THE 地域共生:地域と不動産事業の発展

相続事業継承#賃貸経営#相続#地域

地域の魅力をPRし不動産事業の永続を図る

人口減少に悩む地方都市が増えている。愛知県名古屋市と中部国際空港の間にある知多市もその一つ。ベッドタウンとして人口が増えたが、2010年をピークに減少の一途をたどる。その知多市で、幅広く不動産賃貸事業を展開するのは、竹内合名会社の竹内公朗代表社員(以下、竹内代表)だ。竹内代表は地元の住みやすさや観光スポットをPRし、自身の不動産事業の永続を図る。

竹内合名会社(愛知県知多市) 竹内公朗代表社員(69)

地域の歴史文化を伝える

 知多半島に位置し、名古屋駅までは名古屋鉄道の特急に乗れば30分ほどで行くことができる知多市。ベッドタウンとして人口が増えた地域だ。その昔、繊維産業で栄え、今も趣のある古民家や古い町並みが残る。

 知多市の魅力を「ユーチューブ」やホームページで発信する人物がいる。貸し駐車場140台、事業用貸地8件、事業用貸し建物3棟、賃貸住宅14棟57戸を運営する竹内合名会社の竹内代表だ。

「今後リスクがあるのは自分の賃貸経営よりも、地域環境」と危惧する竹内代表は、地元の歴史・文化を発信することで、人口が減少しつつある地元に不動産事業者として人を呼び込もうとしている。

▲土蔵を改修した築160年超の事務所 

 竹内代表の実家や所有地は知多市中央部の岡田地区にある。岡田にはかつて地域住民の娯楽施設としてにぎわっていた劇場「喜楽座」があった。この劇場は1925年に地元の有志40人の出資により、竹内合名会社の所有地に建てられた。67年まで芝居・演芸・映画を開催し、最盛期の60年頃は知多半島全域から観客が集まったという。竹内代表にとって、街のにぎわいは子どもの頃の日常風景だった。

 だが、喜楽座は時代とともに徐々に活気を失い、閉館。その後はしばらく家具店として貸し出されていたが、90年に閉店した。さびれてしまった喜楽座の跡地をどうにかしたいと思った竹内代表は、92年に喜楽座の株式を取得し、老朽化した元喜楽座の建物をレンガの外壁が特徴的なアパートに建て替えた。アパートの敷地には喜楽座の跡地であることがわかるように説明看板を設置している。

▲1925年にオープンした「喜楽座」

相続対策で借地権整理

 知多市岡田で生まれ育った竹内代表は、大学進学を機に上京し、卒業後も東京の会社に就職した。地元に戻ってきたのは、86年のこと。祖父の体調が悪くなったことがきっかけだ。すでに父親は亡くなっており、母親一人で祖父の世話をするのは大変だろうと思った竹内代表は、30歳のときに家族と共に知多市へ12年ぶりに戻ってきた。その後、地元の不動産会社に就職した。

 実家に戻りまず着手したのは、資産状況の確認だった。当時貸し宅地28件と長屋を賃貸していた竹内家では、不動産賃貸業の収支状況がマイナスだった。祖父が生きているうちに対策をしなければならないと考えて、将来道路が建設されそうな場所にある農地を買ってアパートを建てた。

▲喜楽座跡地に建てたレンガのアパート

 「時代はバブル前。東京にいたときに不動産が値上がりしているのを住宅情報誌で確認していたため、半年遅れで大阪、1年遅れで名古屋方面も値上がりするだろうと思ったのです。バブルという時代が重なったこともあり、金融機関から資金を貸してもらいやすかったです」と竹内代表は当時を振り返る。土地を買ってアパートを建てるという手法で借入金をつくった。一方、借地人からの依頼により底地を売却することもできたことで資金も得た。だが、相続税は一度では払いきれず、20年の分納とした。

 相続の手続きが終わった竹内代表は、竹内合名会社で30年に、不動産事業と建築事業を始め、建て売り分譲事業を展開した。

 2000年に入り、着目したのが、レンガの家だった。レンガはオーストラリアからコンテナ輸入し、主な建材は北米から輸入。レンガ壁はおしゃれで女性に人気が高い。遮音性、断熱性にも配慮。さらに、2×6(シックス)材も含む2×4(フォー)工法で省令準耐火構造とした。レンガの家によって、「レンガの家といえば竹内合名会社」と地元で認知されるようになった。

 07年に入り、人口減少と空室増加が予想されるのに、新築住宅を造り続けることに疑問を持つようになった竹内代表。そんなときに次の転機が訪れた。リーマン・ショックだ。リーマン・ショックにより土地と建材の価格は下落。そこで土地を購入して、レンガのアパートを自身で建てて賃貸することを始めた。

 現在、所有するアパートのうちレンガのアパートは12棟47戸でそのうち10棟45戸を09~11年の3年間で建てた。不動産賃貸事業で売り上げを安定させることができた。借地権の買い戻しやその隣地を購入したことで、結果的にはもともとの所有エリアに賃貸住宅を集中できたのだ。そのため、「レンガのアパート村」と呼べるほどの景色が広がる。

▲名鉄線朝倉駅ホームに設置している広告看板

入居者との関係性を重視

 賃貸経営も順調だと思われていたが、19年に大変な事態が起きた。消費税アップ前の新築住宅建設ブームの影響で所有アパート47戸中21戸が空室になってしまったのだ。それまで入居者募集はすべて大手仲介会社に任せていた。ところが、大手仲介会社もなかなか客付けができずにいた。

 「自分で動くしかない」と思った竹内代表は、レンガのアパートのホームページを自社で立ち上げた。さらに自社が宅地建物取引業免許を取得していることを生かしポータルサイトに広告を出し、その後の内見対応も自身で行うようにした。内見立ち会いでわかったのは、入居者のニーズだった。

 例えば、小さな子どもがいる家族であれば、洗濯物の量がは多く部屋干しは重要だ。そう考えて、内見時に「どの位置に室内物干しがあるといいですか」と場所の希望も聞きながら、入居するなら新設すると提案するのだ。「不動産業は生活サービス業」と考えるようになって、どんどん入居が決まっていったのだという。

▲地元の魅力をユーチューブで発信する

 さらに、新型コロナウイルス下では、入居者の仕事状況も大変だろうからと、期間限定で家賃の支払いや生活資金についての相談を受ける生活相談窓口を設置。万一のことを考えて政府が実施した実質無担保無利子の融資を利用して、備えた。

 竹内代表は自身の賃貸経について心配はないという。だが、「持続可能な賃貸経営には持続可能な地域環境が不可欠」と竹内代表が話すように、空き家が目立ち始めた知多市の状況に危機感を抱く。だからこそ、地域の魅力を発信することが重要だと考えて行動しているのだ。

 「自分一人でできることは限られます。地域の方々、行政と連携して住みよいまちづくりに不動産事業者として貢献していきたいと思います」と竹内代表は力強く語った。

▲海外から輸入するレンガ造りの物件は女性からの支持も厚い

(2024年10月号掲載)

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