土地活用Special Interview:日本最大数ホテルチェーン過去最高売上・利益を達成

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国内816ホテル12万771室、日本最大数ホテルチェーン コロナ明けの訪日客の増加で過去最高売上・利益を達成

 アパグループは2023年11月期連結決算で、グループ連結売上高1912億円、経常利益553億円と発表。売上高、経常利益共に過去最高を更新した。2年前に創業者である元谷外志雄会長から、元谷一志社長兼CEOに代替わりし、大きな変革期を迎えたアパグループ。経営の舵取りやマネジメント体制が一変した後も、業績を順調に伸ばし日本最大数のホテルチェーンの座を維持し続けている。

アパグループ(東京都港区)
元谷一志社長兼CEO(53)

1.独自スタイルと特徴

~「二度売りで稼働率100%超」常識に捉われないホテル運営~

 アパホテルは、「新都市型ホテル」と銘打ち、「高品質」「高機能」「環境対応型」の3つを提唱。その特徴とは、まず駅近の好立地であることだ。都内に所在するアパホテルは、平均して駅から2分30秒以内に位置しているという。

 また、自動チェックイン機を導入し、チェックイン時の待ち時間を無くし、利用客の時間を奪わないことを徹底。客室はあえてコンパクトに設計しているが、オリジナルベッドを導入し、質感にこだわったアメニティを置くことで利用客の満足感を高めている。

 そのほかにも、自動チェックイン機やキャッシュバック制度などのシステムを採り入れ、常識に捉われないホテル運営で伸びてきた。近年では、日帰り、デイユースプランを積極的に展開しホテルの二度売りを実施。これも業界ではほかに見ない取り組みだ。

 元谷一志社長は「24時間を帯で考えている」と話す。通常ホテルは15時チェックイン、翌日11時チェックアウトと設定されている。しかし、人によっては11時ギリギリまで滞在する人もいれば、早朝にチェックアウトし、早々とホテルを後にする人もいる。早朝にチェックアウトされた部屋は、24時間を帯で考えると二度売りが可能になる。

 そのため同ホテルは、リモートワーク需要に合わせて、デイユースプランの提供を始め、二度売りを展開。すると、日中に仕事をするためにデイユースプランを活用する利用者が増加した。デイユースプランで大浴場を使用できることなどが付加価値となり好評だったという。ホテルの二度売りは売上向上に大きな効果があるが、実施しているホテルは少ない。

 「他のホテルが二度売りを積極的にしないのは、清掃業務をアウトソーシングしているケースが多いからです。しかし、当ホテルではリメイク研修を実施し、社員みんなが清掃をできるようにしています。そのため、アーリーチェックインやレイトチェックアウトなど、さまざまなニーズに対応することができます。お客様がチェックアウトされ次第、清掃業務を行うことができるため、二度売りができるのです。二度売りを取れ入れた結果、稼働率108%という数字を達成したホテルもあります」(元谷社長)。

アパグループ連結決算

(出所)アパグループ提供資料を基に地主と家主で作成

2.沿革と業績推移

~創業以来52期連続黒字 売上高経常利益率25%超~

 同グループは現在、「アパホテル」のブランドをメインに816ホテル12万771室(計画含む)を国内で展開する、日本最大数のホテルチェーンだ。

 同グループは、創業から52期連続黒字を達成している。しかも、売上高営業利益率は25%以上にも及ぶ。大多数のホテルが大幅赤字を余儀なくされていたコロナ禍の最中でも、同社は黒字決算をキープしてきた。2020年11月期は、対前年比で売上高がマイナス34%、経常利益はマイナス97%と大幅な減収減益となった。しかし、売上高904億円に対して経常利益は10億円と黒字で、翌2021年11月期も売上高916億円、経常利益75億円をキープした。直近の決算2023年11月期は、冒頭で紹介した通り、過去最高の経常利益を叩き出している。

 「この業績の結果は、昨年5月8日にコロナが指定感染症2類から5類に変わったことが大きな要因だと考えています。昨年の5月8日以降一気に販路が拡大。さらに円安基調も手伝って、訪日客の利用が増加しています。私が現職に就任した2022年に5カ年計画を立て、2026年11月期で過去最高売上高と過去最高益を目標にしていました。しかし、コロナ明けの販路拡大と訪日客の増大で、それも3年前倒しで達成することができました」(元谷社長)。

