不動産再生学講座:不動産再生における「日本」と「韓国」の違い

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日本とつながることで、海外に次世代リアルエステートを創るひとたち

不動産業界において大きな変化が起こりつつある。そうした中、「不動産オーナー井戸端ミーティング」を主宰する𠮷原勝己オーナー(福岡市)が中心となり、貸し手と借り手、そして地域にとって「三方よし」となる、持続的でブランディングされた不動産経営を目指す勉強会を有志で開催している。

当連載では、建築・デザインを学ぶ学生たちと、全国から集まったプロフェッショナルが一緒に受講する場として、九州産業大学建築都市工学部で行った全14回の「不動産再生学」と題した寄附講座を紹介。今回は、韓国と日本の不動産再生の実態を比較研究する、東京都立大学 都市政策科 大学院生 Hyun Im (イム・ヒョン)氏の講演をレポートする。

この記事の目次 美味しい日本と、私の「調査」活動
マクロ視点で見る「日本」と「韓国」の決定的な違い
ミクロ視点での不動産再生 ——「定着」の日本、「経済」の韓国
韓国の若者世代が直面する厳しい現実
木浦の奇跡「大丈夫村(ケンチャナマウル)」
不動産は「課題解決のための媒体」

 

東京都立大学 都市政策科学域 大学院生/都市計画・まちづくり研究室
Hyun Im 氏(韓国 Gwangmyeong 光明 City)

美味しい日本と、私の「調査」活動

韓国の光明(クァンミョン)市から来ました、イム・ヒョンと申します。私は韓国で生まれ育ち、大学で都市情報工学を学びました。その後、ソウル研究院で東京とソウルの都市政策比較研究に携わり、都市再生会社での実務を経て、現在は東京都立大学の大学院で饗庭伸教授の下、都市計画を学んでいます。 私の立ち位置は少し特殊かもしれません。韓国で学び、実務を経験しながら、今は日本の研究室に所属している。言わば、日韓の都市計画や不動産事情を探る「調査員」のような存在として、両国の良いところ、課題点を比較しながら研究を続けています。

実は私、大都市よりも「地方都市」が大好きです。8年前に𠮷原勝己先生に出会い、日本の不動産再生の現場を教えていただきました。それがきっかけで、使われていない不動産が綺麗に生まれ変わり、地域の変化が目に見えるこの分野に強く惹かれるようになりました。 今回は、私が愛する「地方都市」を舞台に、海外(韓国)の視点から見た日本の不動産再生、そして韓国で起きている新しい動きについて、マクロとミクロの両視点からお話ししたいと思います。

マクロ視点で見る「日本」と「韓国」の決定的な違い

まず、国家レベルのマクロな計画、つまり「国土計画」から両国の違いを見てみましょう。

日本は2023年、「第三次国土形成計画」を策定しました。ここでは「新時代に地域力をつなぐ国土」というスローガンのもと、人口減少や少子高齢化という構造的な課題にどう向き合うかが主眼に置かれています。具体的には、地域ごとの拠点をネットワークで結び、過密・過疎の格差を解消し、「地域づくり」を進めていくというアプローチです。日本は韓国よりも早く都市化が進み、人口減少局面に入ったため、何かを新しく開発して競争力をつけるというよりは、地域の特性を生かした「効率的な縮小と拠点の強化」に舵を切っているのが特徴です。

一方、韓国はどうでしょうか。韓国でも「第5次国土総合計画」が策定され、「均衡ある発展」を目指している点は日本と同じです。しかし、そこで使われている言葉には少し違いがあります。「新産業」「革新」「競争力」といった、何かを新しくつくり出すような強い言葉が並んでいます。 韓国はソウル一極集中が日本以上に深刻です。そのため、地方に新たな産業や行政機能を移転させ(例えば行政中心複合都市「セジョン市」の建設など)、物理的な開発によって「競争力」を確保しようとする「中央政府主導型」の動きが強いのです。

