不動産は、相続の際に簡単に分割できない財産です。また賃貸物件や底地は、入居者や借地人という人・地域とのつながりがある「事業」でもあります。先祖代々受け継がれてきた土地に対する思いがある人もいるでしょう。だからこそ、相続や資産承継に悩むオーナーはとても多いです。
「地主と家主」では、相続を経験した多くの地主や、相続の専門家にインタビューしてきました。そこで、相続や資産承継に悩むオーナーの役に立つ記事を編集部がピックアップ。厳選した10本をご紹介します。
1.父と子で底地整理し、次の世代へつなぐ
底地の扱いに悩むオーナーは多い。内田健オーナーは父と連携して底地の所有権を取り戻してきた。
内田オーナーの父が底地の整理を始めたのは55年ほど前。当時、内田家の不動産資産1万600㎡のうち約1400㎡が底地で、3800㎡は貸し農地だったため、相続が発生する前に整理する必要があったのだ。
底地整理の最大のコツは、借地人側から買い取りを言い出してもらうことだ。「『うちはお貸ししたままで問題ありませんが、もし困っていたらご相談ください』と話していました」(内田オーナー)
その結果、相続までの間に全体の8割くらいの借地権を買い戻すことができた。「残りの底地は約250㎡ほどですが、私の代で所有地に戻せればと考えています」と内田オーナーは話す。地主としての仕事は、一人息子へのバトンタッチも見据えつつまだまだ続いていく。
2.相続税を圧縮し、税額を7億円から2000万円に抑える
横浜市鶴見区で地主として800年以上続く塩田家。塩田家が手がける不動産事業の後継者に、現当主である塩田真人オーナーが指名されたのは今から約30年前だ。後継者指名による事業承継にあたり、最大の課題となったのは、近い将来支払うことになるだろう巨額の相続税だった。当時の塩田家の不動産資産は、駐車場1カ所と自宅以外は底地という構成。企業に貸している広大な土地もあったため、何も対策をしなければ7億円もの相続税を課せられる状況に陥っていた。
そこで塩田オーナーは「プロジェクト相続税ゼロ」として相続税の圧縮に取り組んだ。ポイントは「底地の整理」「借り入れを増やす」「資産の組み換え」「高付加価値物件」「空間プロデュース」の五つ。
「守るべきは『土地』ではなく『家』です。家を守ることはすべての土地を守ることではありません。塩田家の継続と発展を考えれば、土地の歴史にこだわらず、家の所有不動産の価値を上げていくことこそが重要だと考えています」(塩田オーナー)
こうした対策が功を奏し、相続税を2000万円に抑えることができた塩田オーナー。現在は「地主世話人」として、家の事業を伸ばした経験を生かし、ほかの地主の資産運用の相談にも乗っている。
3.先祖代々の土地を活用する方法を模索する4代目
江戸時代から続く地主・杉本家で三人きょうだいの末娘として育った杉本美紀オーナーは、20年程前から母を手伝う形で賃貸経営の世界に足を踏み入れた。
現在はRC造1棟、木造2棟、鉄骨造1棟の集合住宅と、平屋の戸建て1戸の計5棟36戸の賃貸住宅、工場1カ所を所有する杉本家だが、元をたどると武士の家系だ。もともとの土地と建物を守り続けてきた杉本家の転機となったのが、友人の誘いで杉本オーナーが「名古屋大家塾」に参加したことだった。
「先祖が残してくれた土地を活用して、幸せにならなければ」と考えるようになった杉本オーナーは、自身が学んだことを母に積極的に話してきた。新築の賃貸物件による土地活用や、2024年の法人設立なども進めた結果、現在では母の賛同を得ることができた。
「まだまだ家主としてのスタートラインに立ったところです。これからは法人も利用して、福祉施設など、ほかの土地活用方法も模索していきたいです」(杉本オーナー)
4.法人や財団の設立・一代飛ばし・海外移住・感情面の調整、多岐にわたる富裕層の相続対策
所有する資産額の大きさにより、相続税対策も変わってくる。純金融資産が1億円を超えるいわゆる富裕層の場合、既に事業会社や資産管理会社を所有しているケースが多い。これは所得税より法人税のほうが安いからだ。また、富裕層であれば社会貢献のための財団設立や孫を養子にする「一代飛ばし」、海外移住などの相続税対策の方法もある。
一方で、相続税の評価は複雑でそう簡単にはいかない。「そもそも、どのくらいの相続税がかかるかは減免に気が付くかどうかや物件の不動産に関する専門的な知識の有無など、税理士によって判断に差が出てくる部分です」と、税理士法人レガシィの代表社員税理士の天野大輔氏は話す。
さらに「われわれが相続事業を始めてから30数年たつのですが、初期の頃から『勘定より感情』と言い続けてきました」(天野氏)
家族間、親族間での感情のもつれによる相続のもめ事は、昔から人間の大きなテーマだったことはシェイクスピアの『リア王』からもうかがえる。
【記事】相続専門税理士に聞く 富裕層向け相続対策 -税理士法人レガシィ
5.減価償却期間の終わり、デッドクロスを乗り越え先祖代々の土地を守る
今から約20年前、樋口雅弥オーナーが2棟122戸の不動産事業を承継したときには既に設備の減価償却期間の終わりが迫っていた。しかも数年後には、ローンの借入金返済額が減価償却費を上回り財務状況の急激な悪化を招く「デッドクロス」を迎えることが発覚したのだ。