▲フラッグシップ店舗の1つ「アパホテル&リゾート横浜ベイタワー」

3.経営指標

~客室の「稼働率」だけでなく 販売可能売上高の比率を重視~

 ホテル業界における同社の経営独自性を示すものとしては、RevPAR(レヴパー)と呼ばれる経営指標が挙げられる。一般にホテル市場では“稼働率”を重要指標としているケースがほとんどだ。これは通称「OCC」と呼ばれ、これと客室平均単価を表す「ADR」とセットで使われることが多い。多くのホテルではこのOCC(客室稼働率)とADR(客室平均単価)を指標として使用している。

 一方でRevPARとは、販売可能客室1室あたりの売上を表す値だ。「RevPAR=客室稼働率(OCC)×客室平均単価(ADR)」の数式で求められる。仮に1室1万円の単価で稼働率が90%であれば、RevPARは9000円という計算だ。

 同社では、このRevPARを重要な経営指標に位置づけている。ちなみに2023年度の実績では、年間客室稼働率(OCC)は86・9%、年間客室平均単価(ADR)は8115円に対し、年間RevPARは7051円だったという。

 「満室にするのは単価を下げれば比較的容易にできます。そのため、業界内ではRevPARが高ければ高いほど評価されます。当社は、各ホテルで毎日RevPARを算出し、RevPARをどう高めていくかを考えているのです。ドーミーインさんやヴィラフォンテーヌさんといったホテルは、当社より高めの単価に設定されています。そのため当然RevPARも高くなりやすい。しかし、当社が二度売りしていることもあり、RevPAR指標では、変わらない数値を上げているという自信があります」(元谷社長)。

4.1ホテル1イノベーション

~ホテル新設ごとに改革を客室設備、サービスなど改良~

 元谷社長は、新しいホテルができる度に1イノベーションをする「1ホテル1イノベーション」を掲げている。

「イノベーションをすることは、リピーター戦略の一環です。経済原論のイロハで『カレーライスの法則』というものがあります。お腹が空いている一杯目のカレーライスの満足度は高い。しかし、2回、3回と全く同じカレーライスを提供すると、満足度が順に下がるという法則です。つまり、変わらぬ宿、変わらぬサービス、変わらぬハード、変わらぬソフトでは、いつの間にかお客様の満足度が下がってしまう。これを改善するために、1ホテル1イノベーションが必要になるのです」(元谷社長)。

 直近では、今年2月にオープンした上野御徒町のホテルで、いくつかのイノベーションを実施。訪日客の需要が増えてきたため、訪日客向けに椅子とテーブルの高さを5㎝上げたという。また、大浴場の椅子を全部40㎝の高さの椅子に刷新。これにより、高齢者でも楽に腰を掛けられるようになった。

 さらに、欧米人は少し暗めの照明を好むため、主照明を調光できるように変更。初期設定の明るさを50%にすることで、節電効果も発揮。利用者目線だけのイノベーションをすると、財務的負担が掛かってしまうため、経営者目線も兼ね備えたイノベーションを実施しているという。

5.FC展開

~FC展開13年で28法人56ホテル 異業種からの参加も増える~

 一般にはあまり知れていないが、アパホテルはFC展開もしている。同社がFC展開を始めたのは2011年。10年以上が経ち、現在は国内にFC56ホテルを展開しており、加盟法人は28法人となっている。

 「日本の人口動態を考慮し、選択と集中が必要とされる中で、今後当社の資本は大型都市圏を中心に投下するべきだと思い至り、FC展開を始めました。地方への進出は地場の方と協力して、共存共栄することでスムーズに全国展開ができるのではないかと考えたのです」(元谷社長)。

 FC1号目となる「アパホテル水戸駅北」が開業したのは2012年3月。当時、元谷社長は水戸に直営を出すことが是か非かを考え、地場の企業に運営を任せた方が良いと判断し、FCでの開業に至った。

