中央倉庫
プライム上場の倉庫準大手企業
不動産賃貸事業を新セグメントに
東証プライム市場に上場する中央倉庫(京都市)は、1927年に創業して以来、倉庫事業を中心に事業を拡大してきた。自社保有の倉庫を多く持ち、近年は不動産賃貸事業も展開。2022年には本社に隣接する倉庫跡地にホテルを建設した同社が、今回は本業以外の土地活用に乗り出した。

▲本社(右)と隣接地に建てたホテル京都 梅小路 花伝抄(左)
開業:2022年3月
客室数:180室
建物:地上6階建て
鉄筋コンクリート造
敷地面積:約4500㎡
延べ床面積:約1万2500㎡
運営:共立メンテナンス
新駅開業で倉庫跡地にホテルを建設 創業97年の老舗企業
創業97年の老舗企業
中央倉庫は1927年に日本で一番歴史のある京都市中央卸売市場の中央市場倉庫として創業した。貨物の保管、輸送、流通加工、通関、輸出、梱包こんぽう、トランクルームなどの総合物流サービスを提供している。
上場する倉庫事業者の中では準大手で、営業収益は265億1200万円、経常利益が22億2900万円(2024年3月期・連結)。事業は、倉庫部門を主軸に運輸部門、国際貨物部門、そして22年から不動産賃貸事業が新セグメントとして加わった。
同社は倉庫事業という事業の特性もあって、京都市を中心に不動産を多く持っている。本社、本業に関わる倉庫や梱包所などの自社保有地は連結子会社も含み28万9972㎡に及び、簿価にして124億6347万円。建物および構築物の簿価176億3944万円を合わせると、約300億円にも上る。
総資産額は580億1600万円、そのうち純資産額が456億100万円あり、自己資本比率は78・1%を占める。上場企業の中でも高水準の自己資本比率を誇る企業だ。
転機は2019年の新駅開業
同社にとって新セグメントとなる不動産賃貸事業が、JR嵯峨野線梅小路京都西駅から徒歩1分の場所に立つホテル「京都 梅小路 花伝抄」だ。本社に隣接した、自社が保有する4520㎡の倉庫跡地に建設した。地上6階建て・全180室の、和をコンセプトとしたホテルで、22年3月に開業。同社が建設し、所有しているが、運営は全国でリゾートホテル「共立リゾート」やビジネスホテル「ドーミーイン」を展開する共立メンテナンス(東京都千代田区)にすべて委託している。
そのため、セグメントとしての不動産賃貸事業の売上高は3億5700万円と、全体売上高の0・5%程度にとどまる。だが、収益性は高いため、セグメント単体の営業利益は1億5100万円で、全体の営業利益の7・8%を占めている。


同社がホテルを建設したきっかけは、19年に梅小路京都西駅ができたことだ。新駅周辺のエリアはもともと倉庫が軒を並べていた。なぜ駅ができたのか。実は10年ほど前から、にわかに観光地として注目を集めていたのだ。近隣には、梅小路公園内にある平安遷都1200年を記念して造られた日本庭園「朱雀の庭」や12年に開業した京都水族館、さらに16年開業の京都鉄道博物館があり、観光客が大幅に増加した。
こうして観光地として注目されるようになった一方で、当時最寄り駅だったJR京都駅から約1・7㎞離れていることから、アクセスのしにくさがしばしば議論の的となっていたという。そのような状況の中、京都商工会議所が観光客の利便と地域経済振興を図るために新駅を提案し、京都市も検討。その結果、19年3月16日に新駅が開業した。山陰本線では11年ぶりの新駅開業だったという。
「この場所は長い間、線路沿いではありましたが、駅はありませんでした。もともとは商業用の貨物列車が多く走っていて、昔は市場の近くまで線路が敷かれていたのです。19年に新しく駅ができたことと、既存の倉庫が老朽化していたことから、これを解体してホテルを建設しました」と中央倉庫の谷奥秀実社長はホテル建設の経緯を話す。
同社では、昭和40年代前半に建てられた築50年を超える古い倉庫の建て替えが懸案事項として上がっていた。京都市中央卸売市場に隣接する立地の特性で、周辺には数多くの倉庫が立ち並び、大型トラックが行き交う地域だった。しかし、相次ぐ観光施設の新設などによって観光バスやマイカーの行き来も増えた結果、倉庫事業は営業しにくくなり始めていた。
こうした経緯を経て、同社はこの地にホテルを建設した。

