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印刷工場をリノベーション コワーキングスペースで経営者支援
N6tunnel(ニシロクトンネル)
JR山手線西日暮里駅と京成電鉄本線新三河島駅の間に位置する住宅街に、コワーキングスペース「N6tunnel(ニシロクトンネル)」がある。アンドインターフェイス(東京都荒川区)の生島広嗣社長が、自身の実家でもあるこの場所を改装したのは2022年のことだ。
アンドインターフェイス(東京都荒川区)
生島広嗣社長(47)


▲住居間口のとなりに聞いたガラス戸の入り口 撮影:千葉正人
- Before12年から10年間放置されていた
- Afterワーキングスペースからは庭が見える 撮影:千葉正人
工場を運営していた生島オーナーの父が12年に他界した後、1階部分は10年間にわたり放置されていた。狭い室内に印刷機械が並び、廃虚のような状態だったという。
リノベーションにあたり、機材を運び出し壁や床を一新したほか、ワークスペースに加え簡単な調理と食事ができるキッチンとダイニングを造った。一見すると工場時代の名残はほとんど見当たらない。しかし、当時の印刷版で作った入り口のドアハンドルがさりげなく建物の歴史を示している。

▲印刷板を使用したドアハンドル 撮影:千葉正人
設計を行ったHAGISO(ハギソウ:東京都台東区)の宮崎晃吉代表取締役は「ベンチのある軒下から連続した空間をデザインした」と話す。約33㎡と狭い空間でありながら、あえて壁をふかすことで柱を隠し、滑らかな壁面がトンネルのような空間を演出している。出口にあたる大きな窓からは、モミジの木がある庭が見える。壁に囲まれた狭いスペースだが、わずかに傾斜をつけたステンレス製の鏡面板が、光を柔らかく反射させて室内に送り込んでいる。
- ▲軒下の野外ベンチから連続した空間を演出している 撮影:千葉正人
- ▲モミジのある庭からステンレス板が反射した光が差し込む 撮影:千葉正人

▲キッチンスペースにもテーブルが設置されている 撮影:千葉正人
空間のコンセプトでもあるトンネルという名前は、20代からシステム会社を起業し、経営者として活動してきた生島社長の苦難の時期が由来だ。
「10年ほど前の、経営者として一番つらかった時代を、他人に話すときトンネルと表現しています。本当に苦しい時期でしたが、最も成長したときでもありました。当時の私と同じように孤独な状況の経営者が新しいことに挑戦できるよう寄り添い、大切なトンネルの時期に自分と向き合える空間を提供したいのです」(生島社長)
経営者支援の一つとして、無償で貸し出す場合もある。この場所を登記上の住所にして始まった会社も多数あるという。
上階に暮らす生島社長の母は、当初、夫との思い出がある工場に手を入れることに複雑な感情を抱いていた。しかし、今では利用者に食事を提供するなど積極的に関わっており、生島社長と共に利用者の活動を支えてくれる存在だ。
利用者の挑戦に寄り添う場所として、建物もまた新しい一歩を踏み出している。
(2025年 4月号掲載)