【連載】不動産に強い士業が教える14の知見:7月号

法律・トラブル相続関連制度

不動産会社と不動産に詳しい士業などの専門家を擁する一般社団法人不動産ビジネス専門家協会(東京都千代田区)。所属する14人の士業に知っておくべき情報を聞く。

第8回 遺言と遺言執行者の指定で相続トラブルを回避

 相続による不動産の承継は、適切な準備をしておかないとトラブルの火種になりかねません。不動産オーナーの中には事前に対策を検討する人が多く、実際に、遺言書の作成依頼を受けることも増えてきています。今回は、事前対策としての遺言書作成と、事後の遺言執行について話していきたいと思います。

希望通りに財産を渡せない

 自身の死後のことを考えたくないという思いからか、以前は、遺言を残さない人や事前に対策をしない人が多かったように思います。下の事例1は極端ではありますが、遺言を残していなかったことによるトラブルです。


 遺言書を作成できていれば、Aさんの希望どおりにBさん、Cさんに財産を渡せたのですが、遺言がないために希望がかなわなかったケースです。

公正証書遺言が安全・確実

 改めて、ここで遺言の形式について再確認したいと思います。

 よく利用される遺言書の作成方法として「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」が挙げられます。近年、自筆証書遺言のうち法務局の遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言(以下、法務局保管遺言)が注目されています。確かに、初回費用が少額(3900円ほか手数料など)で済むこと、家庭裁判所の検認が不要であること、紛失リスクが少ないことなどから、法務局保管遺言を選択する人も増えています。

 しかし、法務局保管遺言は、形式的なチェックはあるものの、遺言の内容自体の有効性までは確認されません。一方、公正証書遺言は、公証人が関与し法律に適合しているかを確認したうえで作成されます。公正証書遺言は、公証役場手数料や専門家への報酬などで数万円以上の費用がかかりますが、有効性の観点から考えると、依然として公正証書遺言のほうが優れているといえます。

遺言執行が火種となる争い

 遺言で思いを残しても、その思いが実現できないと、残した意味がなくなってしまいます。そこで、遺言の内容を実現する者として「遺言執行者」を遺言書の中で指定しておくことが望ましいと考えます。

 ただし、より多く相続する相続人が遺言執行者になっていると、事例2のようなトラブルが起こりやすくなります。

遺言執行者は専門家へ依頼を

 遺言者もしくは裁判所が指定することで、遺言執行者は誰でもなることができます。実際には①相続人の誰か、もしくは②弁護士・司法書士などの専門家といった第三者を指定するケースが多く見られます。

 遺言執行者に関しては、2018年7月に民法が改正されました。「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(民法第1012条)」「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる(民法第1015条)」とあるように、遺言執行者には強力な権限が与えられており、執行業務は以前よりも進めやすくなっています。

 だからこそ遺言執行者は、本来、特定の相続人や受遺者の立場に立つことなく、中立的にその業務を行わなければなりません。遺言執行者に特定の相続人や受遺者がなることは、その中立性を損ないます。また財産を引き継がない、もしくは遺言により引き継ぐ財産が少ない相続人との間で利益相反の関係にあることから、相続人の間でトラブルに発展する可能性が出てきてしまいます。

 また遺言執行には、不動産の相続登記、銀行や有価証券口座の解約・分配、非上場株式の手続き、相続税申告などの専門的な知識・ノウハウが必要となります。そのため、遺言執行を円滑に進めるには、第三者である専門家を遺言執行者に指定することが望ましいといえます。

まとめ

 このように、自らの思いを実現するにあたっては、事前対策としての公正証書遺言書作成および遺言執行者の指定、ならびに事後における円滑な遺言執行手続きが不可欠だといえます。また遺言執行者を専門家に依頼する場合には、遺言書作成の段階から、その専門家に依頼することが多いでしょう。専門家に依頼すると、遺言書作成時のみならず、遺言執行時においても報酬を支払う必要があります。
 このことから、遺言書の作成では、依頼する専門家の選定が重要となります。選定のポイントとしては

 ① 相続・遺言の知識・ノウハウが十分であること
 ② 遺言書作成報酬・遺言執行報酬を事前に示してもらえること
 ③ 遺言書作成から遺言執行までしっかりフォローしてもらえること が挙げられます。

ぜひ参考にしてください。


今回の解説
アプリーガ司法書士法人(東京都新宿区)
代表司法書士 難波 誠氏

三井不動産リアルティで24年にわたり不動産仲介営業およびこれに付随する物件調査・契約審査・社内研修業務を担当。現在は司法書士をメインに活動する。司法書士のほか、宅地建物取引士、土地家屋調査士、マンション管理士、一般社団法人不動産証券化協会認定マスターの資格者として、顧客の問題解決に取り組む。

(2025年 7月号掲載)

一覧に戻る

購読料金プランについて

アクセスランキング

≫ 一覧はこちら