両利き経営のススメ:あの会社はなぜ変われないのか?

コラム両利き経営のススメ

<<両利き経営のススメ VOL.3>

あの会社はなぜ変われないのか?─成功のわなと組織文化

 「両利きの経営」とは、既存事業の効率化(深化)と、新たな機会の模索(探索)を両立させる手法です。

 探索は持続的成長に不可欠ですが、多くの経営者が実行段階で頓挫しています。中小企業庁による「中小企業白書(2023年版)」から新型コロナウイルスの感染拡大以降の事業再構築の実施状況を見ると、新分野に進出した割合が60・3%と2022年に最多を示す一方で、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が25年に発表した「世界競争力ランキング」では、日本は総合35位と企業の運営様式や意思決定の弱点が示唆されました。

二つの原因に阻まれる探索

 なぜ探索はこれほど難しいのでしょうか。皮肉なことに、その原因は過去の成功にあります。

 優良企業ほど、過去の成功体験に頼りすぎて変化への感度を失う「成功のわな」に陥りがちです。経営組織論の大家であるスタンフォード大学のジェームズ・マーチ名誉教授が指摘したように、企業は不確実で結果が出るのかわからない探索よりも、目先の収益が見込める深化を優先します。かつて写真フィルム市場を席巻した米イーストマン・コダック社は、フィルム事業(深化)に固執し、デジタル化(探索)が遅れ破綻しました。このように安定収益下では、事業構造や資産ポートフォリオを変更するリスクを取りにくくなります。

 成功のわなを強固にするのが「組織文化」の壁です。組織文化論の第一人者であるマサチューセッツ工科大学のエドガー・シャイン名誉教授は、文化を組織内の行動規範、すなわち「仕事のやり方」と定義しました。歴史ある組織では「現状維持バイアス」が働き「先代のやり方」などが新機軸を阻むのです。

 このバイアスは「関係性の固定化」によってさらに強まります。長年付き合いのある金融機関や税理士などはリスク回避を重視する傾向があり、彼らからの「前例がない」「リスクが高い」といった助言は、結果として現状維持を後押しすることになりがちです。

客観視によって変革を生む

 そもそも深化と探索は管理手法も異なります。ハーバード・ビジネス・スクールのロバート・サイモンズ教授の理論が示唆的です。効率重視の深化では「計画どおりの実行」が管理の中心ですが、変化の激しい探索では「新たな機会を探るための対話と学習」が重要になります。

 最大の問題は、深化の手法で探索を管理しようとすることです。短期収益性や厳密な計画を求めると、既存事業の論理が新規事業を殺してしまいます。相反する活動の間には必ず緊張関係や対立が生じるため、これを調整する仕組みが必須です。

 このわなから抜け出すためには、自社の仕事のやり方の偏りを客観視し、意図的に変革する必要があります。

解説
ボルテックス(東京都千代田区)
安田 憲治 主席研究員

一橋大学大学院、経済学研究科修士課程修了。データサイエンスを活用した経営戦略の策定や人材育成に注力する。現在、ボルテックスにて、財務戦略やAI(人工知能)データ利活用、論考執筆に携わる。多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員。麗澤大学国際総合研究機構客員研究員。

(2026年 1月号掲載)

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