自社所有の倉庫で事業拡大
同社は、主軸の倉庫事業が安定している。倉庫事業では原料や素材をはじめ多品目を取り扱い、貨物の特性に合わせて最適な状態で保管するとともに検品、梱包などの流通加工サービスで顧客のニーズに対応する。BtoB物流を中心として成長してきた。
特に同社の倉庫事業は、自社で用地を購入して建設するスタンスで展開してきたのが特徴だ。その際に、トラックの出入りを考慮して、なるべく商業地や住宅地から離れた土地を購入してきた。「倉庫はフォークリフトなどの音がかなり出ます。そのため『うるさい』と苦情が入ってしまいます。近隣への配慮が必要なため、学校やマンションなどが隣接しない場所が望ましいです」と谷奥社長は説明する。

▲中央倉庫の本社
自社で保有する倉庫を基盤に展開することを強みとして成長してきた同社。だが、今回の新駅の開業のように、時代が変わるにつれて倉庫周辺の環境も変わる。以前は所有地の周辺は野原だったが、大型ショッピングモールができるなど、長年保有することによって、倉庫事業を営業しにくい状況になりつつあるエリアがほかにも出てきている。
「周辺環境の変化で倉庫営業が難しくなった場合、売却も一つの方法ですが、解体するにしても新たに建築するときに、新しい倉庫施設を建築すべきか、それとも用途の異なる施設を建築すべきか、将来の環境の変化を見極める必要があります」(谷奥社長)
不動産資産を保有する老舗の同社が、環境の変化を受けて、今後本業である倉庫事業以外での土地活用についてどのように展開していくのか。不動産賃貸事業というセグメントをつくった同社の今後の展開を注視していきたい。
社長インタビュー
新駅で変わった本社周辺環境に対応
――2022年より主軸の倉庫部門、運輸部門、国際貨物部門に加え、不動産賃貸事業を新セグメントとして立ち上げました。
谷奥社長 22年3月に開業したホテルを建設したことがきっかけです。19年に本社近くに駅が新しくできたことで、周辺の環境が変わりました。ホテルが立っている場所にはもともと昭和40年代に建てた倉庫があり、その老朽化が課題だったことも理由です。
――ホテルの運営は共立メンテナンスに委託しているのですね。
谷奥社長 当社ではホテル運営は行っておらず、あくまでも建物を貸す賃貸事業に徹しています。
――御社が所有する倉庫は自社所有のものがほとんどです。
谷奥社長 近年、業界的には賃貸して倉庫事業を展開するケースが増えています。当社も荷主の要望によっては隣接地を借りて倉庫を拡張する場合もあります。しかし家賃は高いですし、自社所有の場合は償却もできますから、建築してしばらくするとコストが圧縮され収益性を高めることができます。
――自社所有の強みを生かしています。
谷奥社長 ただ、所有すると環境の変化により、倉庫に向かなくなるケースも出てきます。その部分を今後考えていかなければなりません。
――今後、不動産賃貸事業についてはどのように考えていますか。
谷奥社長 土地を持っている強みを生かすのであれば、不動産賃貸事業というセグメントは一つの柱として据えておくべきです。何しろ人手がかかりませんから。場所によっては、売却あるいは別の活用法もあるかもしれません。
中央倉庫(京都市)
谷奥秀実代表取締役社長 執行役員(63)

会社名:株式会社中央倉庫
本店所在地:京都市下京区朱雀内畑町41番地
設立年月日:1927年10月18日
代表者の役職氏名:代表取締役会長 木村 正和
代表取締役社長執行役員:谷奥 秀実
事業内容:倉庫業、貨物運送業、通関業、梱包業ならびに包装資材の加工・販売業、不動産の売買・賃貸・仲介および管理業、損害保険代理業
1927年:京都市中央卸売市場の開設により、同構内に京都中央市場倉庫株式会社設立
1937年:現社名に変更
1940年:現在地に本店を移転
1952年:中央梱包株式会社(連結子会社)を設立
1970年:京都証券取引所(のちに大阪証券取引所と合併)に上場
1973年:中倉陸運株式会社(連結子会社)を設立
1985年:大阪証券取引所第2部に上場
2001年:中国上海市に上海駐在員事務所を開設
2012年:大阪証券取引所第1部に上場
2013年:東京証券取引所と大阪証券取引所の統合に伴い、東京証券取引所第1部に上場
2016年:中央倉庫ワークス株式会社(連結子会社)を設立
2022年:東京証券取引所のプライム市場に移行
(2025年 3月号掲載)
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