会社での冷遇がきっかけ 収益の柱を増やすための不動産

相続事業継承

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会社での冷遇が家主業のきっかけ
収益の柱を増やすための不動産

 「今のままではこの会社で 歳を迎えることはできないかもしれない。本気になって別の収入源を考えなくては」

 今から 年以上前、当時60代半ばの林広徳オーナー(神奈川県藤沢市)はそう感じていた。新卒でプラスチック部品の専門メーカーに入社以降、営業職として順調にキャリアを積み、若くして取締役にまで昇進。会社の経営を担う人材としての地位を確立していたが、ある日突然「契約社員」に降格されてしまったのだ。
「いわゆる『社内政治』に巻き込まれた形でした」(林オーナー)

林広徳オーナー(神奈川県藤沢市)

 契約は1年ごとに更新し、目標を達成できなければ契約終了。「まさか、解雇まではされることはあるまい」。そんな思いを心に持ちつつも、一方で「定年まで働き続けることはできないかもしれない」という不安も感じていた。とはいえ「契約社員」といえどもフルタイムの出勤では副業もできない。

 そんな林オーナーに2016年、転機が訪れた。父親が亡くなったことで相続が発生。父親が所有していた区分マンションを引き継ぐことになったのだ。

 「不動産会社とやりとりをしていく中で、自分でさほど手を動かす必要もなく、毎月の家賃が入ってくる状況を見て『不動産賃貸事業なら会社員と兼業でもやっていけるのではないか』と思いました」(林オーナー)

 これがきっかけとなり、林オーナーは副業投資として賃貸経営を開始することに決めた。

ファミリー物件に絞り安定化

 賃貸経営を本格的に始めるにあたって、林オーナーはその方向性としてファミリー向け物件に狙いを定めた。

 父親から受け継いだ埼玉県川越市の区分マンションは広さが75㎡あり、東武鉄道東上本線川越市駅から徒歩5分程度という立地。近隣には小中学校もある。結果として退去が少なく、安定した経営ができている物件だった。そこで、ファミリー向け物件、かつ近くにスーパーマーケットや商店街、学校がある物件のみを選んで購入することにした。

 「目先の利回りを追求するなら、ワンルームの1棟アパートを購入するのがいいでしょう。ですが、その間取りでは競合も多く退去も頻繁。将来も長期的に安定経営が見込めるファミリー向け物件に絞ることに決めました」(林オーナー)

  16年12月には、相続した金融資産を使って一つ目の物件を4000万円で購入。JR藤沢駅から徒歩6分の場所にある72㎡の区分マンションで、最上階のペントハウスだった。ワンフロアを独占している物件であることに引かれた。賃料は 万円という高家賃帯だが、高所得の入居者を獲得。林オーナーの狙いどおり長期入居となっている。

▲初めて購入した区分マンション

  17年、今度は融資を受けながら、続けて2棟のメゾネット物件を購入した。どちらも戸建て感覚で住める、自分が住みたいと思えるという視点を大事にした。また土地値で変えることもあり、購入に踏み切った物件だ。

 1棟目は横浜市戸塚区にある物件で、219㎡の土地に3戸のメゾネットが立つ。駅から徒歩 分とやや遠いものの、駐車場が広く確保され、それぞれ専用庭がある点にメリットがあると考え、4200万円で購入し、1戸あたり9万円で貸し出している。

 2棟目は神奈川県海老名市にある2戸のメゾネット物件。もともとは、実需の2世帯住宅だった物件だ。そのため購入後には、賃貸住宅としての快適性を高める設備投資を行った。

 「水回りの中でもお風呂はきれいなほうがいいと思い、ユニットバスを新しいものに入れ替えました。そのほか、4人が暮らしても十分な大きさのげた箱を入れたり、安全性を考えてテレビモニター付きインターホンを付けたりと、300万円ほどかけてリフォームを行いました」(林オーナー)

 この物件も8万円の家賃で安定的な長期入居を実現することができている。

▲家族の靴が多いことを想定してげた箱を大きくした

会社経営の柱を増やす

 こうして相続からわずか2年の間に、区分2戸とメゾネット2棟の、計4物件を所有する不動産オーナーになった林オーナーだったが、その後会社勤めで、また大きな変化があった。というのも、 18年に冷遇時代が終焉しゅうえんを迎え、再び執行役員として忙しく動き回る生活に戻ったのだ。そして20年には取締役に復帰、さらに21年には社長に選ばれた。契約社員への降格から15年以上が経っていた。

 現在はトップに就任し事業をけん引する一方、会社として不動産を購入することも視野に入れているという。そこで、外部からコンサルタントを招き、不動産事業の投資案件の精査や案件の発掘を依頼している。

 「社員の中には、余計な新規事業を始める必要はないという考えを持つ人もいます。しかし、よく話し合い社員にも納得してもらいながら不動産事業を展開していきたい」(林オーナー)

 最近では自身でも、賃貸住宅以外にも複数の柱を持つべく、コワーキングスペースなどのフランチャイズチェーン(FC)ビジネスへの投資のほか海外不動産への小口投資や株式投資を行っている。

 個人としても会社としても、目指すところはバランスの取れた資産形成だ。

(2026年1月号掲載)

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