ビル オーナー 物語 第1回 青山ビル

賃貸経営歴史

ブランディングで生まれる価値 テナントと共につくる住み心地

青山修司オーナー(49)
(大阪市)

 大正時代に建てられ、国の登録有形文化財に登録されている大阪市中央区の「青山ビル」。祖父から受け継いだ青山修司オーナー(大阪市)は、古いビルを守り、地域活性化にも貢献する。青山オーナーのビル経営術を紹介する。

▲阪神甲子園球場から株分けしてもらったツタで覆われた青山ビルの外観

修繕の知識が必要 手がかかる古いビル

 大阪市中央区、大阪メトロ堺筋線北浜駅から程近い場所に立つ青山ビル。築104年のRC造で、地下1階、地上5階建てのテナントビルだ。青山オーナーと父が2000年に祖父から経営を承継した。今も25のテナントや事務所が入居している現役の登録有形文化財だ。

 外壁は阪神甲子園球場から株分けしてもらったツタで覆われており、駅近くの商業エリアにもかかわらず穏やかに季節を感じることができるのが自慢。建物に一歩足を踏み入れると、竣工当時からの柱や手すりに触れることができる。

 当時の建具を可能な限り残したことによる落ち着きのある雰囲気だ。大正時代を感じる「ここにしかない」趣で、テレビドラマのロケ地として使われたこともあるという。飲食店をはじめテナントに訪れる人が絶えない日常を今日も送っている。

 館内には、随所に大正時代のイタリア製ステンドグラスやガラス窓が残されている。ここは青山オーナーが幼少期から過ごしてきた中でも特に気に入っている場所でもある。しかし、古いビルを守り、活性化させていくことは容易ではない。

 とりわけ修繕は、高い頻度で行う必要があるうえに新しいビルより難しい。古いものを直すことができる専門の大工を探さなければならないし、建具が特殊であるため費用もかさむのだ。

 「修繕の相場も建具も高いです。台風による被害でガラスが割れたことがありました。2階と3階のガラスは、日本にはもうないものだったので海外から取り寄せました」(青山オーナー)。また、古さからくる災害のリスクを軽減するために補強工事をする際は、さまざまな工法をオーナーが学び、自分が正しいと思うものを選ばなければならない。

祖父の教えを守る ビルは「村」、オーナーは「村長」

 「何もしていなければただの古いビルという捉え方もできるでしょう。実際に最新のビルに比べれば設備は物足りません。しかし、この古さを生かしてブランディングすることで価値が生まれると考えています」と青山オーナーは話す。

 青山オーナーは祖父からの教えを今も守り、意識している。建物自体を村に例えて、「オーナーは村長。月1回はテナントと話し、いい村を目指そうよ」というものだ。

 「ビルオーナーもテナントも、どちらかだけでは日々が成り立ちません。テナントと話して環境を改善するとともに、時にはテナントとの共同事業も行っています。

 先日は、オムライス発祥の洋食店『北極星』と劇団、建物がコラボして『大正時代の建物で大正期の演劇とオムライス』というイベントを行いました」(青山オーナー)

 このように、オーナーとテナントでつくる住み心地が功を奏して、入居年数は長い。中には、3代にわたって約70年事務所を構えるケースもある。また、スタートアップで入居した企業が、事業が大きくなってより広い部屋に移動するということもあったという。

▲大正時代のイタリア製ステンドグラス

文化財オーナーで考案 「御財印」で街おこし

 青山オーナーはビルにとどまらず街の盛り上げにも関わる。実は大阪には文化財が多く、国の登録有形文化財建造物の数では大阪府が日本一だという。大阪府の登録文化財のオーナーが集まり、日々の情報交換を行う組織が大阪府登録文化財所有者の会(大阪登文会:大阪市中央区)。事務局が青山ビル内にあり、青山オーナーは、事務局長を務めている。

 20年にはオーナーの皆でアイデアを持ち寄り、御朱印の建物バージョンの御財印を考えた。これはいわば登録文化財のスタンプラリー。観光客などに渡すことで、所有者との会話のきっかけになり、建物の意匠や歴史、デザインにも興味を持ってもらえると考えている。

 街ぐるみで登録文化財をブランディングしていこうとの狙いもあり、青山ビル以外でも、和菓子教室や演奏会などのイベントを仕掛けているという。「登録文化財を巡って、大阪を楽しんでもらいたいです」(青山オーナー)

▲趣のある吹き抜けのらせん階段

(2024年5月号掲載)

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