仙台を拠点に9棟約85戸 信金との信頼で築く堅実経営

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仙台を拠点に9棟約85戸 信金との信頼で築く堅実経営


佐藤祐一オーナー(仙台市)

 仙台市を拠点に、9棟約85戸を運営するのは佐藤祐一オーナーだ。年間家賃収入は約7500万円。地元の信用金庫3行と長年にわたる関係を築きながら、築古から新築、木造から鉄筋コンクリート造(以下RC造)まで幅広く手がける。

 決して派手な投資とは言えない。しかし、堅実な戦略で地方都市・仙台における成功モデルを体現している。

 「地元を知り尽くしているからこそ、リスクを抑えて安定経営ができるのです」(佐藤オーナー)

 この賃貸経営の歩みには、地域に根差す投資家ならではの着実な戦略が詰まっている。

売る側から、持つ側へ

 佐藤オーナーはもともと不動産会社に勤めていた。そこで、売買や管理、オーナー対応など、不動産業の現場を幅広く経験した。営業として数字を追う日々の中で、ふとした瞬間に思い浮かんだのは取引先のオーナーたちの余裕ある姿だった。

 「お付き合いしていた大家さんの中には月に何度も旅行に出かけたり、昼から趣味を楽しんでいる人も多かったんです。自分は数字に追われているのに、彼らは穏やかに笑っている。その差は何だろうと思いました」(佐藤オーナー)

 そして、不動産を「売る側」から「持つ側」へ。そう発想を切り替えたのが、オーナー人生の始まりだった。

 もともと事業者の立場で賃貸経営の構造は理解していたこともあり、後は実践するだけだったという。ただ、借金には抵抗があったため、まずは現金での小規模投資からスタートした。

区分2戸を現金購入

 最初の購入は、東日本大震災の翌年、2012年のこと。仙台市内で区分マンションを2戸、各500万円ほどで現金購入した。1戸はすでに入居者のいる物件、もう1戸は空室からのスタートだったという。

 「震災直後は家を失った人も多く、貸すニーズが非常に高かった。自分でも住宅を供給する側として社会に貢献できると思いました」(佐藤オーナー)

▲15年に仙台市内に新築したアパートの一室


 現金投資だったためローン返済もなく、安定したキャッシュフローを得られたことで、賃貸経営の経験を積んでいった。そして15年に念願の1棟目として仙台市内に木造アパートを新築。全8戸で、土地を含めた取得費用は約8000万円。家賃収入は年間750万円ほどで、月30万円を超えるキャッシュフローが生まれた。「この安定感なら、もう一歩進める」と、そこからの拡大が始まったという。

「地元のネットワーク」

 16年には中古アパート2棟を一括で取得した。一つは重量鉄骨造・10戸・築26年で、取得価格は約5000万円、利回りは約10%。もう一つはRC造・6戸・築21年のマンションで、約8600万円で取得し、利回りは約8%だった。いずれも仙台市内に位置しており、地元の不動産事業者や「仙台大家の会」などを通じて得た情報が購入につながった。

 「仙台市は人と人のつながりが強い場所。大家の会や信金の担当者から物件を紹介されることも多いです。地元で信頼を積み重ねるのが一番の武器になります」(佐藤オーナー)

 翌17年には仙台市の南に位置する名取市で築10年ほどの木造アパート16戸を約1億円・利回り約10%で購入。さらに18〜19年にかけて、仙台市内に土地を購入し、アパート2棟28戸を約1億5000万円・利回り約7%で新築した。また、同19年には地元企業アイリスオーヤマ(仙台市)の工場からの賃貸需要を見込み、仙台市から車で50分弱の位置にある大河原町に築1年の築浅アパート2棟14戸を約1億3000万円で購入した。利回りは約8%だった。

▲16年に仙台市内に2棟一括で購入したアパート

 この間、現金購入した区分を除くと、地元の信用金庫2行で融資付けができた。これまで運用してきたアパートの運営がうまくいっていたことも重なり、1件ごとに信用金庫との関係性が深まった、それにつれ、融資の相談もスムーズになっていった。地元エリアに絞って経営してきた信用が銀行融資を後押ししたという。そして19年、長年勤めた会社を退職し、専業オーナーとしての道を歩み始めた。

 「仕事を辞めても、物件が収入を生む安心感は大きかったです」(佐藤オーナー)

「使われる建物」を造る

 専業オーナーとなった後は、供給する物件の質に対してのこだわりも強くなったという。22年には大河原町で1LDKが8戸のアパートを建築。自ら企画し、設計段階から関わることで、近年の高いニーズに合わせたLDKの間取りをつくることができた。

 その翌年の23年には、初めてアパートの売却を経験。15年に記念すべき新築1棟目となったアパートを手放した。売却額は約9500万円で、新築から8年が経過した段階でも新築費用から約1500万円の上振れだった。その後、12年に各500万円で購入していた区分2戸を、それぞれ750万円で25年までに売却した。

 また同25年には仙台市内にRC造18戸のマンションを建築。1戸はガレージ付きで、バイクや自転車好きの入居者を想定した設計だ。総費用は2億6000万円に上り、これまでで最大の投資になった。

 「使われる建物を造ることが、結果的に建物の寿命を延ばします」と語るその言葉どおり、地域の需要を的確に読み取り賃貸経営に生かしていった。

▲25年に新築した仙台市のRC造マンション

「1時間圏」にこだわる

 現在は9棟約85戸を保有し、年間家賃収入は約7500万円になる。借り入れは信用金庫3行から計6億円を超える規模だが、返済比率は50%前後を維持しているという。そうした堅実な経営の背景には、「1時間圏ルール」と呼ぶ独自の基準がある。

 「物件は自宅のある仙台市から車で1時間圏内の、土地勘がある範囲でしか買わないようにしています。知らない場所で投資しても、地域の需給バランスや入居者層が見えにくい。地元の空気を知っていることが何よりのリスクヘッジです」(佐藤オーナー)

(2025年12月号掲載)

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