【特集】相続トラブルを防ぐ 遺言書の基本①

法律・トラブル相続関連制度

遺産相続の際、相続人の中に受け取る遺産の割合に納得できない人が一人でもいれば、トラブルに発展する。

遺産分割協議で多くの人が話し合いに加わると、収拾がつかなくなることも多いという。遺産分割トラブルを防ぐためには、遺言書が有効だ。

そこで、遺言書の基本について見ていこう。行政書士さまや法務コンサルティング(愛知県東海市)佐山和弘行政書士、弁護士法人Y&P法律事務所(東京都千代田区)の田中康敦弁護士と三宅智啓弁護士に話を聞いた。

PART 1 なぜ遺言書がないと争いが起きてしまうのか

遺言書がない場合、遺産分割協議や事業承継などにおいて相続人の間でもめやすい。どのようなリスクがあるのか見ていこう。

遺産分割協議が 泥沼化するリスクがある

 遺言書がない場合、遺産分割協議が必要になる。遺産分割協議を経て各人の相続内容を決定するには、相続人全員の署名・押印が不可欠だ。相続人が一人でも欠けてしまうと、遺産分割協議の成立が難しくなる。

 「遺産分割協議を進めていくうちに、友人や妻などが自分に近しい相続人の有利になるようにサポートし、争いに発展するリスクがあります。遺産分割について話し合う余地があるとトラブルになりかねないため、遺言書で相続させる内容を決めておくことが大切です」と佐山行政書士は話す。

賃貸経営における 事業承継が困難になる

 特に賃貸アパートなど不動産を所有している場合、遺言書がなければトラブルになりやすい。そもそも高額な不動産は分けにくく、どれくらいの資産価値があるのかについても各人に有利な主張がされるからだ。

 事業継承にも多大な影響がある。相続が発生すると、遺言書がない場合の賃貸物件は、一時的に相続人全員の共有状態になる。その場合、賃貸物件を軽微なものを除いて修繕するためには、相続人全員の同意が必要だ。全員の同意が取れなければ修繕ができず、賃貸経営に支障を来たす。また遺産分割協議成立までの家賃収入も相続人全員で法定相続分どおりに分けなければならないため、修繕費を貯めることも難しくなる。

高額な相続税を 支払うことになってしまう

 遺産分割協議が10カ月以内にまとまらないと、民法で定められている法定相続人が有する相続割合である法定相続分で分割したと仮定し、相続税を申告する必要がある。その場合、高額な納税になりやすいので注意が必要だ。なお遺産の相続割合を変更した場合は、申告後に納めすぎた税金の還付を受ける相続税更正の請求制度を利用できる。

 しかし、「相続人同士で10カ月以内に遺産分割協議を成立させられなかった場合、話し合いの期間を延長してもまとまるとは考えにくいです。相続税の更正の請求をするどころか、遺産分割に関する調停や裁判にもつれ込み、泥沼化する可能性があります」(佐山行政書士)

>>遺言書を書きたくなる マインドに切り替える

 ある程度の資産を持っているなら遺言書を書いておいたほうがいい。そう頭で理解できていても実行に移せない人はいる。遺言書というと、自分の死を連想してしまうからだ。

 そんなとき、「孫やその先の世代が豊かな人生を送るために必要な作業」と考えてみるといいだろう。ネガティブなことではなく、ポジティブな行動だと考えを切り替えるのだ。子どもはすでに成人しているため、当人同士が何とかするだろうと気楽に構えているかもしれない。だが、まだ幼い孫のことを考えると「この子たちを争わせるわけにはいかない」と思い、遺言書準備に弾みがつくケースもあるようだ。

(2024年12月号掲載)
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