【特集】オーナー・事業者に聞く 利益を生み出し続ける⺠泊経営のこつ②

賃貸経営不動産投資

新規参入は難しいが、堅実な努力ができれば収益を生む

加藤薫オーナー(55)(兵庫県伊丹市)

賃貸事業経験を生かし 民泊経営をスタート

 加藤薫オーナー(兵庫県伊丹市)は経年劣化が進んだ物件をリノベーションし、数多くの賃貸物件を所有管理していた。18年に、阪急電鉄神戸線大阪梅田駅から徒歩10分の場所に立つビルを購入。アクセスの良さと物件の大きさから賃貸ではなく民泊に向いていると考え「ソリッソ梅田」として運営を始めた。また大阪市西成区に「茶屋」の民泊事業をスタートさせた。

▲ソリッソ梅田はインバウンド向けに各部屋が広く造られている

  加藤オーナーは、民泊は稼げている施設と稼げていない施設の二極化が進んでいると話す。「民泊で利益を出すためには、高い単価と高い稼働率の二つの要素を満たす必要があります。魅力的な施設の単価と稼働率は共に優れている一方で、人気がない施設は両者どちらも悪い状況です」(加藤オーナー)

 運営していくうちに、民泊事業に関する世間の興味は深いが、新規参入が難しいと肌で感じたという。

民泊は参入障壁が高く 新規参入は難しい

 外国人観光客がキャリーケースを抱えながら20~30分も移動するのは難しく、駅から徒歩圏内の立地が不可欠だ。だが、駅から徒歩5分圏内の土地は高く、リフォームや備品購入なども高額になるため手を出しにくい。不動産業界の未経験者には、物件の購入と費用負担の両面から、民泊への参入障壁が高いという。加藤オーナーは自身の賃貸再生事業と、不動産業界での経験から手頃な価格で購入できた土地や建物を仕上げ、⺠泊施設として生かしている。

 「『茶屋』は、元々は貸家の物件として不動産会社から紹介されました。賃貸では収支が合いませんでしたが、家族が1軒の家に泊まれる民泊として活用するなら利益を出すことができると考えたため購入しました。新型コロナウイルス禍により物件の価格が下がっていたのも、購入を決めた理由の一つです」(加藤オーナー)

 4~5人がゆったりと宿泊できるインバウンド向けの民泊では70~80㎡以上の専有面積が理想であり、費用負担が重くなる。また民泊の場合、融資を受けることが難しく、まとまった自己資金を用意できなければ購入しにくいという。ようやく民泊向けの融資商品が登場しているが、まだまだ利用するにはハードルが高い。

▲茶屋のリノベ前は築年数の経過が際立っていた

民泊コラム①

三つの枠組みの中から選ぼう

 民泊を運営するためには「旅館業法上の許可を取得」「国家戦略特別区域の認定を得る」「住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく届け出を行う」の三つのうち、いずれかを満たす必要がある。

 三つの法律の大きな違いは営業日数が異なることだ。「住宅宿泊事業法下では、年間運営日数が180日以内であり、民泊として収益を出すことは難しい」と加藤オーナーは話す。

 

地道な改善により 収益を確保

 稼働率と単価を上げるためには、競合の民泊だけでなく、ホテルにも勝つことができる要素が必要だ。予約サイト内で選ばれるには付加価値の創造に加え写真映えが重視されている。

 加藤オーナーは「きれいに整った内観・外観であれば、高級ホテルで事足ります。選ばれるためには⺠泊ならではの特徴を最大化させ、非日常感を体感できる要素が必要です」と話す。

 そこで茶屋には日本庭園が見える露天風呂を設けた。茶屋がある大阪市西成区の民泊では類似の施設がなく、差別化につながっている。

 民泊は「Booking.com(ブッキングドットコム)」や「Airbnb(エアビーアンドビー)」などのサイトから予約するケースが大半だ。加藤オーナーは「予約サイト上で宿泊施設を選ぶときに、宿泊希望者はまず検索結果一覧に表示されている施設写真をチェックします。競合に比べて目に留まるような物件写真の選定が必須です。多くの宿泊施設が似たり寄ったりの写真を予約サイトのトップページに掲載しているため、茶屋はあえて風呂と庭が映り込んだ写真をメインにして差別化を図っています」と話す。

 このように競合の状況を理解したうえで、地道な努力を続けた人が、民泊で収益を生むことができるという。「民泊=もうけられるわけではありません。優れた施設を提供し、宿泊者に対して価値を還元し続けなければ、安定した収益を得られないでしょう」(加藤オーナー)

▲障子を新たに設置し、日本に来たとわかるようにリノベした茶屋

民泊コラム②

施設の設備要件と居住要件

 民泊を運営するためには、宿泊施設が設備要件と居住要件のどちらも満たす必要がある。設備要件は台所と浴室、便所、洗面設備の四つが設けられていることだ。それぞれの設備が別棟でも同じ敷地内にある場合、複数棟を住宅として届け出れば民泊として運営が可能。

 居住要件は「現に人の生活の本拠として使用されている家屋」「入居者の募集が行われている家屋」「随時その所有者、賃借人または転借人の居住の用に供されている家屋」のうちいずれかを満たさなければならない。

 「現に人の生活の本拠として使用されている」とは、生活が継続して営まれている状況だ。「入居者の募集が行われている家屋」には、社員寮や入居対象者を限定した募集がされている住宅なども含まれる。「随時その所有者、賃借人または転借人の居住の用に供されている家屋」とは、使用の権限を持つ所有者らにより年1回以上住まいとして利用されている家屋のことだ。

(2025年 4月号掲載)
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