イギリスとアメリカの土地活用の流れを知る

土地活用賃貸住宅#連載

【連載】欧米に学ぶ 土地活用のスタンダード

英国の都市開発と米国の豊かな国づくりの礎

地代で富を築いた 英国の地主

 産業革命が起きた18世紀後半、英国は工業の発展とともに都市生活者が増加しました。彼らが使用する住宅や商業・工業用地は、都市の大土地所有者(ランドロード:地主)である貴族がこの土地を賃貸することで開発利用されることになりました。これがリースホールド(定期借地権)による都市開発です。

 このリースホールドの考え方は、前号で解説した大土地所有者である荘園領主(※1)が農地を小作人に賃貸借によって利用させていた仕組みと、基本的には同じです。大土地所有者にとっては、農業的土地利用と都市的土地利用とで目的こそ異なりますが、いずれも地代を生むという点が共通していると考えられます。そのため、都市的土地利用におけるリースホールドも、農業的土地利用におけるリースホールドに倣って実施されたのです。

 当たり前のことですが、農業的土地利用による地代は農業生産力を基準にして決定されていました。一方、都市的土地利用による地代は、労働者の賃金に基づく住居費負担であったり、商業や工業においては一定の利益水準を確保するために算出されたものとなっていました。

 地代の負担能力が低い工業や住宅であっても、農業的土地利用の時代と比べると、数千倍の地代を得ることができたとされています。

 このようにして得られる莫大(ばくだい)な地代によって、都市の大土地所有者は都市化の進展に伴い、従来の数千倍もの地代を手に入れることに成功したのです。産業革命は都市の急激な成長を促しただけでなく、産業資本家(ブルジョアジー)の形成や都市地主(ランドオーナー)の経済的な台頭を通じて、社会経済を大きく変革させることになりました。

 この経済体制が、資本主義社会体制です。

米国における土地の保有形態

 このように、土地を通じた地主への富の集中と社会構造の変化が進んだ英国に対し、米国では土地はどのように扱われてきたのでしょうか。

 米国の住宅開発における土地保有の在り方は、基本的にはフリーホールド(土地所有権)が主流です。これは、英国の大地主が得ていた利益を、住宅購入者(ホームオーナー)自身が得たいと考えたことによるものでもあります。

 また新大陸である米国には大土地所有者が存在しなかったことも、フリーホールドによる開発を加速させた理由と考えられています。

 ご存じのように、米国には全ヨーロッパから多くの人々が、信教の自由と経済的利益の実現を求めて移住してきました。その中でも最も大きな割合を占めていたのは、英国からの移民であり、全移民の25%を占めていたといわれています。これらの移民の多くは、本国で封建領主(※2)に搾取されていた小作農(農奴)であったとされています。

 何代にもわたって領主に虐げられていた生活からの解放を目指して移住してきた人々にとって、米国で土地を取得できることが、どれほど大きな意味を持っていたかは、当時の書物にもさまざまな形で記されています。つまり、英国人も米国人も土地への執着は非常に強く、それは日本人と基本的に変わらないことがわかります。

 土地を手に入れることで資産を形成するという考え方は、現代においても米国人にとってごく一般的なものです。米国政府も国民の資産形成に高い関心を持ち、その実現のための政策に力を入れています。

 これは「個人の資産形成の総体が国の資産になる」という考え方に基づいています。持ち家を所有することで個人資産の約40%を形成している米国は、住宅や住宅地の開発を通じて、豊かな国づくりに成功している国なのです。

※1・2:中世ヨーロッパ(特にイングランド)において、荘園(manor)という土地とそこで働く農民を支配・管理していた人物や組織。主に貴族によって構成され、特定の荘園を所有・支配し、農民から年貢(地代)や労働(賦役)を徴収する権利を持っていた。

 グローブナー・スクエア(イギリス・ロンドン)

 18世紀に設計された、ロンドンのメイフェア地区にある主要な広場の一つ。土地の所有者であるウェストミンスター公爵家の姓、グローブナーにちなんで名付けられた。

【メイフェアの特徴】
 ●英国随一の格式と伝統を誇る超高級街区
 ●グローブナー家による18世紀からの計画開発が形成した街並み
 ●高級商業・文化施設と邸宅が共存する、複合型の都市構成

 ●地代収入とブランディングによる都市地主モデルの完成形


 

 ベッドフォードスクエア(イギリス・ロンドン)

 18世紀後半に、ベッドフォード公爵家が所有する土地に建てられた庭園広場。ロンドン特別区であるブルームズベリー地区に、上流・中産階級の住宅地として造られた。

【ブルームズベリーの特徴】
 ●計画的な街路とスクエア型の広場(庭園付き)
 ●多くの建物がジョージアン様式のテラス(れんが造り)
 ●文教機関が集まる知的エリアとして発展(ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンなど)
 ●開発時にリースホールドで貸し出し、現在も一部はベッドフォード家の所有地

 

ボウクス(川崎市)
内海健太郎 代表取締役

1967年、川崎市生まれ。92 年、父が経営する建材卸売事業者の内海資材(現ボウクス)に入社。94 年にキャン’エンタープライゼズ設立。2006 年、内海資材を事業継承し、ボウクスに社名変更。代表取締役に就任し、現在に至る。

(2025年 7月号掲載)

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