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<永井ゆかりの刮目相待:3月号>
連載第103回 承継するということ
地域に対する責任感
地主の取材をするようになって、20年余り。さまざまな歴史を持つ人たちに話を聞いてきた。その中で感じることは、地主の栄枯盛衰。いつまでも地域で存在感のある地主で居続けるのは難しいということだ。
相続が発生すると、相続税を納付するために、土地を手放さざるを得ない地主は少なくない。1988年以前は最高税率が75%に達しており、現行の55%よりもはるかに高かった。地主は3代で資産をなくすといわれるゆえんだろう。
資産を守るということが昔は今以上に難しかった。だが、手放す理由は、相続税だけではない。地域のために土地を提供する目的で手放すケースもある。しばしば聞くのが、その地域に必要な「道路」を造るために土地を提供したという話。道路は地域住民の生活にとっても、また経済発展のためにも重要だ。ただ一方で、一族にとって大切な資産である土地を手放すことは、難しい決断にちがいない。道路となれば、結構な面積の土地を提供することになるからだ。
それでも、その時の当主が土地を提供したのは「地域における地主の役割」を考えたからだろう。例えば埼玉県で430年続く鈴木家の13代目は私財を投じて道路を建設した。そのことを誇らしく話してくれた16代目の鈴木早苗氏は「人には生まれながらにして役割がある」と言われて育ってきたという。その話からも、鈴木家が代々「地主の役割」を意識してきたことがわかる。その地域に対する責任感があるからこそ、土地は減ったとしても「地元の名士」といわれるのだろう。
無形の資産こそ重要
資産の承継は、地主にとって重要なテーマだ。いかに自分の代で受け継いだ資産を守って、次の代へ引き継いでいくのか。そのために、相続税をどのように減らすかということが命題になっている家が多い。
だが、資産を減らさずに次の代へ承継するのは相当難しい。専門家のサポートを受けて、税務面でいろいろ工夫することはできるが、やはり限界はある。それでもなお、資産を残そうと尽力する地主は、先祖が地域において何をして、どのような存在だったのかを理解している。つまり、不動産という目に見える資産を承継しているだけではなく、先祖が大切にしてきた哲学も含めて引き継いでいるかどうかが重要になってくるのだろう。
その家の哲学があると、相続税の納付のために土地を手放さざるを得なかった場合に、売却先の選定にこだわる。売却先が、これまで先祖が大事にしてきた土地をどのように活用するのかを、しっかり見届けるのが地主の役割だからだ。
「心で見なくちゃものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは目に見えないんだよ」。サン=テグジュペリの「星の王子さま」に出てくる言葉だ。地主の事業承継についても、見えない資産を大切にすることこそが、家の資産を承継する際に必要ではないか。
永井ゆかり

Profile:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「地主と家主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。
(2026年 4月号掲載)






