欧米のスタンダードを日本にも

コラム欧米に学ぶ 土地活用#連載

<<欧米に学ぶ 土地活用のスタンダード>>

欧米のスタンダードを日本にも

 前号に記述したマイアミの夫婦チームであるアンドレス・ドゥアニーとエリザベス・プラツァー・ザイバーグの建築設計事務所・都市計画コンサルタント会社「Duany Plater–Zyberk & Company(ドゥアニー・プラツァー–ザイバーグ・アンド・カンパニー 以下、DPZ)」による取り組みは、1980年代にフロリダ州のまちシーサイドで始まりました。それ以来、まるで燎原りょうげんの火のように、世界的な動きになって、とどまることを知らぬかのように拡がっています。DPZによる取り組みが、全米だけでなく世界中に共感を呼んで大きなうねりになっているのには、現代の都市問題に応える重要な鍵がTND (Traditional Neighborhood Development:伝統的近隣住区開発)と呼ばれる、その取り組みに示されているからです。

セレブレイションは開発前からダウンタウンの建設をすることにより、開発当初の入居者にも、まちが成熟したアメニティー(環境や設備)を供給する方法を採用するという、従来のTNDの常識を覆しました。 まさにハワードが描いた夢の続きです。

 また、かのウォルト・ディズニーカンパニーが20世紀から21世紀にかけてフロリダ州オーランドで取り組んだセレブレイションというTNDも、住宅地開発におけるエベネツァ・ハワードの「夢」を実現させたものであるということが、現地を視察すれば比較的容易に確かめることができます。

 セレブレイションにおける土地の所有形態はフリーホールド(土地所有権)によるもので、デベロッパーが土地付き分譲を行い、土地付き住宅所有者(ホームオーナー)全員が強制加入する非営利法人住宅地環境管理団体(HOA:ホームオーナーズアソシエイション)を結成し、同団体が地主の機能を担うというものです。

 つまりデベロッパーはHOAに開発内容を管理規約(CC&R:規約開発条件および制限事項)として引き継がせることによって、英国での法人地主がリースホールド(定期借地権)による都市経営を実施したのと同様の効力を持つ都市経営を実現しているのです。

 このように8月号で説明したハワードのガーデンシティの考え方は世界中に拡がり、現代においても具体化できる理論であることが各国の住宅地開発によって実証されているといっていいでしょう。これらはすべて歴史の中で吟味されてきた理論であるため、日本ではどのように実践できるのかを考えていくに値すると私は思っています。

リースホールドとフリーホールド
どちらが良いか

 英国のリースホールドと米国のフリーホールドのどちらを用いるかは、その地主の状況とニーズによると思います。

 日本での通常の土地取引形態であれば、フリーホールドで不動産事業者が仲介し、デベロッパーが購入して切り売って終了、もしくは建て売りや売り建てとして、購入者の手に渡るわけですが、これまでもそのほとんどが30〜50年後の産業廃棄物となってきたように、この一連の流れからは「豊かな生活」や、昨今ほとんどの企業が流行歌のようにうたっている「サステナブル」な住環境が生まれることは絶対にありません。

さまざまなアメニティーが充実しているセレブレイションのダウンタウン

 今回の主たるテーマである「地主が地主であり続ける」という視点から考えると、リースホールドをベースとした運用は、現代の住宅取得事情に対応する有効な手段であるといえるでしょう。住宅購入者にとっても、土地を所有せずに家を持てるという選択肢は、経済的な負担を軽減できる点で支持を得やすくなっています。

 また仮に相続が発生している場合には、あらかじめ相続税額を試算し、それに見合った分譲住宅地を同一の住宅地内に設けて販売することで、相続税対策としても一定の効果を見込こむことができます。

 リースホールドの契約期間については、地主が固定資産税を負担することが可能な最長の99年とし、その期間内においては賃借人に地代の税負担を負わせない形が、それぞれの立場のニーズに合致すると考えられます。(100年以上の契約になると賃借人に固定資産税の支払い義務が生じるため、注意が必要です)

 さらに、リース期間が満了を迎えた際には、建物を解体せずにそのまま土地と共に地主に返還する仕組みを採用します。この時点で地主は建物という大きなキャピタルゲインを手にすることとなります。仮に借地人が契約の延長を希望する場合には、その時点における資産価値(住宅地としての価値の上昇、物価上昇分や不動産市場の変動を反映)に応じて、土地および建物を対象とした新たな賃貸借契約を結ぶことが可能です。

 住宅地経営が継続的にうまく機能している場合は、地主にとってさらに大きな利益を生むこととなるでしょう。

ボウクス(川崎市)
内海健太郎 代表取締役

1967年、川崎市生まれ。92 年、父が経営する建材卸売事業者の内海資材(現ボウクス)に入社。94 年にキャン’エンタープライゼズ設立。2006 年、内海資材を事業継承し、ボウクスに社名変更。代表取締役に就任し、現在に至る。

(2025年 9月号掲載)

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