<<地域資源の活用方法>>
築100年の納屋をカフェに改築
新規事業がまちを活性化させる
長らく活用されず物置となっていた呉服店の納屋を利用してオープンしたカフェが人気を博している。エリア内外から人を呼び込む装置となった築古物件の誕生には、貸し手と借り手の信頼関係が鍵だった。
納屋という裏に隠れた建物 飲食店に使う逆転の発想
単線・2両編成という牧歌的な流鉄流山線の終着駅である流山駅。駅から歩いて5分ほど行ったところにカフェ「tronc(トロン)」がある。同地で創業し160年を迎える「ましや呉服店」が所有する築100年超の納屋をリノベーションしたカフェで、2016年3月にオープンした。

troncのオーナーである高楠友和・あき夫妻(千葉県流山市)は、以前は東京の飲食店で働いていた。小ぶりな店舗で独立を考えていた折、「流山本町・利根運河ツーリズム推進事業補助金」について知った。
「妻の実家が流山市のため、彼女の両親から補助金について調べてみてはどうかと教えてもらったのです」(友和氏)
流山市に問い合わせてみるものの15年当初はマッチングできる物件がないという話だった。しかし問い合わせからしばらくして、市の担当者から「見てもらいたい物件がある」と連絡があり流山本町を訪問。紹介されたのが、ましや呉服店の納屋だった。
納屋というと裏手に隠れた建物のため、不特定多数の客に来てもらう必要のある飲食店には不向きと考えるのが普通だろう。
実際、通りに面しているのはましや呉服店の店舗で、納屋に行くには細い脇道を通り抜けなければならない。だが、友和氏は納屋の隣にお稲荷さんが祭られている、平穏な雰囲気を一目で気に入ったという。
物件の見学にはましや呉服店の6代目、古坂多オーナー(同)も同席していた。古坂オーナーからは「納屋に向かう脇道には新たな板塀を設けて、店舗裏にある自宅とは切り離すこと」を条件として提示された。高楠氏はそれを承諾。こうして借り手と貸し手が顔を見合わせて、建物の使い方について話ができたことが、古い建物の再生事例として成功した理由の一つだという。
というのも、当初、流山本町内でマッチングできる物件が見つからなかった理由は、流山本町内の物件オーナーが外部の人に対し建物を貸し出すことへの抵抗があったからだ。
貸し手と借り手がしっかりコミュニケーションを取り、抵抗感をなくすためのアイデアを共に見いだすのは、長年放置されている空き物件、特に賃貸用に建てられたわけではない物件の活用に不可欠といえそうだ。

DIYをメインに物件再生 事業での投資バランス考える
ましや呉服店の納屋を借り受けることになった高楠夫妻は、早速物件の状態をチェックしてもらった。耐久性については問題なかった。だが、断熱性には懸念点があり、地場の工務店に依頼して断熱材を入れてもらった。同市の補助金の上限は350万円のため、そのほかの部分はDIYを中心に改築を進めることにした。
「オーナーからは『納屋にあるものは自由に使っていい』と言ってもらえました。そこで木の引き戸には、納屋にあったガラスをはめ込みました。店内のディスプレーに使っている棚も、元々は着物のたんすだったものを使わせてもらっています」(友和氏)
古坂オーナーによると補助金制度を利用したうえで、DIYでリノベできたこともtroncが流山本町の成功事例になれた理由だという。
「古い建物を借りて新規事業を行う場合、なかなか大きな金額をかけるのは難しい。投資した分の回収が大変になると営業も難しくなりますので」(古坂オーナー)
昨今ではレトロブームの後押しもあり、古い物件を改装して店舗にする例は枚挙にいとまがない。オーナー側からすると所有しているだけで固定資産税の支払いというマイナスを生み出す物件を活用してもらえ、かつリノベで物件の保全もしてもらえるというメリットは大きい。
だが、借り手が安定的、そして継続して事業を行うためには投資金額を抑えることは重要だ。古い物件の再生の場合はそのバランスを考えることが必要なのだ。

千葉県流山本町の取り組み
地域の眠った資源を生かす 市が補助金で起業を後押し
troncの高楠夫妻が申請した「流山本町・利根運河ツーリズム推進事業補助金」は流山本町および利根運河地域の活性化を図るために創設された補助金だ。築50年以上の歴史的建造物を小売店や飲食店、ギャラリーなどに活用する事業者に交付されるもの。改装費は補助対象経費の2分の1以内で350万円を限度に、賃借料は補助対象経費の2分の1で月7万円を限度に最長3年間交付される。
この補助金の設立は、2011年に流山市の井崎義治市長が掲げた「観光交流人口を4年で2倍に」というマニフェストを受けたものだ。流山本町では「歴史を楽しむ散策エリア」としての再生を目指す施策を打ち出した。
流山本町は、江戸時代より「白みりん」の産地として栄えた町だ。1980年以降は衰退し商店も徐々に数を減らしていったが、過去の繁栄を今に伝える建物を再生しながら、飲食店や文化施設を誘致し、散策に訪れる人流をつくり出そうというのがこの施策の肝だ。
2012年に交付を開始して以来、これまで15件の物件が再生、店舗として利用されてきた。

(2026年2月号掲載)





