二人三脚のホテル運営で規模拡大中
土地オーナーとのマスターリース契約によるホテル運営で、全国にそのネットワークを拡げているのがベッセルホテル開発(広島県福山市)だ。
NTTはじめ大手と協業 つながりは紹介ベース
「ベッセル」というブランド名も含めて、ホテル市場における同社の知名度は大手チェーンに比べるとまだ低いが、同社の大きな特徴ともいえるのは、ホテル自体の土地・建物を所有しているオーナーに、地域の名士ともいえる地主を多く迎え入れていることだ。その名を聞けば誰もが知る大手流通企業のオーナー一族をはじめとして、上場企業のオーナーも多い。代表的な例としては、NTTグループ、JRグループ、そして地域電鉄会社などが挙げられる。
例えばNTTグループ。2015年9月にオープンした「ベッセルホテルカンパーナ京都五条」(238室)は、元々電話局の建物があった土地の有効活用として238室のホテルを新築して同社がその経営を担っているものだ。NTTグループがオーナーの物件としてその他にも2018年10月に「ベッセルホテルカンパーナ名古屋」(233室)、2019年3月に東日本電信電話の基地局を再生した「ベッセルイン千葉駅前」(172室)と、ここ10年の間に3拠点を開業している。
「NTTグループさんとは、以前から付き合いのあった設計事務所からの紹介がきっかけでした。過去に手掛けたシティーホテルが上手くいかずに苦労され、一時は会社の中でホテル事業はやめようかという話になったようです。だけどやっぱりホテルが大事だよねというところで、お声がけをしていただきました。電話の基地局を解体し、何年ぶりかにホテルを再開されました。そこで経営がうまくいったおかげで、信頼を得ることができました。正直、うちはマイナーなホテルチェーンですけれど、オーナーさんには恵まれています」(瀬尾社長)
ほかにも同じく京都の物件ではJRグループが、その他私鉄では滋賀県の近江鉄道、愛媛の伊予鉄も鉄道駅周辺の遊休地活用のためホテルのオーナーになり、同社へ経営を委託しているという。
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▲ベッセルホテルカンパーナ京都五条は電話局の跡地の有効活用事例だ
好調な経営が信頼築く 家賃減額でコロナ禍越える
ベッセルグループのホテルの中でも、本格的なリゾートタイプとして運営されているのが沖縄だ。2012年3月に沖縄県・北谷町(ちゃたんちょう)で開業した「ベッセルホテルカンパーナ沖縄」(161室)、20年3月開業の「レクー沖縄北谷スパ&リゾート」(229室)をはじめ、4棟のホテルを展開している。
- ▲沖縄にある4棟のホテルは本格的なリゾートタイプ
- ▲レクー沖縄北谷のスイートルーム。ラグジュアリーなリゾートホテルだ
北谷町は那覇空港から車で約1時間、沖縄県中部に位置する。オーナーは複合商業施設を運営している企業だ。現在同社はこのオーナーから5棟750室以上の運営を任されている。
しかし、沖縄の歴史的な背景もあってか、当初は県外の人間に対する警戒心が強かったようだ。オーナーとの対面当初はなかなか打ち解けてもらえなかったが、顔を合わせるうちに信頼関係を築くことができた。その後、運営を任されたホテルの経営が好調だったため、2棟、3棟と増やし、そのたびに同社とも強く太いきずなが築かれた。
その結果として印象深い出来事があったという。それはコロナ禍の2020年頃。観光業界が大打撃を受ける中、同社も経営難に直面した。その時に賃料の大幅減額に応じてくれたのが、沖縄のオーナーだった。
「コロナ禍のピークには売上は半分以下となり、グループで40億円もの赤字でした。その時、うちが厳しいと話したら、オーナーさんは大幅に家賃を減額してくれました。その後、コロナ禍をなんとか生き残って、利益が出るようになったので、全額返しますと伝えました。でもオーナーさんは返さなくていいと言って下さったのです。『俺たちは家族だからな。次にこちらが苦しい時にベッセルさんが助けてくれ』とおっしゃって受け取ってくれないんですよ」(瀬尾社長)
既存ホテルを再生 稼働率2割上昇
2000年以降、これまでにオープンしているベッセルグループのホテルの中で、既存のホテルをリニューアル・リブランド化して再オープンした物件は6施設ある。その中には、オーナーからの直接相談もあれば、運営会社からの相談によるものもあるという。
2011年2月にオープンしている東京・上野「ベッセルイン上野入谷駅前」(76室)は、上場企業のビルメンテナンス会社が所有し経営もしていたが、稼働率が低迷していた。同社に相談が入り、最終的に、ベッセルが買い取って経営することになった。結果、ここが上手くいったため、今度はこのビルメン会社があるオーナーから運営委託されていた別のホテルの経営も任されることになった。それが千葉県内で2013年9月にオープンした「ベッセルイン八千代勝田台駅前」(78室)と、2020年2月にオープンした「ベッセルイン京成津田沼駅前」(92室)だ。この2棟のオーナーは上場大手流通企業の資産管理不動産会社。以前は「勝田台アーバンホテル」の名称で、ビルメン会社が運営にあたっていた。赤字が目立ち始めた矢先、再生の話を持ち掛けられた。当時の稼働率は約60%。ベッセルグループの運営に変わって約12年が経ち、現在は約80%にまで回復しているという。
なお、既存ホテルの運営受託は新耐震基準(1981年施行)で、客室数80室以上、鉄道駅から徒歩5分以内を条件にしているという。
- ▲上野入谷駅前でホテルの再生に成功。その後2棟のホテルの運営を任された
- ▲ベッセルに運営が変わり稼働率が上昇した京成津田沼駅前
顧客の声をヒアリング 設備投資で評価高める
こうした同社の「ホテル再生」の手法は、実はシンプルだ。鍵となるのは、実際の利用者の声だ。例えば宿泊予約サイトに掲載されている口コミを一件一件確認し、低評価の内容改善を図る。この作業を繰り返し行う。不満の声の例としては、「冷蔵庫が冷えない」、「部屋から異音がする」、「洗濯機、乾燥機が使えない」、「部屋が匂う」、「テレビが小さい」、「クーラーが効かない」等だ。こうした一つ一つの声に真摯に対応し、利用者の満足度をひたすら高めていく。
「色々な中古のホテルを運営させていただきますけど、やることは簡単。お客様の声を聞くのです。良いところも悪いところもお客様の意見をWeb上で見たり従業員に聞いていった。それを一覧にして、声が多い順に一つずつ潰していくだけです。一個ずつ続けるだけで劇的に変わるわけで、ウルトラマンみたいなことをやったわけではありません(笑)」(瀬尾社長)
もちろん、こうした改良・改善には一定の設備投資コストを要するが、そんな時はあえてオーナー負担にはせず、同社が費用を負担するケースも少なくないという。
「オーナーさんに『今は資金がないので、この状態でやって欲しい』と言われたら『では資金はうちで出すのできれいな状態でやらせて下さい』と逆にお願いすることもあります。それはなにより宿泊するお客様の声を大事にしているからです。利益も大事ですが、評価こそが大事。そのためには身銭を切ってでもやります」(瀬尾社長)
同社では、これまで関係を築いてきた、大手企業も含めた土地オーナーとの二人三脚経営を続けていくことで、現在の36施設を早期に50施設にまで増やしていく方針だ。
(2025年6月号掲載)
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