 近年は、複数展開する加盟法人が増えており、自然災害などのリスクを考慮し、リスク分散のために多地区で展開をするケースもあるという。

 アパホテルFC加盟法人は、大手ホテルチェーンからアパホテルに鞍替えしたケースも多い。「ドーミーイン」「ルートイン」「ワシントンプラザ」だったホテルが、リブランドして現在アパホテルとして運営されているケースもある。

▲デラックスツインも完備

6.アパ直ネットワーク

~オンラインネットワーク会員 2000万人を突破~

 全国に広がるアパホテルFCチェーンだが、実はその多くが、「アパ直」と呼ばれる同社のホテル予約サイトへの参画企業からの加入だという。

 アパ直とは、もともと「アパホテル公式サイト」という名称で展開された会員制度だ。

 アパ直は、OTA(オンライン旅行代理店)として、「じゃらん」「楽天トラベル」「Booking.com」などと同じ機能を持っている。アパ直に参画したホテルに手数料をもらい、送客をしているのだ。つまり「アパ直」は各地の独立系のホテルが「アパ」の知名度を活かして相互に効率的な集客を可能にするオンライン上のネットワークだ。現在全国で468ホテル4万668室(2024年6月時点)が参加している。

 しかし、「アパ直」ばかりに集客を集中させているわけではない。

 国内OTAの手数料は、宿泊料金の10%程度といわれている。特に海外からの送客窓口となる海外OTAの手数料に至っては、宿泊料金の15~17%が相場。手数料を考えると、当然アパ直からの予約が増えた方が売上は伸びやすいが、元谷社長は他のOTAからの流入を重視しているという。

 「リピーター戦略だけでは、お客様の年齢が上がることで、ビジネス需要が減ってしまうことになります。そのため、外部から当ホテルに転換してくる方を増やしていきたいのです。囲い込むことが良いことではなく、外部から新しい水を入れ続ける必要があります。そう考えると、今のOTAの予約比率はちょうど良いと考えています」(元谷社長)。
 アパ直の会員は現在2000万人に到達しているという。

アパ直参画ホテル推移(2024年5月現在)

(出所)アパグループ提供資料を基に地主と家主で作成

7.海外展開

~訪日外国人客は全体の25% 将来は50%超を想定~

 昨年5月以降から訪日客が増加しており、現在アパホテルの利用客の約25%が訪日客だという。東京の上野、浅草、新宿などの観光地のホテルに至っては、訪日外国人客が8~9割というデータが出ており、中でも外国人人気の高い新宿のホテルでは92%を占めている。観光客だけではなく、世界中からビジネスでの利用の増加を感じているという。

 「日本は人口減で、今後の国内需要は先細りしていきますが、ホテル業界は外国人需要を取り込めるため、当社の先行きは比較的明るいと考えています。これから10年も掛からないうちに、訪日客の割合が50%を超えると考えています」(元谷社長)。

 元谷社長は、北米に展開する「コーストホテル」を伸ばすことに注力する考えだという。コーストホテルは、2016年に同社が取得し、カナダのカルガリーを中心に拡大。現在、FCとMC(マネジメントコントラクト)と直営を合わせて、44ホテルに増加。少しずつ知名度が上がってきている。

 トヨタ自動車の「レクサス」が北米市場を席巻し、日本に逆輸入したことでトヨタが様変わりしたように、コーストホテルも北米で席巻するブランドに育て、逆輸入を狙う。

 50年ほど前、北陸の1エリアから起業し、今では日本全国ほぼ誰もが知る一大ホテルチェーンに成長を遂げたアパグループは、創業者から二代目への事業承継を経て、さらに世界への拡がりを目指している。

元谷一志社長兼CEOプロフィール
もとや・いっし 1971年4月20日福井県生まれ。石川県出身。1990年石川県立金沢二水高等学校卒業。1995年学習院大学経済学部経営学科卒業。住友銀行にて5年間勤務した後、1999年11月アパホテル株式会社常務取締役として入社。2004年に専務取締役に就任した後、2012年5月にアパグループ株式会社代表取締役社長に就任し、グループ専務取締役最高財務責任者、グローバル事業本部長を歴任。2022年4月アパグループ社長兼最高経営責任者(CEO)に就任し、現在に至る。
(2024年9月号掲載)

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