つまり、日本は「地域主導で、生活やコミュニティーを守るための効率化」を目指しているのに対し、韓国は「経済的な基盤をつくり、生き残るための競争力をつける」ことに重きを置いている。このマクロな方向性の違いが、具体的な不動産再生の現場にも色濃く反映されています。

ミクロ視点での不動産再生 ——「定着」の日本、「経済」の韓国

では、より小さな視点、具体的な不動産再生の事例で比較してみましょう。

日本の事例として、徳島県の神山町を見てみます。ここでは「ワーク・イン・レジデンス」や「アーティスト・イン・レジデンス」といった取り組みが行われています。 例えば、使われなくなった工場をコワーキングスペースに変え、IT企業を誘致する。あるいは、築90年の古民家をリノベーションし、オフィスとして活用する。ここで重要なのは単に建物を直すだけでなく、「どんな人がここに来て、どう住み続けるか」という「地域定着」と「持続可能性」がデザインされている点です。 神山町のある集合住宅では、入居条件を「高校生以下の子どもがいること」「夫婦の年齢合計が◯歳以下」といったように設定し、世代の循環(新陳代謝)を意図的につくり出しています。これは、コミュニティーの維持と安定的な定着を優先した、日本の地域再生に特徴的な「地域づくり」のモデルと言えます。

対して、韓国の事例はどうでしょう。かつて炭鉱の町として栄えた旌善(チョンソン)の古汗(ゴハン)18番街の事例を紹介します。 炭鉱産業の衰退とともに町も活気を失いましたが、ある地元出身者がUターンし、古い空き家を出版社として再生させました。彼は「暗い夜道を何とかしたい」と住民に呼びかけ、おばあちゃんの家をペンキで塗ることから始めました。ここでの特徴は、単に住環境を良くするだけでなく「収益を生み出す仕組み」をセットで構築した点にあります。かつての民宿をホテルとしてリノベーションし、町全体を一つのホテルに見立てる構想を打ち出しました。住民が経済活動に参加し、自立できる基盤をつくる。これが韓国の不動産再生の特徴である「経済活性化モデル」です。

もちろん、日本にも経済活性化型の再生事例は存在し、韓国にもコミュニティー重視の動きはあります。そのうえで、こうした点を踏まえて全体的な傾向の違いを整理すると、日本は「地域定着・コミュニティー維持(長期的変化)」、韓国は「経済自立・競争力確保(迅速な変化)」。以上が、両国の不動産再生における主要な違いだと考えられます。

韓国の若者世代が直面する厳しい現実

さて、ここからが本題です。日本と韓国、それぞれの特徴を理解したうえで、これからの時代に必要な不動産再生とは何なのか。そのヒントとなる韓国の新しいプロジェクトを紹介します。

その前に、韓国の若者が置かれている現状をお話ししなければなりません。韓国の合計特殊出生率は2023年のデータで「0.72」です。ソウルに限れば「0.55」という衝撃的な数字です。これは、簡単に言うと、1組のカップルから0.55人しか子どもが生まれない、つまり人口が急速に消滅していくことを意味します。 背景には、OECD加盟国で最も高い自殺率、過酷な競争社会、そしてソウルの異常な家賃高騰があります。ソウルのマンション平均売買価格は約1億〜1.5億円とも言われ、賃貸契約(チョンセ)を結ぶだけでも数千万円の保証金が必要です。

今の韓国の若者たちは「N放(エヌポ)世代」と呼ばれています。恋愛、結婚、出産、マイホーム、人間関係、夢、希望……数え切れないほどのもの(N個)を「放棄(諦める)」せざるを得ない世代という意味です。地方出身の若者はソウルに行かなければ仕事がないが、ソウルでの生活はあまりに過酷で、疲弊してしまう。しかし、故郷に戻ろうとしても地方は衰退していて戻る場所がない。「故郷を喪失した世代」でもあるのです。

