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<永井ゆかりの刮目相待:9月号>
連載第96回 志を持つパートナー探し
まちを育てる不動産会社
7月にNPO法人CHAr(チャー:東京都大田区)のイベントに登壇させてもらった。このイベントは不動産会社向けで、CHArのパートナー企業による地域密着型不動産の新たなモデル「まちなかデベロッパー」の活動発表があった。
このまちなかデベロッパーという考え方が新鮮だ。この新モデルのプレーヤーは、地域に根差し、人々の暮らしを豊かにしながら、将来に向けてまちを育てる不動産関連事業者だ。土地、建物のハードだけでなく、人、自然、文化、産業といったソフトも含めたまちの資源を活用し、コミュニティー形成や小商いの活性化などを積極的に行うのが特徴だという。
今回発表したパートナー企業は、従来の不動産会社の枠を超えた活動をしている。例えば、埼玉県戸田市の平和建設では地域のフラッグシップになるような店舗付き賃貸住宅を住宅地に建てた。そこにアクセサリーショップやスイーツ店を誘致しにぎわいができた。ときどき開く自社主催のマルシェも好評だ。相模原市にある東郊住宅社は管理物件の入居者やオーナーを対象とした食堂を運営しているが、さらに入居者らの生活における困り事の解決をサポートするサービスを提供。「不動産会社なのに、入居者にモーニングコールをしています」と同社の池田峰社長は笑顔で話していた。
点から面への活動
CHArではこうした不動産会社をもっと増やすために、パートナー企業の発表とゲストスピーカーによるセミナーを年に1回実施している。パートナー企業の発表を聞いて思ったのが、身近なところから地域住民の暮らしを良くしていこうとする不動産会社の存在は大きいということだ。
不動産オーナーの場合、所有建物が一棟一棟独立しており、点での活動になりがちだが、不動産会社であれば面での活動がしやすい。まちを育てようという志のある会社と共に活動することは、オーナーにとってもメリットが大きい。
不動産は文字どおり動かせない資産だ。そのため、地域に根差して不動産を活用してきたオーナーにとって、その地域が衰退していくことは、資産価値の減少につながる。そのことに気付いて、建物の価値だけでなく、地域の価値を高めるための活動をするオーナーは近年増えており、本誌でもたびたび紹介してきた。
こうした動きが、結果的には高齢化や住民同士の交流の減少などの地域が抱える問題の解消につながっているケースが目立つ。
ただし、自身が主体になって動くことができるオーナーは一握り。やはり、地域を一緒に盛り上げるパートナーの存在が必要となる。冒頭のような活動があることからも不動産会社が変わってきたことはわかる。少子高齢化の時代、地元から人口が流出しないよう魅力的なまちづくりをするために、できることから始めている。
オーナーが長期的に所有不動産の価値を高めていくうえで重要なことは、そのような志を持つパートナーをつくることではないだろうか。
永井ゆかり

Profile:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「地主と家主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。
(2025年 9月号掲載)