空室対策から建て替え、売却まで 賃貸経営の目線であらゆる提案を
賃貸住宅のプロパティマネジメント(以下、PM)を手がけるアートアベニュー(東京都新宿区)。
1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)で約7400戸を管理する同社は、自社で賃貸仲介を行わず、管理事業を通したオーナーの賃貸経営サポートに徹している。具体的な業務内容や事業方針について、プロパティマネジメント事業部の片平智也部長に話を聞いた。
アートアベニュー(東京都新宿区)
プロパティマネジメント事業部 片平智也部長(41)
――PM事業における部門構成を教えてください。
空室対策の提案や仲介会社への営業を担うリーシング部門のほか、建物巡回や入居者対応で安定した現場運営を図る現場管理部門、契約書作成や更新業務を担う業務本部、建物の売買に関する実務を行う売買部門、設備投資や購入・売却・資産活用などを支援するコンサルティング部門、そして管理受託提案を行う部門に分かれています。間接部門を含め、PM事業に携わる社員数は約50人となります。
――PM事業における特徴や行動指標は何でしょうか。
当社の特徴の一つとして、自社で賃貸仲介を行わず、空室情報を広く拡散して早期の成約を図っている点があります。そのため、日頃から仲介会社とのやりとりが重要になります。リーシング部門に在籍する10人の仲介会社の訪問数は、1人あたり月間60~100店舗。時期によって増減はありますが、全体で5000店舗超との取引があります。
店舗訪問時には、当該エリアでどういう物件が人気があるかやその理由などをヒアリングします。また、当社の管理物件における内見結果や反響の多寡も確認し、賃料や広告費の見直し、設備導入の提案などを行う際の参考にしています。当然、これらの活動は管理物件の稼働率を上げることが目的ですが、目標とする稼働率は98%以上で、現状は東京23区で98%、全体で97・71%(5月31日時点)で推移しています。
2023年から24年にかけては賃料アップの提案にも注力しています。エリアによって数字は異なりますが、新規募集のうちの4割以上は、賃料を上げることができています。都心の物件やファミリー向けの物件が特に顕著です。各自の担当物件のうち、何戸で賃料を上げることができたか、従来の賃料から何%上げることができたのかを見るようにもしています。
――家主とのコミュニケーションの機会はどの程度設けていますか。
現場管理の社員も含め、およそ15人で約1000人の家主とやりとりしています。面談時の相談内容は担当社員の経験値によって変わりますが、人気設備の導入やリフォーム工事など、早く、高く成約を得るための会話がベースになります。
家主の属性は、半数が地主、半数がサラリーマンを中心とした投資家層です。面談時に重要視しているのは、賃貸経営を将来どうしていきたいのか、ということ。例えば、建物が古く、あと10年程度で壊すことになった場合、リノベーションや設備導入は適しません。売却や相続のことを考えると、あえて工事や設備交換はせずに建て替えに向かって動きましょうという話もできます。そのため、経験値の多い社員は将来を見据えた会話をするように努めています。
家主にとって利益になる提案しかしないというのが、会社全体の大方針です。ここが崩れると、社員が自分の成績のためだけに頑張って数字を追いかけてしまいます。家主が最も良い選択肢を、迷わずに決められるだけの情報提供を正確に行う。それが私たちの仕事だと思っています。稼働率の向上策の提示、建て替えの提案、将来的な賃貸需要を見越して売却も検討すべきなど、経営の視点であらゆる提案をします。例えば、家主自身と、この先事業を引き継ぐ子どもとの考えにギャップがあるケースでは、家族の会議に私も参加させてもらい、将来に向けた方針を決めていくこともあります。
――昨今は、不動産にとどまらず家主の資産全般を管理する会社を目指す動きも出てきている印象です。
家主が管理会社に求めているのは、まず、自分の代わりに現地に行き、目となり手足となり、報告や対応をしてくれること、そして空室を埋めてくれることだと思います。資産管理のほうに目がいきすぎると浮足立つので、現場管理もしっかりやっていく。そのうえで、長期目線で資産の見直しを提案できるようになることも重要です。
――片平部長は、外部企業の管理実務者向け養成講座で講師をしていますね。
講座自体は、もともとは当社内で行っていたもので、賃貸経営において家主と将来的な話ができない社員が多かったことが発端です。なぜ将来の話をしないかというと、家族の話や将来の賃貸需要の相談に乗ったとしても解決案が提示できないから。だから切り出したくないのです。知識があれば質問する動機ができ、家主が持つ悩みに応えられれば仕事はもっと楽しくなる。そこで、家主への提案に必要なスキルを40項目にまとめたリストを作って、6日間で座学を中心に習得する講座を2年ほど前につくりました。当時、PM事業部に在籍していた18人に受けてもらい、仕事への動機付けができたのです。顧客に「ありがとう」と言ってもらえることが増え、扱う案件が大きくなれば、やりたい仕事の幅と深みが増して、やりがいにもつながりますよね。
今後、入居者属性の多様化や中古住宅の活用、エリアの活性化などが課題になる中、不動産管理への家主の期待値はこれまで以上に高くなると思っています。その期待に応えられるよう、管理事業に携わる一人一人のレベルを上げていくことに注力していきます。
(2024年8月号掲載)
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