そんな行き場のない若者たちに向けて、「戻れる故郷は、自分たちでつくればいい」と立ち上がったプロジェクトがあります。それが、韓国南部の港町・木浦(モッポ)で始まった「大丈夫村(ケンチャナマウル)」です。

木浦の奇跡「大丈夫村(ケンチャナマウル)」

「大丈夫村」は、日本の映画『リトル・フォレスト』にインスパイアされて生まれました。都会に疲れた若者が、何もしなくても受け入れてくれる場所、失敗しても「ケンチャナ(大丈夫)」と言ってくれる場所をつくる。それがコンセプトです。

築40年以上の空き物件を無償で借り受け、リノベーションして拠点をつくりました。空間としては主にシェア住居としての「家」、何かを作ったり学んだりできるメーカースペースとしての「学校(トカトントン)」、コワーキングスペースとしての「職場(ピカピカ一丁目)」の三つを用意しました。

 

しかし、ハードウェア(建物)以上に重要なのがソフトウェア(プログラム)です。「大丈夫村」では全国から集まった若者(30人×2期など)に対し、6週間のプログラムを提供しました。その内容は非常にユニークです。

最初の2週間は「まずは休もう」ということで、 何もしません。ただご飯を食べて、お互いを知り、星を見て、心を休める。「疲れているんだから、休んでいいんだよ」と肯定することから始めます。

次の2週間は「想像してみよう」ということで、少し休んで元気が戻った後に町を歩きます。「この町で何ができるだろう?」「自分は何がしたいんだろう?」と、自由な想像を広げたり、誰でも先生になれる学校を開いたりします。

そして最後の2週間では「小さな成功をつくろう」を目標に、 想像したことを、チームを組んで実際にやってみます。小さくてもいいから計画を立てて実行し、「できた!」という成功体験をみんなで共有します。

不動産は「課題解決のための媒体」

このプロジェクトの結果はどうだったでしょうか。多くの若者が癒やされ、自信を取り戻しました。そして驚くべきことに、プログラム終了後も多くの若者が木浦に「定着」することを選びました。実際に171名が長期滞在し、34名が完全に移住、15の小さな創業(起業)が生まれました(※講義時点のデータ)。 彼らは空き家を改装してレストランを開いたり、自分の得意なことを生かしてビジネスを始めたりしています。僕も実際に行ってご飯を食べましたが、本当に素晴らしいコミュニティーができていました。

ここで重要なのは「不動産再生」が目的ではなかったということです。 日本の「地域定着モデル」と、韓国の「経済活性化モデル」。この二つを融合させたのが「大丈夫村」です。 ここでは、単に住む場所(不動産)を提供するだけではありません。「定着するきっかけ」と「経済活動のきっかけ(小さな成功体験)」の両方を提供したのです。

従来の不動産再生は「建物をどう直すか」という物理的なアプローチが中心でした。しかし「大丈夫村」は「人の問題(若者の疲弊、生きづらさ)を解決するために、不動産をメディア(媒体)として活用した」のです。 建物というハードウェアを使って、人が休み、学び、挑戦するというソフトウェアを回す。その結果として、自然に人が定着し、経済が動き出し、最終的に不動産や都市が再生していく。

日本には、古くから地域に根ざしたコミュニティーがあり、地域への愛着があります。これは韓国から見ると本当に羨ましい点です。しかし、その愛着ゆえに、外部の人を受け入れることに慎重になりがちな面もあるかもしれません。

「大丈夫村」の事例が教えてくれるのは、不動産再生の主役は「建物」ではなく「人」だということです。 疲れた心を受け止め、失敗を許容し「小さな成功」を応援する。そんな温かいコミュニティーと仕組みがあれば、若者は自然とそこに集まり、新しい活気が生まれます。

日本の「地域を育む力」と、韓国の「生き残るためのバイタリティー」。この二つを掛け合わせることで、人口減少時代の新しい希望が見えてくるのではないでしょうか。

(2026年2月公開)

 

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