2棟のマンションは祖父が相続税対策を兼ねて新築したもの。最寄り駅からは徒歩30分とあまり立地がいいとは言えない環境で、管理もずさんだった。そのため樋口オーナーが引き継いだ時点で経営破綻寸前の状況でもあった。
樋口オーナーがデッドクロスのダメージを少しでも減らすために取り組んだのは、返済額を減らすことと家賃収入の増加。対策しつつデッドクロスを迎えたものの同時に訪れたのが、想定外の空室の急増だった。消費税増税を前に入居者が一斉に自宅を購入したのが一因だったという。
そこで今度は、借り入れと部屋の価値向上の両面でアプローチを始めた。銀行との金利交渉や入居希望者がリフォーム内容を選べる仕組みを導入した結果、現在は満室経営を実現。先祖代々の土地を守っている。
6.ファミリーガバナンスは経営者一族を繁栄に導く設計図
分割しにくい資産を抱える不動産オーナーにとって、親族が協力して会社を運営していく「ファミリーガバナンス」の仕組みは将来の争いを防ぎ、資産を守るうえで大きな意味を持つ。鳥飼総合法律事務所の松野史郎弁護士は「遺言書はあくまでツールの一つに過ぎない。法的な備えにとどまらず、家族の心情に寄り添う仕組みが不可欠なのです」と話す。
その第一歩は「家」や事業に関する基本的な価値観および理念、ミッションを「ファミリー憲章」として言語化し、家族全員で共有すること。そして、それらを家族の全員が認識しておくことが必要だという。
7.「資産の見える化」が相続対策の第一歩
相続対策と一口に言ってもやるべきことは多岐にわたるため、どこから手を付けてよいのかわからないという人は多いだろう。「相続を考えるうえで大事なことは、相続のサイクルを知ることです」と、相続と資産に関する総合的なコンサルティングを行っているシナジープラスの亀島淳一社長は話す。相続は「資産形成期」「資産運用期」「資産保持期」「資産承継期」と、大きく四つの期間に分けられる。今自分がどの期間にいるのかを把握することで、対策が立てやすくなるのだ。
そして、より良い資産を次世代に残すためにまずやるべきことは資産の「資産の見える化」。その結果を基に残すべき資産とそうでない資産について検討し、納税資金の準備についても計画を進める。
相続の準備で忘れてはならないのが遺言書の作成だ。ただし、残す側の思いに基づいて用意した財産が相続した家族を幸せにするとは限らない点に注意したい。
8.生前贈与は自分と家族の人生を考えてから
相続対策の一つである生前贈与。「相続税対策として行うと失敗しやすいです」と話すのは鹿島台総合法律事務所の安部慶彦弁護士だ。生前贈与を成功させるためには、家族としっかり話し合って理解してもらうことが大切だ。話し合いでは家族への気持ちを正直に伝え、納得してもらうことが望ましい。
また生前贈与により資産を減らし過ぎてしまい、自身にお金が必要になった時に足りなくなってしまうケースも散見されるという。安部弁護士は「人生のゴールを考えて生前贈与を判断してほしい」と話す。
【記事】もめない生前贈与の方法を弁護士が解説
【関連記事】【特集】次世代に資産をつなぐ 生前贈与の正しい活用法
9.33歳で事業承継、円満相続で得た家族の絆が父の残した財産
33歳の若さで急きょ2000坪の土地を引き継ぎ、6代目当主となった吉田剛オーナー。大阪の中でもとりわけ居住地としての人気が高い北摂エリアの土地に6棟114戸を所有するほか、駐車場2カ所と定期借地3カ所を経営している。
想定より早く承継することになった理由は、父の病の発覚だった。父が事業承継を見据えて相談した顧問税理士の提案を受け、吉田オーナーを法人の役員に登用。さらに自身の健康状態が良くないことを知り吉田オーナーを含む3きょうだいに財産の配分を記した書面を用意したうえで直接伝えた。その結果、親族間でのもめ事や配分で困ることは一切なかったという。今後も一族で協力し合える体制も、父が残した大きな財産だった。
10.9年にわたる遺産分割協議と公正証書遺言では解決できない家族の感情
壮絶な相続を経験したオーナーがいる。2人の叔父との遺産分割協議が9年にも及んだ田中考春オーナーだ。
代々資産家だった田中家で、当時、資産を所有していたのは祖父母だった。祖父には3人の息子がおり平穏な暮らしを送っていたが、長男である田中オーナーの父が50歳の若さで急死してしまったことから状況が一変したという。
相続人を増やして相続税を減らすことを目的に田中オーナーが祖父母の養子になったのだが、これにより代襲相続権が発生したため問題がさらに複雑になってしまった。
祖父は、ほかにも賃貸物件を新築するなどさまざまな相続対策を実施していたが公正証書遺言に遺産の分割割合も記していた。この内容に叔父たちが反発。田中オーナーが遺産分割協議に精通している弁護士に依頼し、なんとか決着をつけるまでに、実に9年を要してしまったのだ。
(2026年2月公開)

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