<<まちづくりと新築>>
入居者が自由に使える土間
「人を呼び込む装置」としての存在
東京を代表する繁華街の一つ池袋。駅前のにぎわいを抜けた先に、深野弘之オーナー(東京都豊島区)が2月末に竣工した物件「TELAS(テラス)」がある。
元駐車場だった410㎡の敷地に建てられた同物件は、RC造3階建て。1階部分には、レストラン、スポーツジム、そしてシェアスペースが入っている。2、3階には1LDK〜3LDK9戸とオーナー宅がある。
深野弘之オーナー(東京都豊島区)


▲1階部分にレストラン、フランス発祥のスポーツ「パルクール」のジム、シェアスペースがあるTELAS。2、3階が住居だ
一見、賃貸住宅に見えないのは、フェンスや外構が一切ないからだろう。TELASは深野オーナーが2020年に開始した不動産を使ったまちづくりである「ニシイケバレイ」プロジェクトの一翼を担っている。同プロジェクトで深野オーナーは、所有物件をカフェやコワーキングスペース、SOHOにリノベーションすることで、地域内外の人が回遊する仕組みをつくってきた。そこで、TELASも植栽を使って一帯が地続きになっているように感じさせながら、自由に出入りできるデザインにしたのだ。

TELASは専有部にも特徴がある。それが入り口に設けた土間だ。書斎や趣味の部屋としての利用はもちろんのこと、入居者が希望すれば店舗として利用することも可能だという。個人宅の一部を地域に開くことで、ニシイケバレイのほかの物件との相乗効果が生まれることを期待している。実際に、203号室の入居者は8月から土間を使って奈良の器やお茶の販売を行う「巳鹿」をオープンした。
「経験があったわけでもなく、お店を開く予定もありませんでした。ですが、この土間にインスピレーションを受けて挑戦することにしました」と巳鹿の店主は話す。
一方でオートロックや宅配ボックスという「新築物件に欠かせない」と考えられる設備は備えていない。
「そういった部分に頓着するのではなく、この物件だから住みたいという人に入ってもらいたいと考えました」と深野オーナーは話す。だが、実際に入居者が決まるまでは不安もあったという。賃料は15万~27万円と周辺の新築物件の相場と変わらない。しかし、一般的な賃貸物件とはあまりにも異なるため、受け入れられない可能性があるのではないかという懸念もあった。だが、結果として内覧会には多くの人が訪れ、竣工から2カ月で満室となった。
唯一無二の賃貸住宅を建てることで、設備の充実や賃料といった競争にさらされることがない。この物件のファンともいえる入居者を獲得することは、長期入居を実現し安定した賃貸経営につながるだろう。
▲左からレストラン「PUL」、スポーツジム「PLAY STREET」、シェアスペース「3rrrd」
(2025年11月号掲載)