融資の際に銀行が本業の実績を評価
物販事業と不動産事業の相性の良さを生かす
インターネット上に店舗を構え、物販事業を行う小田一成社長。もう1本の事業の柱として選んだのが不動産事業だった。不動産からの収入は安定しており本業との相性もいい。小田社長に本業と不動産の経営について話を聞いた。
Ionas (新潟県新発田市) 小田一成社長(45)
3年間で7棟64戸を購入
インターネット通販で物販事業を行うIonas(イオナス:新潟県新発田市)。サプリメントの開発・販売や輸入商材の販売を行う株式会社だ。小田一成社長は、本業の傍ら3年前から賃貸経営を行っている。「不動産は時間の流れがゆっくりです。購入はすぐにはできませんが、その後の収入は安定しています。それに対してネットでの物販は時間の流れが早く、競合相手が急に現れると売り上げが落ちることもあり、息つく暇がありません。事業として時間の流れが違うのがいいですね」と話す。
現在、賃貸住宅として所有するのはアパート7棟64戸と戸建て1戸。戸建てはかつての自宅を貸しているもので、投資として購入したのはすべて一棟ものとなる。「本業で稼いだ現金もありましたし、付き合いのある銀行からも融資を受けられる状況だったため、築古戸建てから始める発想はありませんでした」(小田社長)
2021年に初めて購入したのは新潟市の10戸の築古木造アパートだった。市内の一等地で間取りは1K。資産価値と利回りを重視して条件に合う物件が売り出されるのを待っていたため、実際に買うまでに1年半かかってしまったという。2400万円で購入し、利回りは17%ほどだ。24年に2戸空室が出たものの、「多少の空室では収支がマイナスになることがないため、いい条件の物件を待ったかいがありました」(小田社長)
▲新潟市内の木造アパートから不動産事業が始まった
続いて22年には、新潟市内に木造新築を購入した。地場の不動産事業者と工務店が土地と建物をセットで販売していたランドセット物件だった。金額が高く、初めての新築物件で分からないことも多かった。そして悩むこと2カ月。幾度もシミュレーションを重ねた後に購入した。2階建てが2棟で20戸、間取りは1LDKと1DKで単身もしくは2人入居希望者がターゲットだ。土地込みで1億5000万円だった。契約がウッドショックの直前だったため、建築中に高騰した分の工事費用を負担する可能性があったが「本当に偶然ですが、環境が変わっても工事金額は変更しないという覚書を結んでいて助かりました」と小田社長は振り返る。利回りは10%を超えており、所有物件の中でも1番の稼ぎ頭となった。
それ以降も、新潟市や、新潟市から車で20~30分ほどの新発田市に物件を増やしていった。RC造のほか、重量鉄骨造などの物件を3年間で買い進めた。
現金買いした1棟以外はすべて銀行から融資を受けている。本業ですでに取引のあった銀行を含めて、いろいろな銀行の融資を受けた。このエリアの銀行からはある程度融資を受け尽くしたという。「次の投資に備えて、銀行ごとの特色を分析しています」(小田社長)
物販事業への銀行評価は高い
個人事業主として5年間、その後法人化して10期目になる。大手通販サイトに出店し、海外から仕入れた売れ筋商品を販売している。近年は、仕入れ販売だけでなく、自社の商品を持ちたいと考えたことからオリジナルのサプリを企画・開発。それが主力商品となり23年度の年商は2億円だ。
20代の頃は普通のサラリーマンだった小田社長。副業で行っていた物販に可能性を見いだして起業した。「マーケットを見て売れるであろうものを仕入れて売ってきました。チェーンソーを販売していたこともあります。物販事業はマーケットの分析と商品仕入れ力、販売力が大事です。17年ごろは大手通販サイトで戦略的にサプリを売っている事業者がなかったので、オリジナル商品としてサプリを選びました」と振り返る。サプリを販売してすぐの頃は、ライバルがいなかったため年商も3億~4億円ほどまで成長した。しかし、19年ごろから競合他社が出てきて、徐々に売り上げが落ちてきてしまったのだという。開発以外の仕入れ販売を強化したものの、下がる売り上げを補填するだけの効果はなかった。
もう1本事業の柱が欲しいと考えていた時に出合ったのが不動産経営だった。不動産投資をしている友人に勧められたのをきっかけに勉強を始めたという。「株には個人的に興味がありませんでしたし、物販のコンサルティング事業やメールマガジン配信も検討しましたが、水ものなので本業との相性が悪いと感じました」(小田社長)。いざ物件を買おうと思うと、本業との相性の良さに気付いたのだという。銀行の融資を受けるにあたって、物販事業の実績評価が高かったのだ。「物販は在庫を持つ商売ですが、商品の在庫は実業による資産として見られやすい流動資産になります。また、不動産は固定資産になるのですが、固定資産よりも流動資産の方が現金化しやすいとされ、銀行からの評価が高いのです。流動資産をしっかり持っている点が少し有利に働いたと思います」と小田社長は話す。また実際に賃貸経営を始めてからも、安く買えれば失敗が少なく、競合と比べて勝てる点を探すといった物販の考え方がそのまま生かせることに気付いた。全く異なる性質の事業だが、頭の切り替えはさほど必要なかった。
不動産からの収入を助けにする
ここ2年は本業の業績が振るわなかった。小田社長は不動産に助けられたことを実感している。本業の売り上げに対しての割合はまだ低いものの、安定した最低限の収入が保証されているように感じて安心感があるからだ。「物件を買い進めて本当によかったと思っています」(小田社長)。そして、不動産経営事業の拡大とともにサプリ開発にも再度本腰を入れた。24年にリリースした新商品も順調に売り上げを伸ばしており、25年度までには、最盛期の売り上げに戻せる見込みだという。
今後は「不動産からの収入という助けを得ながら、ますます本業を伸ばしていきたい」と話す小田社長。将来的には2人の子どもへの事業承継も見据え、二つの法人でバランス良く物件を保有したいと考えている。
(2024年10月号掲載)
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