参道のにぎわいを生みながら固定資産税の上昇に対応する

土地活用賃貸住宅

<<まちづくりと土地活用>>

参道のにぎわいを生みながら固定資産税の上昇に対応

エリアの人気が高まることは不動産オーナーにとって喜ばしいことだ。だが、地価が上がり固定資産税が膨らんでくると、新たな活用方法を模索する必要も出てくる。固定資産税の上昇に対応する方法として「店舗併用住宅」での土地活用を選び、税金対策と地域のにぎわい創出の両方を実現したのが小林功オーナー(さいたま市)だ。

小林功オーナー(さいたま市)

上昇を続ける固定資産税 駐車場の収入が税金で消える

 JR高崎線大宮駅から徒歩15分ほどの場所に鎮座する武蔵一宮氷川神社。大宮氷川神社とも呼ばれるこの神社は、東京都や埼玉県におよそ280ある氷川神社の総本社。週末ともなると多くの参拝者がやってくる。

 その大宮氷川神社の参道脇に7月、「大宮氷川町家」が竣工した。「まちに開く」をコンセプトにした店舗併用住宅で「小商い」のスペースが特徴的だ。木造2階建てで、1戸が店舗、2戸が店舗併用住宅で構成されている。敷地面積は217㎡だ。

 もともとこの場所には月極駐車場とコインパーキングがあった。小林オーナーが元駐車場のスペースを含め、計1025㎡の土地を父親から引き継いだのは5年前のことだ。引き継いだ土地には、ほかに母屋と蔵、そして小林オーナーの自宅が立っている。父親の代までは駐車場の収入があれば特段大きな問題はなかった。

 だが、大宮が人気のエリアになるにつれて固定資産税が上がってきた。

 「駐車場の年間収入が150万円程度。受け継いだ土地の固定資産税でほとんど消えていく状態でした」(小林オーナー)

 固定資産税は今後も上がることが予想されるが、駐車場の料金はおいそれとは上げることができない。そこで「収益物件を建てることで、今後上昇する固定資産税の支払いに対応できるようにしよう」と考えたのが、初めての賃貸物件新築プロジェクトを立ち上げるきっかけだった。

まちづくりのプロとして人流をつくる仕組みを考える

 収益物件とはいうものの、いわゆる「一般的な」賃貸物件を建てるつもりはなかった。というのも、小林オーナー自身、さいたま市の職員として長年まちづくりに携わってきたからだ。

 「現在は駅前の再開発を担当していますが、以前はまさに大宮のまちづくりを受け持っていました。そのため『自分が行う土地活用が人に見られることになるのだ』という感覚はありました」(小林オーナー)

 過去に自宅を施工した工務店に相談し、プランを提案してもらった。出てきたのは2階建てのテナント物件。参道の人通りを見込むにしても「これでいいのだろうか」という気持ちが拭えなかった。

 そこで「まち全体を見ての設計ができそうだ」という期待と共に、乾久美子建築設計事務所(東京都新宿区)に相談を持ちかけた。乾久美子建築士からは「賃貸物件を考えるのであれば、収益性を含めた事業計画が大事」という指摘を受けた。その部分をサポートできる人物がいると紹介されたのがアラウンドアーキテクチャー(東京都板橋区)の佐竹雄太社長だった。地主に伴走する形でコンサルティングサービスを提供している佐竹社長と面談し、コンサルタントを依頼しようと考えた小林オーナーは、乾建築士、佐竹社長とともにプロジェクトを進めることになった。

 小林オーナーが佐竹社長から提案されたのは、店舗併用住宅だった。1戸の純然たる店舗(A)と2戸の店舗併用住居(B、C)で構成されたプランで、店舗部分はすべて1階に集約した。まちに開く形で集客力を備えるためだ。

▲店舗(A)と2戸の店舗併用住居(B、C)で構成されたプラン

 いわゆる小商いのできる住宅。この形は、将来的な地域のプレーヤーを育てることにもつながる。入居者がこの小商いスペースで成長し、まちの中にその商いを広げていく可能性があると考えた。

 このプランには小林オーナーのまちづくりへの思いを実現するとともに、固定資産税と都市計画税を抑える効果もあった。住居部分の面積を50%以上にすることで住宅用地と見なされ、軽減措置が受けられるというメリットが生かせるからだ。

参道にマッチした木の質感 土地の余白が付加価値となる

 結果として、3戸とも竣工前に入居が決まる人気物件になった。店舗はカフェ、店舗併用住宅は建築家と撮影カメラマンが入居した。

  参道のすぐ近くという立地はもとより、建物の建て方に工夫があったことがテナントの心をつかんだと考える。

 「3戸はそれぞれ少しずつずらした形で建てています。そのため、参道からどの店舗も目に入るという視認性の高さがあります。さらに、三方がほかの住戸と接しないため、独立した戸建てのような感覚なのも特徴です」(小林オーナー)

 氷川神社のお膝元ということで、建物は周辺の雰囲気に合わせたいと考えた。そのため外壁や内装に使う木材などにはこだわった。材料の高騰が続く中でも、建築費を含めた事業費は当初の計画と大きく変わらない約9000万円だったという。

 「計画当初からしっかり見積もりと計算をしてもらったからだと思います」(小林オーナー)

▲木材にこだわり、設備はシンプルにした内装

 コンサルタントや建築士と共に進めたプロジェクトだからこそのメリットを感じている。

 敷地いっぱいに建物を建てるのではなく、40㎡の中庭をつくったことも差別化の一つだ。もともと所有する土地であるため土地代がかからないという点では建ぺい率の上限まで使って収益を上げる必要はない。むしろ、余白をつくることで人々が入りやすく、結果としてテナントの集客にもつながる建築を目指した。

 中庭は共用部ではなく、カフェの専有部として貸し出す。イベントやマルシェに活用してもらえればと考えている。

 「店舗だけでは60㎡分の家賃設定になりますが、40㎡の中庭を付加価値としたことで家賃にも反映させることができました」(小林オーナー)

 店舗は約40万円、店舗併用住宅は約22万円。年間家賃ではおよそ一千万円となり、パーキングでの収入を大きく上回る。

 大宮が人気のエリアになったことで、賃貸物件の数も増えてきている。だが、一方で空室の数も多いという。そうした中で差別化を図って持続的に収益を確保できる物件になったと手応えを感じている小林オーナー。もちろん、まちづくりの視点からも物件に期待を寄せている。

 「今まで気軽に入れるようなカフェがなかった参道に、軽食が取れるカフェができます。そういうテナントが入る物件を造れたことで、地域の期待に応えられたのではないかなと。中庭のオープンな部分の使い方も楽しみですね。これから参道の空間とどうマッチしていくのかと想像するとワクワクしてきます」(小林オーナー)

 

(2026年12月号掲載)

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