<<不動産市場で光るプレーヤー>>
AIを駆使して最適解の新築アパートを供給
土地情報提供から融資支援、建築まで一気通貫
IT(情報技術)企業から建築会社へ転向し、賃貸住宅の供給を増やしているのは、ZIRITZ(ジリッツ:東京都千代田区)だ。会社設立から4年後の2023年9月に建築営業をスタート。2年目となる 年は 棟116戸を受注した。同社の強みはAI(人工知能)を駆使して土地情報の提供や各エリアのマーケット分析、融資サポートまで行い、安定した利回りの物件を提供する点だ。同社の島㟢怜平社長は、従来の投資用不動産販売会社とは異なる方法で同社を成長させている。
ZIRITZ(東京都千代田区)
島㟢怜平代表取締役

屋上テラスと専用庭が人気 自己資金ゼロで1億 万円融資
神奈川・湘南エリアの人気スポットである鵠沼海岸から徒歩 分ほどの場所に立つ白い外壁のアパート。接道部分が狭く、奥に行くと広い敷地が広がる、いわゆる「旗ざお敷地」を活用した物件だ。
同物件は重層長屋タイプの建物で、全 戸の間取りはワンルーム、専有面積は ~ ㎡となる。コンパクトでありながら、バス・トイレ別で、独立洗面台付き。近年の人気設備も導入しており、賃貸マーケットの入居者のニーズを反映させている。
さらにほかの新築と差別化を図るべく、付加価値として2階住戸に屋上テラス、1階住戸には専用庭を設けた。その結果、竣工は5月と募集時期としてはあまりよくはなかったものの、湘南エリアに住みたい単身者から支持され、募集後1カ月ほどで満室になった。家賃も周辺相場よりも3000円高い7万円(別途管理費5000円)で成約した。表面利回りは8・1%を計上。驚くのは、投資額1億3500万円の融資を、通常1割前後の自己資金が必要なところ、0円で受けられたことだ。
「不動産投資に必要なビッグデータを駆使できる建築会社の当社だからできることなんです」

鵠沼海岸近くの同社が建築した物件
こう話すのは、同アパートを建築したZIRITZの島﨑社長だ。島﨑社長は、大和総研に入社し、大和証券グループ本社経営企画部を経て、大和ネクスト銀行の設立に参画した人物。その後、総合コンサルティングファームのベイカレント・コンサルティングに転職し、経営戦略や新規事業戦略、DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略案件に従事した。自身が不動産投資をしていた経験から不動産とAIを掛け合わせた事業にビジネスチャンスがあると考え、 年に起業した。だが、起業1年目で苦境に立たされ、自社で建設業免許を取得し建築会社に転向。その決断が功を奏し、事業を軌道に乗せることに成功した。
不動産会社の特性わからず 投資家とのマッチングに苦戦
島﨑社長が起業当初に提供していたのは、投資用不動産専用のプラットフォーム「StockFormer(ストックフォーマー)」だ。同プラットフォームでは、投資家の個人属性データをスコアリングにより分析したうえで、投資家が匿名性を保ったまま不動産会社とコミュニケーションを取り、最適な投資物件の提案を受け、商談を進めるサービスを提供した。
投資家は同プラットフォームの会員に登録すると、資産と収入から「資産スコア」が算出され、投資家としての信用力やステータス、金融機関などからの信用力を把握できる。また購入や売却を行った不動産や融資条件の情報(ログ)を投資家同士で共有が可能。ログから現在の不動産市況や、投資家の資産形成レベルに即した投資条件、融資条件が把握でき、適切な投資判断が可能になる。
だが、同プラットフォームでなかなかマッチングできなかった。「理由は、不動産会社がローン目線を持っておらず、投資家に適切な物件を提案できなかったからです」(島﨑社長)。
約1年間運営で、2000人近く会員は増えたが、島﨑社長は苦境に立たされた。そこで思い切って 年 月ごろに建築会社になることにした。同時に新築アパートプロデュースサービス「StockFormer─ZERO(ゼロ)」を開発した。

会員登録すると算出する資産スコア
独自のスコアリングを駆使 新築利回り7~8%実現
StockFormer─ZEROは、土地、不動産、工務店のデータベースから建築設計・デザインまで同社が保有する情報と人材ネットワークを駆使し、長期にわたって表面利回り7~8%が見込める新築アパートを供給するというものだ。
具体的には、会員の不動産投資スコアリングを基に、提携金融機関からのフルローン相当の融資が見込める投資可能額を診断。
その後、独自のデータベースを活用して賃貸ニーズのある土地を探し出し、高入居率の物件プラン、コストを抑えた施工プランを提案を行う。そのうえで安定収益と先々の売却を見据えた収支計画を提示する。最後に、会員の属性情報と物件の担保価値を適切に組み合わせることで、最大融資期間 年のフルローンが可能な融資条件を提携金融機関から提供してもらう。
中間マージンを排除 低コストが可能な建築サービス
投資用アパートの新規開発は、建設用地の情報収集(不動産仲介)、用地に対する新築物件の企画・案件化可否検討(デベロップメント)、銀行によるアパートローン審査(金融)、ボリュームプラン作成や総工費の試算(設計・建築)が必要だ。さらにこれらを踏まえた案件採算性の最終判断(財務・経営)など、多くの事業者が関与する。
旧来の物件開発手法では、各社の工程をそれぞれアナログな方法により実施していくため、作業に要する時間が長くなることに加えて、いずれかの工程が着手後に頓挫して案件が企画倒れとなることも少なくなかった。そのため、投資家の利回り低下につながっていた。またデベロッパー主導で土地や建物を取得し、完成した物件を在庫として投資家向けに販売するという形式は一般的だが、不良在庫化リスクなどが発生し、物件価格に転嫁されることがある。
同社はデジタルに基づいて意思決定ができるシステムを設計。デベロッパーの関与なしで、投資家自身が開発主体として投資用物件を取得可能とするのがStockFormer─ZEROだ。
本格的に建築営業をスタートした 年9月に一時停止していたStockFormerの会員募集も再開。 年 月末現在で4000人に上る。建築受注は好調で、1期目となる 年7月期が5棟 戸、 年7月期に 棟116戸を受注した。営業担当者も増やし、さらに拡大させていく計画だ。
「今後は、投資家をはじめ、地主が土地活用をする際にも当社が建築受注できるようにしたいです」と島﨑社長は話した。
(2026年1月号掲載)






