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個人で建てた「住める映画館」
シェアハウスで支えるシアター経営
OttO
本当にみんなが気楽に立ち寄れる場所にしたい
埼玉県のJR京浜東北線大宮駅西口から徒歩5分。駅前の騒音が消えた先の区画整理を行っている住宅街を進むと、5階建ての建物が現れる。OttO(オット:さいたま市)という名のこの施設の入り口は多くの電球に照らされ、明らかに通常の住居ではない様相。1階のカフェでは食事をとっている人がいる。ふと見上げると天井がいくつも段差をつくりながら傾斜していて、階段が逆さまになっているようにも見える。
代表の今井健太氏が話す。「実はこの上が全部で53席の映画館になっていてその座席の形なんですよ。また、こういったミニシアターは中が見えなくて入りづらい雰囲気のところが多いんです。その課題を解決するため、1階をガラス張りのカフェにして外からも見えやすく、気軽に立ち寄ってもらえるようにしました」。

設計・撮影/佐々木善樹
同施設は「住める映画館」をコンセプトに、2025年4月にオープン。ミニシアターとカフェに加え、25部屋のシェアハウスが共存する点が特徴の複合施設だ。
同建物は代表である今井氏の義父が所有する。以前この場所にはいわゆる普通の賃貸アパートが建っていた。
「元は義父所有のアパートがありましたが、大宮駅周辺の区画整理の一環で、遅かれ早かれ建て替えなければいけませんでした。また義父の『建て替えた後に実際に運営することになるのは子どもたちの世代だから』という配慮から、義理の息子である私に『何か出来ませんか』と相談を持ちかけられたのが始まりです。何に建て替えるかを決めるにあたり、映画館となったのは、本当に単なる思い付きでした」(今井氏)

実は今井氏も最初はアパートに建て替えることを考え、建築家に依頼して図面まで引いてもらったという。しかし同時期、区画整理に伴い単身世帯向けのマンションが乱立して、街がつまらなくなっているとも感じていた。そこで、図書館に行き街の歴史をひも解いた。すると大宮は当初国鉄の労働者が移住し栄えた街で、その時に皆でお金を出し合って芝居小屋のような娯楽施設を建てるなどしていたことがわかった。しかも大宮には多い時には12館も映画館があったが、いまはゼロになっていた。
「人々に本当に必要とされるような場所をつくりたいと思いました。そしてそれは気楽に立ち寄れるような場所でもあるべきだと。私の感覚でいえば、それこそ公衆トイレのようなイメージなんです」(今井氏)
映画館を造ろうと決めたが、今井氏に映画館運営の経験はない。そこで、この道の先駆者たちに話を聞くことにした。「NPO法人埼玉映画ネットワーク(同)設立者の竹石研二さんは、深谷シネマという映画館の館長をやっていました。彼のプロフィールをみると『元々水道設備工事の仕事をしていて、50歳の時に映画館を造りたいと思い立った。そして、造った映画館が区画整理事業によって移転した』とありました。僕も当時50歳で、本業は設備工事。さらにきっかけは区画整理事業。キーワードがつながり、会いに行こうとなりました」(今井氏)
この竹石氏をはじめ、建築士や映画館関係者など、今井氏は数多くの関係者に話を聞き、検討を重ねていった。映画館運営の素人であることを自覚していたからこそ、周囲の声を素直に受け入れ生かしてきたという。
映画館の建設にあたっては、資金が大きな課題だった。大部分を賄ったのは銀行融資だったが、融資が通るまでには苦労があったという。銀行からは映画館運営は収益が上がる事業としては考えてもらえず、融資額は伸びなかったのだ。そこで考えたのが、映画館以外に収益を上げる経済活動を同建物内で行うこと。それが、シェアハウスとカフェを併設するという選択につながった。
- 設計・撮影/佐々木善樹
左:1Fの柱は映画関係者たちのサインですでにいっぱいだ
中:シェアハウスの部屋にはベッド、デスク、ハンガーラックが用意されている
右:カフェにはバルコニー席もある。天井の電飾がシアターらしい雰囲気だ
必要な収益を達成するために、より高収益が期待できるシェアハウスに用途を定めた。そして3~5階部分に全25室を設計した。1部屋あたりの賃料は8万8000~9万8000円(25年11月末時点)で、満室時の月収は約226万円。1階部分にはカフェもつくり自社で運営する。このカフェの売り上げとシェアハウスが約9割稼働した場合の収益で、映画館の売り上げがゼロだったとしても、工事費用の返済ができるバランスをつくった。これを事業計画書に落とし込み、なんとか銀行を説得。希額金額で内定をもらうことができた。
しかし、喜んだのもつかの間、着工の直前に突然融資減額の通知がきたという。すでに手配を完了していた工事を止めることはできない。そこで直前まで部材の見直しなどで可能な限りコストを削減。また今井氏の本業が設備工事ということを生かし、建物の設備工事を自身が担った。これにより、工事費を抑えることができた。
「それでも資金は不足していました。しかし、改めてこの事業にかける思いを融資担当者にプレゼンをするなど活動し、最終的には銀行が融資額を見直してくれて資金問題は解決しました。コストカットの努力とともに、この場所に映画館を建てることの意義をもう一度考えてくれたのだと思います」(今井氏)
25年春にオープンして以降、シェアハウスの入居率も7割以上を維持。次の繁忙期で9割を超える予想だ。利用者から「映画館をつくってくれてありがとう」「家のようにくつろげる場所です」と言われたという今井氏。それこそが人々が気楽に立ち寄ることができ、必要とされる場所としてOttOが狙った立ち位置だと今井氏は言う。
ここに映画館を建てることの意義を
銀行も理解してくれたのだと思います
代表 今井健太 Kenta Imai

(2026年2月号掲載)

個人で建てた「住める映画館」-OttO
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