2代で地域に求められる物件を手がける -山大

土地活用その他建物

<<地主の挑戦>>

2代でスーパーや福祉施設誘致
地域に求められる物件を手がける

埼玉県川越市で賃貸住宅やテナント物件などを管理・運営する山大(埼玉県川越市)の山田圭輔取締役。もともとは代々続く農家であり、賃貸経営としては3代目になる。山田取締役は、地域に求められる物件を手がけることで、地域住民に「ありがとう」と言われる物件づくりを目指している。

山大(埼玉県川越市)
山田圭輔取締役

 埼玉県川越市と狭山市の境にある西武鉄道新宿線南大塚駅。同駅から少し離れると、所々に田畑が残り、観光地として名の知れた隣の本川越駅と比べると、静かな住宅地といった趣がある。

 その南大塚駅周辺に住む人々の生活を支えているのが、駅から徒歩2分の場所にあるスーパーマーケット「いなげや」だ。1995年に山田取締役の父親が誘致して建てたテナント物件だという。

 「それまで周辺住民は車で15分ほどかけて買い物に行く必要があったそうです。このスーパーができてから利便性が高まり、駅前には分譲マンションも多く竣工されました」(山田取締役)

 いなげやの隣には、47戸のRC造マンション「山大マンション」が立つ。そのほか1棟8戸のアパート「エクセレントハイツ」、2棟5戸のガレージ賃貸「ストラーダ」、看護小規模多機能型居宅介護(看多機)施設や月極駐車場があり、いずれも山大で管理・経営している。

▲山田家が誘致したテナントは駅前になくてはならない存在だ

 

 家業に参画し始めて10年目を迎え、好調な賃貸経営を続けている山田取締役だが、継いだ当初は苦労の連続だったという。

父親の大病がきっかけ 手探りで賃貸経営に携わる

 2015年、当時29歳の山田取締役が家業に入ったきっかけは、父親が大病に倒れたことだった。それまでは歯科技工士として勤めていたものの、家に戻ることはすんなり受け入れることができたという。

 「私には兄がいるのですが、兄は歯科医としてのキャリアをまい進していました。そのため、いずれ賃貸経営を継ぐのは自分になるだろうと考えていました」(山田取締役)

 だが、入院した父に代わって行うことになった賃貸経営はスムーズにはいかなかった。長年、父は1人で自主管理をしていた。そのため、賃貸経営は父だけが知る「アンタッチャブルな領域」だったのだ。現在も山大の収入の柱になっている駅前スーパーは大企業との長期契約で安定している。問題は、それ以外の賃貸住宅や駐車場だった。

 そこで、まずは書類を洗いざらい調べることから始めた。毎月届く請求書や手元に残っていた明細書を集めることで、父がどういう事業者に依頼をしていたのかを調べていった。

 入居者についても、契約書を探すところから始めた。仲介を依頼していた地元の不動産会社に協力してもらいながら契約書を集めていき、入居状況を確認した。

 マンションの入居者に関しては長期間の滞納者はいなかった。一方で、45台の月極駐車場は滞納が多く、ひどい場合は5~6年も支払われていない状態だった。滞納者に連絡を取ってみたが「今更そんなことを言われても」と反発を受けることもしばしば。それでも、帳簿を細かくチェックしながら、2年弱をかけて可能な限り未納分の回収を進めていった。

 

管理会社とタッグを組む 物件リノベで家賃アップ

 駐車場の滞納問題と同時に、山田取締役が向き合ったのは山大マンションの空室対策だった。というのも、当時の経営は危機的な状況だったからだ。

 山大マンションは1983年に祖父が建てたファミリータイプのマンション。父が専業家主として事業を引き継いだ89年は、ほぼ満室で安定的な経営状態だった。しかし、その後長らくの間、父はリフォームやリノベーションを一切行ってこず、物件の価値は下がっていた。結果として2015年には空室率50%、家賃も周辺相場が8万円のところ6万円台という惨憺たる状態に陥っていた。

 事態を打開するために、山田取締役はまず自分でリフォームを行おうと考えた。空室になっていた専有部のクリーニングを自分で行ったり、アクセントクロスを貼ったりなど試行錯誤をしてみた。

 だが、自力で行うリフォームには限界があった。そこで、管理会社に管理を委託することを決めた。

 「管理会社にリフォームを依頼できるようになり、空室対策へのスピードが格段に上がりました」(山田取締役)

 さらに管理会社と共にリフォームのアイデアを練り始めた。

 当初は浴室まで含めたフルリフォームを行っていたが、大きな金額をかけても、家賃に反映するのは難しいと感じた。

 「管理会社と話し合う中で浴室は、シングルレバー混合栓への交換だけでも十分という結論になりました。その代わり、1戸につき200万~300万円でキッチンと洗面台を入れ替えるなど、リフォームプランを練り直していきました」(山田取締役)

 そのほか、いわゆる田の字形の3DKの間取りを広い1LDKに変更するなどのアップデートを実施。設備に関しても、管理会社からトレンドをヒアリングし、無料インターネットや宅配ボックスを導入した。そのかいあって、家賃は周辺相場の8万円までに上げることができた。

