日本人の名字とその特徴
日本には、約13万種類の名字が存在しています。
日本の名字の多くは、武士の誕生とともに生まれました。武士が戦で名乗りを上げるためです。名字の多くは、武士の住んでいた地名から付けられたため、名字の約8割は地名として日本各地に存在しています。
それ以外の名字は、天皇や殿様から恩賞として賜った名字や、仕事から生まれた名字です。
明治3年に平民苗字許可令が出て国民全てが名字を持つことになりましたが、明治時代に生まれた名字は意外と少ないのです。
ところで、皆さんはテレビや書籍でとても読めないような名字を見かけたことがありませんか。
難読名字は日本にしかない
日本には、一見しただけでは読むことができない名字もたくさん存在しています。
世界中で相手の名字が読めない場合があるのは日本だけだと思います。世界各国の名字は、辞書を引けば読めるのです。
漢字を使う中国や韓国であれば、「金」は「きん」や「きむ」、「朴」は「ぼく」と、本来の漢字の読みです。英語圏であれば、「Smith」は「スミス」であり「エミリー」とは読めません。スペルどおりの読み方です。
しかし、日本の名字はどうでしょう。「一」を「にのまえ」と呼んだり、「小鳥遊」を「たかなし」、「四月一日」を「わたぬき」と読んだり、漢字辞典を引いても全く読むことができません。
皆さんは、自分で自分の名字を呼ぶことはありますか? まずないと思います。名字は相手に読んでもらうことで、役立つものです。最初から、相手に読めないように付けた先祖はいなかったはずです。
では、なぜ読めないのか? これは、読めないのではなく、読めなくなってしまったのです。
時代とともに変わる言葉
名字が読めなくなってしまった原因の一つに、時代の変化があります。時代とともに、文化や社会、言葉も変わっています。言葉が変わるのに合わせて、名字も時代に合わせた読み方に変えていれば、難読な名字にはならなかったと考えられます。
例えば「台」という名字。今読めば「だい」となりますが、名字の読み方は「うてな」です。古代では「台」を「うてな」と読んでいたからです。
同じように、「土師」という名字も「はじ」と読みますが、「土師」とは、土器や輪
を製作した人々が名乗った名字です。現在では、茶碗作家や陶芸家と呼んでいますので「土師」という言葉は使いません。しかし「土師」で賜った名字であり、先祖が名乗った読み方は変えません。
結果として、どれも現代では難読な名字になっているというわけです。
名字研究家 髙信幸男

1956年茨城県大子町生まれ。
司法書士、名字研究家、日本家系図学会理事、茨城民俗学会会員、日本作家クラブ会員。高校1年生から名字の研究を始め、今年で52年目を迎える。現在、講演会やテレビ番組で名字の面白さを伝える活動を行っている。
(2025年6月号掲載)