第32回 賃貸経営に必要な 生命保険を考える①
団体信用生命保険の役割を理解する
賃貸経営を始めるために必要な資金を、全額自己資金で賄うケースは、築古戸建て投資やワンルームマンション投資などの比較的小口な物件の購入を除き、ごく少数だといわれます。それ以外のケースでは、金融機関からの融資で賄うことが一般的です。なぜなら賃貸経営のうまみは、不動産としての担保価値を生かした「レバレッジ」にあるからです。
賃貸物件の購入だけでなく、住宅ローンも含めた不動産担保融資に付随して、金融機関から「団体信用生命保険(以下、団信保険)」への加入を勧められた経験がある、または保険加入が融資の条件になっていた人も多いと思います。
このように、生命保険は賃貸経営と密接な関係にあります。生命保険の役割をよく理解し、賃貸経営に必要十分な生命保険を見極めるスキルも必要なのではないでしょうか。
団体信用生命保険とはどんな保険なのか
住宅ローンにおける団信保険の目的は、住宅購入者に万が一のことがあったときに、死亡保険金によって債務を全額弁済し、残された家族が引き続きその住宅で暮らすことができるようにすることです。いわば「家族の住まいを経済的リスクから守る保険」なのです。
一般の生命保険との違いは、金融機関が保険契約者となり、保険金は直接金融機関(債権者)に支払われる点です。よって生命保険料控除の対象にはなりません。また、原則融資の借入時にしか加入することができないのも、この保険の特徴です。
団信保険の主な保障は、被保険者が死亡した場合と高度障害状態になった場合です。融資残高の減少に伴って死亡保障額も逓減していく仕組みであるため、死亡リスクの高くなる晩年でも保険料を低く抑えられるのです。通常は保険料をローン金利に上乗せ(通常0・2~0・3%程度、金融機関、保障内容によって異なります)して支払います。
金融機関によっては、被保険者が三大疾病(または八大疾病)などの「特定疾病」によって所定の状態もしくは要介護状態になった場合には、以後の返済が全額免除となる生存保障重視型の保険商品もあります。
一般の生命保険商品と同様、加入するためには健康告知、または医師による診査が必要です。
アパートローン利用時は債務帳消しの影響を考慮
住宅ローンを利用する場合と同様、アパートローンの借入時にも金融機関から団信保険を勧められることがあります。金融機関によっては、団信保険の加入を融資の条件にする場合もありますが、住宅の取得と同じように、死亡時に債務を帳消しにすることによる影響を考えなければなりません。
まず、住宅の取得と賃貸物件の取得とでは、その目的が異なります。居住のために取得する自宅は、家族が住み続けるためにも原則残さなければならないものです。対して、賃貸物件は賃貸経営という事業のために取得しています。死亡時には誰かが相続して事業承継するか、あるいは事業を存続させないという選択肢もあるわけです。
誰も事業承継しない場合には、残った債務は賃貸物件の売却によって清算することも可能ですので、あえて団信保険に加入しなくても困ることはないでしょう。むしろ団信保険によって債務がない状態で相続すると、全体の資産保有状況にもよりますが、多額の相続税が課されてしまう可能性があるので、十分考慮すべきです。
賃貸経営を承継する場合安易な加入に注意
アパートローンの返済原資は、通常毎月の家賃によって賄われます。従って、債務者(家主)が死亡、または就業不能な状態になったとしても、直ちに返済に困ることはありません。継承者がいれば、債務を清算しなくても賃貸経営は続けることができるのです。
そうなると、必ずしも団信保険によって債務を帳消しにする必要があるとはいえません。債務がなくなった分、純資産は増加し、相続税の負担は大きくなります。納税のために賃貸物件を売却しなければならないような事態に陥ることもあり得るので、団信保険への加入は慎重に考えるべきです。
保険の豆知識 三大疾病と五大疾患
生命保険では、三大疾病と呼ばれる、がん、急性心筋梗塞、脳卒中に加えて、糖尿病、高血圧性疾患、肝硬変、慢性膵炎(すいえん)、慢性腎臓病の五大疾患を、死亡、高度障害に次ぐ重篤な状態と指定しています。団信保険には、これら特定疾病によって身体の障害、労働制限を必要とするなどの所定の状態が継続したとき、残債務を肩代わりする機能があります。
解説
保険ヴィレッジ 代表取締役
斎藤慎治氏(1965年7月16日生まれ)
東京都北区出身。
大家さん専門保険コーディネーター。家主。93年3月、大手損害保険会社を退社後、保険代理店を創業。2001年8月、保険ヴィレッジ設立、代表取締役に就任。10年、「大家さん専門保険コーディネーター」としてのコンサルティング事業を本格的に開始。
(2024年4月号掲載)
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【連載】転ばぬ先の保険の知識:3月号掲載
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