 

エリアにないものを建てる 競合を避けて経営に勝つ

 こうして、懸案だった山大マンションの経営改善に何とかめどを付けた山田取締役は、次なる物件づくりに取り組むことになった。

 「祖父は山大マンションを竣工。父はいなげやを誘致。改めて、自分の代では何を手がけることができるだろう」。そう考えた山田取締役が19年に初めて建てた新築物件がガレージ賃貸、ストラーダだった。

 「私は⾞が好きで、いつか同じように愛車を持つ人向けの物件を建てたいと思っていました」(山田取締役)

 2棟5戸で間取りは2種類。基本的に1階がガレージ、2階は居住部分だが、3戸は1LDKという間取り。ほか2戸は1階ガレージ部分にガラス張りの小部屋を造り、愛車を眺められるサービスルームのある1LDK+Sにした。前者が11万円台、後者が12万円台の家賃で、利回りは10%ほどだ。

 「関越自動車道川越インターチェンジに近い立地というのも、ガレージ賃貸に向いていると考えました」(山田取締役)

▲初めての新築は自身の趣味も反映。近隣で初めてのガレージ賃貸は人気物件になった

 川越市内に同様の物件が少なかったこともあり、竣工して間もなく5戸すべてが埋まった。

 「先日、家を建てるという理由で1件退去があったのですが、募集から1カ月以内には次の入居者が決まりました」と山田取締役が話すほどの人気物件だ。

 初めての新築物件に手応えを感じた山田取締役は、続いて更地となっていた1084㎡の土地の活用を考え始めた。駅からは徒歩15分ほどで、周辺には大手の不動産会社が建てた築浅のアパートが多くある。同じように賃貸住宅を竣工しても勝ち目はないのではないか。そう考えた山田取締役は、高齢者向け施設の建設を念頭にリサーチを開始した。

 真っ先に浮かんだのはサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)だった。だが、サ高住は今後も数が増えてくることが予想される。競合が多くなれば価格競争にさらされてしまい、結果として賃貸住宅を建てるのと変わらない状況に陥るのではないか。そこで山田取締役がたどり着いたのは看多機だった。

 「看多機であれば、川越市介護サービス基盤整備基本方針の中で、3年単位の各年度で建築できる地区、建物が規制され、乱立できないというメリットがあります」(山田取締役)

 大手の福祉事業者とマッチングし、川越市役所に計画を提案したうえで22年、許可を得て建設した。事業者とは30年の定期借家契約で月の賃料はおよそ80万円だ。

 「1億円程度かけて建てたため、利回りとしては10%に届きません。ですが、競争相⼿が限られるので、事業者の安定した収⼊が⾒込め、オーナーである自分にもメリットがあると考えます」(山田取締役)

 所有地のうち看多機の建物として490㎡を使用。残りの594㎡を月極駐車場として、看多機の職員が利用できるようにした。

▲競合の数を抑えられ、地域貢献にもなる看多機

 

自分の代で建て替えを予定 地域に必要な施設を考える

 現在、山田取締役が管理・運営する賃貸物件の年間家賃収入はおよそ1億円だ。そのメインは今も父の代に誘致した駅前のスーパーからのテナント料だという。

 しかし、スーパーを誘致して30年。「次のステップを考える時期に来ている」と山田取締役は言う。スーパーからのテナント料が安定している間に、将来の撤退時に支えとなるような物件を造っておきたい考えだ。

 土地を受け継いだ人間として、地域の人が喜んでくれるような物件を造りたい。そう思う山田取締役が念頭に置いているのは、複数の診療所や薬局を1カ所に集めた「医療モール」だ。

 「南大塚駅周辺にも、個人経営の医院が点在していますが、内科の数が少なく、2~3時間待ちは当たり前という状況があります。せっかく土地を活用するなら『山田さんありがとう』と言ってもらえるようなものをつくりたいですよね」(山田取締役)

 そこで、山大マンションを建て替え、医療モールにする予定だ。山大マンションはすでに築42年。山田取締役が経営を受け継いでから10年間、リフォーム・リノベで価値向上を図ってきたが、それでもハード部分の経年劣化は避けられない。今後、受水槽や外壁など、数千万円単位での修繕が見込まれている。「それであれば、思い切って建て替えをして医療モールに生まれ変わらせたい」と山田取締役は言う。

 大病を乗り越えた父も今ではすっかり息子に経営を任せてくれるようになっている。祖父から3代にわたって地元で賃貸経営を続けてきた地主として、今後も地域発展のために尽くしていきたいと願う山田取締役だ。

元サッカー少年として地元チームのスポンサーになる

 山大は2021年から川越市を本拠地にする関東サッカーリーグ2部所属の「COEDO KAWAGOE(コエドカワゴエ)F.C.」とスポンサー契約を結んでいる。
 山田取締役と同クラブの元ゼネラルマネジャーが高校時代にサッカー部の先輩・後輩という関係だった縁だ。
 「川越で事業を営む者、また元サッカー少年としてJリーグ参入という目標をサポートしています」(山田取締役)

▲応援するチームのユニホームを手にする山田取締役

(2026年2月号掲載)

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