座談会:設備のアップデートと資産の組み換えで維持・発展

相続事業継承

<<オーナー座談会 後継ぎの決断>>

座談会:賃貸経営を成功させた異業種からの転換】に続き、静岡県在住の3人のオーナーから、不動産事業を選択した理由や先代への思い、そして次世代への承継について話を聞いた。

─賃貸経営が軌道に乗り始めてからはどうでしたか。

吉沢 本業が振るわない中で、キャッシュフローがプラスになる事業に出合えました。不動産事業が面白くて仕方なかったですよ。私たちが不動産事業を始めた20年前は、利回りも今と比べものにならないくらい高かったです。中古物件なら10~15%は確実に出ていた時代。私があまりに不動産にのめり込んでいたもので、父は「文房具店の経営がおろそかになっている」と言っている時もありました。最終的には「不動産事業をやっていてよかった」と笑顔でしたがね。

松永 収益が上がってくれば、息子がやっていることにも肯定的になるのでしょうね。

藤田 私の場合、父のガンが見つかり、あれよあれよという間に亡くなったことがきっかけでコンビニ事業に入ったわけですが、父も事業の先行きに不安を感じていたと思います。息子に継がせていいものかという思いはどこかにあったのではないかな。家業に入ってから10年でコンビニ事業からは撤退しました。

松永 ガソリンスタンド事業は、両親の時代までは粗利益が高く、働けば働くほどもうかった時代ですから、母は朝から晩まで働いていました。でもそうした時代ではなくなりましたからね。すでに持っている土地を活用して不動産事業に移行しようというのは自然な流れだったのでしょう。

吉沢 私は会社名を文房具店を営んでいる時と同じ「大平堂」という屋号で続けています。何かしら残してあげたいという気持ちがあって。屋号は変えず、事業内容を変えた状態で、私は「第二創業」と呼んでいます。こういう呼び方をすることで、親から引き継ぎつつも事業を閉じてしまったことに対して、自分自身を納得させているのでしょうね。

松永 うちも「松永油化商事」という屋号は残したままですね。10年ほど前、父に屋号について相談したところ「歴史のある屋号なので変えてはいけない」と言われたので変更できずです。

藤田 うちは反対に、代が変わったことを対外的に見せるためにも屋号を変えました。自分なりの覚悟を表した部分でもありましたね。

─賃貸事業を始めて20年。現在も高稼働での経営を維持できています。その秘訣ひけつは何でしょうか。

松永 大規模修繕はもちろんのこと、設備のアップデートを積極的に行っています。私の物件は、すべて新築で建てていたとはいえ、一番新しいもので築19年たっていますから。特にインターネットの速度は気にしています。自分の娘を見ていても思いますが、今の若い世代にとってネットの通信速度が遅いのはトイレの水が流れないのと同じくらいストレスになるのですよ。

藤田 設備の入れ替えについては同感です。それから、私たち3人に限らず、賃貸経営が順調なオーナーは人付き合いもうまい。特に、仲介会社との関係性は大事ですね。内見希望者が現れたとき、営業担当者にいかに自分の物件を思い出してもらうかと考えながら、仲介会社には差し入れを心がけています。

吉沢 差し入れというと、私は仲介会社から「シャトレーゼの人」と呼ばれています(笑)。差し入れを必ず菓子専門店のシャトレーゼで買っていくのです。同じ商品を持っていくことで、たとえ担当者が不在でも「ああ、吉沢さんが来たんだな」と印象付けられる。

松永 連想ゲームのように思い出してもらうためにも、ほかのものに変えるわけにはいきませんね。

吉沢 ただ、それでも所有物件の築年数がだんだん古くなるにしたがって、入居付けが難しくなってきています。今は、テナントや入居者とコミュニケーションを取り、そこで得た人脈を使って入居者を見つけています。それと同時に、新築に移行しながら資産の組み換えを始めました。


─資産組み換えは、その先の事業承継を見据えていますか。

藤田 いわゆる「負動産」のような手のかかる物件を子どもたちに残さないようにという意識はあります。今は物件価格も上がっていて、売却向きの時代だといわれています。中古で購入して15年ほど所有した物件も売却益を出すことができました。私は物件の所有エリアを変えて、近年では名古屋市に2棟15戸の物件を購入しています。人口を鑑みても今後大きく家賃が値崩れしないと考えるからです。

松永 手間のかかる不動産の整理という意味では、私の場合は底地の整理がそれにあたるといえそうですね。妻からも「専門知識が必要になる物件はあなたの代できれいに整理しておいてほしい」と言われました。


─次世代には不動産賃貸事業についてどのように伝えていますか。

松永 娘は2人とも物件の掃除をしています。掃除というのは所有物件を知るのに効果的だと思うのです。それに入居者に会えばあいさつする。そうすると「放置自転車がありました」といった困り事も耳に入るわけです。

吉沢 うちはめいを養子にしています。同じく、進んで物件の掃除をしていますね。将来、自分のものになると思っているからか、積極的に関わっているようです。

藤田 うちの息子も大学生になり、植栽の伐採作業などの力仕事を手伝ってもらえるようにはなっています。でも、必ずしも不動産経営を継がなくてもいいと思っています。次世代がやりたいことを見つけたときに、それを支えるベースになるのが家賃収入なのではないかなと。その点、資産性の高い物件に組み換えておけば、経営に大きく手間を割く必要がなく、やりたいこととの両立もできると思います。

吉沢 それで息子が「コンビニをやりたい」と言ってきたらどうしますか。

藤田 それはちょっと話し合いが必要ですね(笑)。

(2025年10月号掲載)
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