受け継いだ資産を守るための組み換えを実施

賃貸経営賃貸管理

<<ビルオーナー物語>>

1年1棟のペースで新規ビルを取得」に続き、田丸ビル(東京都杉並区)の3代目社長の田丸賢一氏に、これまでのテナントビルや賃貸マンションを経営について話を聞く。

無借金経営と築古売却 父親から受け継いだ経営バトン

 田丸ビルの祖業は竹屋だ。田丸社長の祖父の辰郎氏が戦後間もない時期に、荻窪の地で開業したものだ。その後、戦後復興の機運に乗じて、1950年には材木店を始めた。材木の販売のみならず、自社で大工を抱えながら木造戸建て物件の建て売りを行っていた。

 高度成長期の好景気で建売事業を順調に伸ばしていったという。その上で、辰郎氏は70年代に、環状8号線の角地にRC造7階建ての自社テナントビルと賃貸物件「田丸荘」を竣工した。その後、80年代に「第二」と「第三田丸ビル」を、そして90年代には、「第五田丸ビル」とレオパレス荻窪第11、そして阿佐谷コーポを取得していった。

 「祖父の代に竣工・取得した不動産は、1棟目の自社ビル以外、すべてキャッシュで購入したそうです。1棟目の借り入れも早期に返済しています」(田丸社長)

 2002年には、田丸社長の父親である順啓氏が、2代目社長に就任。建て売り事業から賃貸経営に家業の軸を移していった。順啓氏は、05年までに18戸の区分マンションを購入した。

 だが、11年に東日本大震災が起きたことで、状況が一変。順啓氏は旧耐震基準で建てられた物件を貸し出すことのリスクを強く感じた。そこで、9戸の区分マンションと初代が建てた築古アパート「田丸荘」を売却することになった。

 2016年に3代目社長に就任した田丸社長は祖父と父が築いた資産を生かしつつ、より資産性の高い物件に組み替えていった。

 その中で田丸社長は自己資金を入れつつも、融資を受けることを念頭に置いているという。

 「無借金経営は危ないというのが私の考えです。適切な借り入れをしながらレバレッジを利かせていきたいです」と田丸社長は話す。

■田丸社長が取得した物件(2)

物件は安定の時代 管理にAIを活用し始める

 現在、資産の組み換えは一定の結果をもたらし、同社のポートフォリオはある程度理想の形になっていると田丸社長は考える。そこで今、田丸社長が注力しているのは時代に即した物件の管理方法だ。具体的には生成AI(人工知能)の「Chat(チャット)GPT」の有料版を取り入れているという。

 驚くのは、物件画像を読み込ませると、修繕の必要がある箇所の特定までChatGPTでできるというのだ。

 「雨漏りのあるビルを訪問した際、目視ではどうしてもクラックなどの怪しいポイントを見つけることができませんでした」(田丸社長)。だが、外壁を写真に撮ってChatGPTに読み込ませたところ「壁のこの辺りに膨らみがある」と指摘された。翌日、再び物件を訪問したところ、確かにほんの少し、壁がたわんでいる場所があった。触ってみると、水がたまっているような感触があったそうだ。

 導入して日は浅いものの、AI活用のメリットを日々感じている。物件情報や修繕情報もすべてChatGPTで管理。今後必要になってくる大規模修繕のプランも提案してくれるのだという。

 「AIは優秀なアシスタントになり得ます。不動産オーナーこそ活用し、物件の管理・経営に生かしていくべきだと思います」(田丸社長)

田丸ビルの歴史
1946年 田丸辰郎氏、荻窪で竹屋を創業
 50年 材木店を開業
 68年 田丸材木店設立 辰郎氏、社長就任
 70年 第一田丸ビル、田丸荘竣工
 85年 第三田丸ビル竣工
 99年 第五田丸ビル、阿佐谷コーポ取得
2000年 レオパレス荻窪第11取得
 02年 順啓氏、社長就任 社名を田丸ビルに変更
 16年 順啓氏、会長就任
賢一氏社長就任
 20年 イデアサイトビル取得
 21年 フォレストビルと本町3丁目ビル取得
 22年 ヴィラホロニカ取得
 23年 オリーブ中野Ⅲビル取得
 25年 ファイン目白TOKYO取得

 

「負動産」だった千葉の原野売却
損を出して税務上のメリットを得る

 田丸社長が売却したのは築古物件だけではない。50年以上活用の道がなく、放置されていた千葉県富里市の数万ヘクタールの原野もその一つだ。価値の低い土地を高く売りつける原野商法に引っかかった友人を助ける形で祖父が手に入れた土地だった。
 ある日、遊休地があるなら見学をしたいという内見希望者からの申し出があり、現地を見学してもらった。内見者はドッグラン経営を見越しての購入希望だった。だが、地目上、建築物を建てることができない。そこで、田丸社長はトレーラーハウスを活用することを提案。無事に売却が決まった。
 本来、簿価3000万円だったが、20万円で売却したという。その理由を「逓増定期保険の返戻金と売却損の相殺を狙った」と話す。「ちょうど保険の満期にあたる年でした。解約返戻金は3000万円でした。通常は大規模修繕費を出口として取るのですが、当社には大規模修繕が必要な物件がありませんでした」(田丸社長)。そのため、売却損を出すことにしたのだ。
 結果として、長年活用できていなかった土地を売却できたうえに、税制上のメリットも受けることができた。

(2025年9月号掲載)
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