【連載】教えて! 弁護士さん 隣地トラブル 解消相談:3月号

法律・トラブル不動産関連制度

 隣接する不動産の所有者間で起こり得る敷地利用に関するトラブル。法律に基づいた対応策や解消法を伝えます。

Q.隣人が建物を境界線ぎりぎりに建築中です。建築のやり直しを求めることはできますか?

 私が所有する土地の隣地に、隣地所有者が住居を建築中です。工事開始後に初めて気が付いたのですが、隣地の住居は、私の土地と隣地の境界線ぎりぎりに建築されてしまうようです。互いの建物が近過ぎると日当たりやプライバシー、また火災の際の影響も心配です。着工後でも、隣地所有者に対して境界線から一定の距離を置くよう、建築のやり直しを求めることはできるのでしょうか。

A.50㎝以上離すルールあり 違反の場合変更の請求可

  隣地所有者は土地の「所有権」を持っています。所有権は、所有物についてその使用、収益、処分を自由にできる権利ですが、「法令の制限内において」行う必要があります(民法206条)。建物の建築については、以下のような「法令の制限」があります。

【原則】建物を築造するには境界線から50㎝以上の距離を保つこと。(民法234条1項)
また例外には、
①繁華街などにある一定の建物については【原則】は適用されず、外壁を隣地境界線に接して設けることができる。(建築基準法63条)
②一戸建てや3階建てくらいの低層マンションが中心に立ち並ぶ低層住宅街などでは【原則】よりも制限が厳しく、建築物の外壁を境界線から1・5mまたは1m以上後退させる。(建築基準法54条)
③A:一定のエリアを対象とした条例(建築基準法68条の2、同法施行令136条の2の5第1項5号)や、B:行政の認可を得て土地所有者らにより締結された建築協定(建築基準法4章)に基づいて、壁面の位置の制限がある場合があり、【原則】よりも制限が厳しくなる可能性がある。

 ①の適用がない場合に隣地所有者が【原則】の「民法の50㎝のルール」に違反して建築をしようとしているときは、質問者は、その建築の中止または変更を求めることができます。ただし、隣地所有者が建築に着手したときから1年を経過、またはその建物が完成した後は、中止や変更は認められず、損害賠償の請求のみ行うことができます。(民法234条2項)
 一方で、②と③Aの「建築基準法ルール」について、建築基準法には隣地所有者に建築の中止や変更を直接請求することができる旨は明記されていません。明文規定はないものの「人格権」に基づいて撤去請求できる場合があります。③Bの建築協定には、関係者が違反当事者に撤去請求できる旨が規定されている可能性があります。

【ここがポイント!】

境界線付近の建築制限
【原則】
境界線から50㎝の距離を保つ
 ↓ ↓
違反している場合、建築の中止または変更を求めることができる
ただし着工から1年が経過または建物が完成した後は中止や変更は認められない。損害賠償の請求のみ行うことができる

 

私たちが答えました!

TMI総合法律事務所(東京都港区)
野間敬和弁護士

1995年、同志社大学大学院法学研究科修了。97年、弁護士登録。2003年、バージニア大学ロースクール修了。04年、ニューヨーク州弁護士資格取得。同年、メリルリンチ日本証券出向。08~11年、筑波大学大学院ビジネス科学研究科講師、12年、証券・金融商品あっせん相談センターあっせん委員。11~14年、最高裁判所司法研修所民事弁護教官。

辻村慶太弁護士

2014年、一橋大学法科大学院修了、15年に弁護士登録。

(2025年 3月号掲載)

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