同士の日常のつながりが、そのまま災害時の対応力向上につながるよう設計されている点だ。GOKINJOを通じた平常時の交流が、災害時の共助につながる。

 同アプリには、マンションごとの防災情報ページや安否確認ができる機能が搭載されている。さらに「防災スタンプラリー」や「防災紙食器づくり」といった参加型イベントを通じて、家族で楽しみながら備える機会を創出する。これらの取り組みは、居住者の「備えへの意識」を醸成していく。

 同社の中村磨樹央CEOは「地震があったときや停電時、夜中に火災報知器が作動したときなど、災害の恐れがある際にGOKINJO内のチャットへの投稿が増えます。不安なことがあった際に質問したり、連絡が取り合えたりすることを求めている住人は多いのではないでしょうか」と話す。実際に、大雨で排水溝から水があふれた際には注意喚起のために活用されたり、積雪時に周辺道路の凍結情報を共有する手段として使われたりするなど、住人の自主的な防災行動につながっている。

 特に注目されるのが「デジタル安否確認機能」だ。災害時に住人がスマホから自身の安否情報を簡単に報告することができ、管理者や理事会はその結果をリアルタイムで集計・把握できる。紙ベースでの掲示や個別確認の手間を省き、迅速で的確な対応を可能にするこの機能は、実際に導入された物件でも高く評価されているという。日常的に使われているアプリだからこそ、非常時にも自然と活用できるという点が、GOKINJOの強みだ。

 同サービスは6月末時点で、66棟の物件に導入されている。「防災、ご近所コミュニティー育成、物件の管理支援を一体で提供する新しいインフラとして、集合住宅の安心に寄与していきたいです」(中村CEO)

▲防災に関するイベントに参加する住人たちの様子

 

(2025年9月号掲載)
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