2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、住宅の省エネルギー性能の向上が話題になっている。これからの賃貸住宅市場においても省エネ性能向上が注目されつつある。高気密・高断熱住宅を手がける建築会社を家主に紹介する住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)の代表取締役の高橋彰氏が省エネの重要性をわかりやすく解説する。
脱炭素社会の実現に貢献する
ここ数年、木造の中高層建築物が相次いで竣工しています。
その背景にあるのは、脱炭素への取り組みをはじめとした環境意識の高まりです。
戸建て住宅の場合、気密・断熱性能にこだわるのであれば、木造が最良であることは今まで再三説明してきました。木造建築物はしかも、脱炭素社会の実現にも貢献するのです。
林野庁によると、住宅1戸あたりの材料製造時のCO2排出量は、鉄骨プレハブ造住宅が14・7トン、鉄筋コンクリート造住宅が21・8トンであるのに対して、木造住宅は5・1トンと大幅に少なくなっています。また木材は、建物として利用されている間も炭素を貯蔵していますから、木材製品を増やすことは温暖化の抑制につながります。炭素貯蔵量は、鉄骨プレハブ造住宅が1・5トン、鉄筋コンクリート造住宅が1・6トンであるのに対して、木造住宅は6トンに上ります。
なお、戦後に植林された国内の森林資源は本格的な利用期を迎えています。木材の利用は、森林循環(造林・伐採・木材利用・再造林)を通じて、森林のCO2吸収作用を強化し、脱炭素社会の実現に貢献します。
木材利用の普及促進に関する法律が改正
あまり知られていない法律ですが、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」という法律がありました。21年に大幅に改正され、名称も「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に改められています。
この法律は従来、国や地方自治体に対して、公共建築物を建築する際に、木造を積極的に選択することを促し、木材利用の推進を図るという趣旨でした。
今回の改正により、木造を積極的に選択するべき対象が公共建築物だけでなく、民間事業者にも拡大されました。すなわち、民間事業者も、木造を積極的に選択することを求められるようになったのです。また、国民に対しても、「木材の利用促進に自ら努める」ことを求めています。
さらに、法律の目的も改正前より一歩踏み込み、「脱炭素社会の実現に資する」ことが明示されました。
人気を集める木造賃貸マンション
法律の改正もあり、中高層の木造住宅が相次いで供給されています。三井ホーム(東京都新宿区)は21年、東京都稲城市に、5階建て(1階RC造、2階〜5階木造、総戸数51戸)の「MOCXION INAGI(モクシオンイナギ)」(写真1)を竣工。それを皮切りに、木造賃貸マンションを積極的に展開しています。
木造でもアパートではなく、マンションと表記できるようになったこともあり、人気を集めているようです。
従来、木造の集合住宅は「アパート」という表記しかできませんでした。しかし、大手不動産情報サイト運営事業者や住宅メーカーが共同で広告などの掲載ルールを改定し、次の基準を満たせば、「木造マンション」と表記できるようになりました。
⑴共同住宅であること
⑵3階建て以上であること
⑶住宅性能評価書を取得した建物であり、以下の条件の両方を満たしていること
・劣化対策等級(構造躯体など)が等級3
・耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)等級3または、耐火等級「延焼の恐れのある部分(開口部以外)」が等級4、もしくは耐火構造
新たな工法によるオフィスビルも竣工
マンションだけでなく、木造の中高層オフィスビルも次々と竣工しています。例えば大林組(東京都港区)は、22年から横浜市に同社の次世代型研修施設として、11階建ての高層木造耐火建築物「Port Plus(ポートプラス)」を建設しています(写真2)。柱や梁、床、壁という地上構造部材のすべてに木材を使っています。
同じく、三井不動産(東京都中央区)と竹中工務店(大阪市)は、東京都中央区に賃貸オフィスビル「(仮称)日本橋本町一丁目3番計画」を23年11月に着工し、25年に竣工の予定です(写真3)。地上18階建て、高さ約84m、延べ床面積約2万8000㎡という建物規模です。
今までは木造建築物は、3階建て以下であればコストパフォーマンスに優れていましたが、4階建て以上の場合は、鉄骨造や鉄筋コンクリート造よりもコストが高くなる傾向がありました。しかし、新たな工法の登場で、近年それも変わりつつあります。
次回は、コストパフォーマンスに優れる4階建て以上の中高層建築物の可能性について触れたいと思います。
住まいるサポート
(神奈川県鎌倉市)
高橋 彰代表取締役
全国で100社以上の工務店などと提携し家主とのマッチングを中心に高気密・高断熱住宅に特化した住まいづくりのサポートサービスを行っている。性能にこだわる建築家の紹介や、高断熱賃貸住宅プロジェクトのサポートも手がける。経営の傍ら、東京大学大学院の修士課程で高断熱木造建築について研究中。
(2024年3月号掲載)
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