- HOME
- コラム
- 欧米に学ぶ 土地活用
- 資産価値を向上させるための仕組みづくり その4
<<欧米に学ぶ 土地活用のスタンダード>>
資産価値を向上させるための仕組みづくり その4
2025年10月号で紹介した資産価値を向上させるための四つの仕組みづくりから、最後にエコロジカルについて説明します。
4.エコロジカル(循環体系)
米国で資産価値が上昇している住宅地の特徴は、人工的な貯水湖、貯水池や雨水利用など、生命の源である「水」と親しむ住環境を積極的に取り入れていることです。
住宅地によっては、湖の周囲でハイキングやジョギング、釣りなどを楽しみ、住民らが自然の景色を満喫することができるような設定となっています。日本では、安全面から景観を損なう人工的なフェンスが設置されてしまうことが多くあります。しかし、米国では可能な限り自然景観を保つ文化が根付いているため、景観を優先する傾向が強く存在します。
この違いは、日本では都市部や住宅地での安全確保や法規制が過剰に優先される傾向があるのに対し、米国では住環境の快適さや自然との調和を重視する考え方が強く影響しているためです。
米国では住宅環境と水の関係性が重要視され、日本よりも 非常に強く計画思想として確立しています。
また米国グリーンビルディング協会(USGBC)が運営する「LEED(Leadership in Energy and Environmental Design:リーダーシップ・イン・エナジー・アンド・エンバイロメンタル・デザイン) 」によって、建物や都市開発の環境性能は評価・認証されます。LEEDは、世界のデベロッパーや都市が最も広く採用している国際的な基準であり環境認証制度の一つです。

湖に沿って立つアイオンの住宅(サウスカロライナ州)ウォーターフロントの住宅は希少価値があり高値で取引される
さらに、世界にはLEED以外にも、英国発の「BREEAM(ブリーム)」、生態系を重視する「SITES(サイテス)」、健康性を評価する「WELL(ウェル)」、環境自立型の「Living Community Challenge(リビング・コミュニティー・チャレンジ)」など、さまざまな国際認証があります。それに加えて、新興国で普及する「EDGE(エッジ)」や、日本独自の制度である「CASBEE(キャスビー)」も、住宅地の環境価値を示す指標として活用されています。
しかし、それらの存在をどれだけの日本人が認知しているのかという点には、まだまだ大きな課題が残っています。
生物生息空間をつくり、自然の循環体系を再現する
自然環境における水質の体系を調査し、可能な限り自然の水景を住宅地の環境に取り入れることは、これからの人間環境づくりにおいて重要な手法となります。これこそがビオトープ(さまざまな野生生物が共存・共生できる空間)計画の基本的な考え方です。
住宅地開発される敷地に降る雨水や、生活の中で持ち込まれる水道水は、極力その土地に生息する動植物の水源として活用し、敷地内では水量調整を兼ね備えた循環式の小川を計画します。そこでは魚類や水生生物、水生植物が育まれ、さらに虫や小動物が自然に集まる環境を整えます。

コモングリーンの中に造られたビオトープ。水かさが増せば池となって貯水し、小川となって住宅地の中を下流へと流れる(ワシントン州イサクアハイランド)
また敷地の周囲には地域本来の植生(樹木や草花)を配置すれば、昆虫や鳥が訪れるような地域の自然を再現した生態空間を形成します。こうした取り組みによって、そこに暮らす人々に豊かで潤いのある生活環境が提供されるのです。
ある程度の大きさの貯水池では、エアレーション(汚水処理の基本操作で、水中汚物粒子を酸素に接触させるために空気を吹き込み、機械的攪拌によって酸化を促進し、好気性微生物による分解作用を期待するもの)効果を生む大きな噴水を設けることができます。これにより、水質改善だけでなくノスタルジックな雰囲気の演出にも寄与し、住宅地開発のTND(トラディショナル・ネイバーフット・ディベロップメント)計画理論やニューアーバニズム(新都市主義)の理念にも大きく貢献するシステムとなるでしょう。
自然の起伏を壊さずに 利用する造成
前述のように、自然の循環体系を大切にするためにも、丘陵や湖沼でも、もともとの地形を尊重し、造成工事が最小限で済むように計画されることも大切です。
日本の宅地開発はひな壇造成されるケースが頻繁にありますが、雨水の流れが敷地境界で妨げられるようなことはないようにしなければなりません。
わが国においては住宅の建設のために無理に宅地を平たん化し、コンクリート擁壁で地形を押さえ込むことが一般的です。その結果、景観は人工的になり、自然との調和が失われてしまいます。一方、敷地の地形に合わせて工夫して建てられる建物は、自然に景観に溶け込み、調和の取れた美しい景色を生み出すだけでなく、コスト面でもはるかに効率的となります。
住宅地に公園を設けることも重要ですが、公園の中に暮らしているかのように感じられる自然の起伏を生かした優しいランドスケープを計画することで、人にも環境にも豊かさをもたらすことができます。

丘陵地の傾斜を生かした4連タウンハウス(メリーランド州ケントランズ)

自然の起伏を利用したランドスケープ(ワシントン州ノースウエストランディング住宅地)
ランドスケーピングにおいて重要なのは、その土地の土着性を尊重することです。例えば、米国ではフロントヤードに芝を植えることが一般的ですが、水が不足する砂漠地帯の米ネバダ州ラスベガス郊外では、砂漠の環境に適した植栽が用いられます。ここでは、サボテンなど乾燥地帯に自生する多肉植物を中心に配置し、地域固有の植生を調査したうえで、本来の自然環境に合った景観をつくり上げています。

砂漠の植生を意識したラスベガスの住宅ファサード
ウォルト・ディズニーが 追求した思想
ウォルト・ディズニー・カンパニーのフロリダ州における「セレブレーション」の開発は、単なる住宅地やテーマパークの建設にとどまらず、人間環境と地球環境を統合的に考えるエコロジカルな視点に基づいています。同社のこれらの背景には、これまでのテーマパーク建設で培ってきた経験があります。地球環境全体との調和を図ることと、人類が 文明社会として築いてきた豊かさをさらに追求することを目指したのです。
第2次世界大戦後の郊外住宅地開発では、自然環境や人間関係を取り入れる試みが不十分で、結果として自然破壊だけでなく、家庭崩壊や犯罪の多発など、人間関係そのものが荒廃する事態も生じました。その点、ウォルト・ディズニーが追求してきたテーマは、ディズニーワールドにおいても一貫して「自然と人間社会との調和」でした。

メキシコ湾に面した「ウォーターフロント」型住宅地では植生は湿地や湿潤林の植物が多く、芝や庭木よりも湿地対応の植物を使用される(フロリダ州パレットタウン)
戦後の⽇本の郊外型住宅地開発でも⽶国と同様に、⾃然破壊や⼈間関係の荒廃を招きました。その後、ディズニーの理念はそのような反省から、⾃然と⼈間社会の調和を重視し、環境的にも社会的にも豊かで持続可能な暮らしの実現を⽬指しているのです。そのことが世界中から評価されている理由だといえるでしょう。
このように、「水」を生活環境に取り入れていくことは、景観を良くしていくことはもちろんですが、地域住民の身体的・精神的健康を支えるとともに、地域の生態系を守る重要な基盤となり、持続可能なコミュニティーの創出に大きく貢献するのです。

住宅地の中心を通る人工河川。この水はダウンタウンに設置される人工湖へとゆっくりと流れ、住む人々に潤いを与えている(フロリダ州セレブレーション)
ボウクス(川崎市)
内海健太郎 代表取締役

1967年、川崎市生まれ。92 年、父が経営する建材卸売事業者の内海資材(現ボウクス)に入社。94 年にキャン’エンタープライゼズ設立。2006 年、内海資材を事業継承し、ボウクスに社名変更。代表取締役に就任し、現在に至る。
(2026年 2月号掲載)





