土地を活かす:限られたスペースで地域に貢献①

土地活用その他建物

設立10年、累計利用回数1億回突破
限られたスペースを「地域の足」に変える

ドコモ・バイクシェア(東京都港区)が提供するシェアサイクルサービス「バイクシェアサービス」が拡大を続けている。通勤や日常利用に加えて観光目的でも利用が進み、累計利用回数は1億回を突破した。公共交通の縮小が進む中、地域のラストワンマイルを支える移動手段としての期待が高まっている。また自治体や地元企業、土地オーナーとの連携によって、街の魅力を高め、地域全体の価値を向上させる新たな社会インフラとしても注目を集めつつある。

ドコモ・バイクシェア(東京都港区)
武岡雅則社長

利用会員280万人超

 バイクシェアサービスは、街中に設置するサイクルポート(以下、ポート)に配備された電動アシスト自転車を、利用者が好きな場所で借り、好きな場所で返却できる自転車シェアサービスだ。専用アプリでポートの予約・決済を行うことが可能で、24時間365日自由に乗り降りできる。
 1回30分あたり165円から利用することができ、会員登録不要の1日パスも用意されている。従来のレンタルサイクルとは異なり、スマートフォンさえあれば、特別な手続きや時間制限に煩わされることなく簡単に使える。さらに借りた場所でなくても目的地近くのポートに返却することが可能で、その自由度の高さが人気を博している。15年のサービス開始より累計利用回数は1億回を超え、年間では2400万回(24年度見込み)に及び、都市インフラとしての地位を着実に高めてきた。
 現在、東京都内を中心に全国60エリアで展開。車両数は2万6800台、全国4540カ所にポートを設置し、利用会員数は280万人を超える。利用者層は30代を中心に若年層からシニアまで幅広く利用されている。

▲電動アシスト付き自転車がポートに設置されている様子

 同社は、日本で初めてシェアモビリティーを本格事業化したパイオニアだが、同様のサービスを提供する事業者も増加している。代表的なところでは「HELLO CYCLING(ハローサイクリング)」「Luup(ループ)」「チャリチャリ」などが挙げられるが、バイクシェアサービスの特長は、通勤時の利用が3〜4割を占めるという「通勤利用の多さ」だ。複数の交通手段が乗り入れる交通結節点(ハブ)に、1カ所50〜100台以上止められるような大規模なポートを持っていることがその強みになっている。
 同社の武岡雅則社長は「当社のシステムのトラフィックを見ると、午前8時5分が利用のピークなんです。大規模なポートによるピーク時の車両の確保し、通勤需要を確実に捉えることができるのはバイクシェアサービスの強みだといえます」と語る。
 その一方で、地域によっては観光需要向けに特化した展開も行っている。その代表例が沖縄県だ。同社では、宿泊施設や観光地周辺にポートを集中的に整備し、長時間利用に対応する仕組みを整えている。
 「沖縄では、近年オーバーツーリズム(観光公害)の影響でタクシーが不足し、レンタカー代も高騰、現地の移動手段が圧倒的に不足しています。そのため、ホテルなどの観光拠点にある当社のポートは、旅行者の重要な足として機能することができているのです」(武岡社長)

地域で異なるモデル

 また同社は地方において、東京都・大阪府・横浜市などの大都市圏とは異なるビジネスモデルを展開する。
 大都市では同社が直営事業を行い、直営全体で約2910ポートを設置。東京都では16区と連携している。自治体との協定の下、駅前やオフィス街、商業施設など利用が集中するエリアにポートを整備している。

 一方で地方では、同社が直接運営するのではなく、地元企業や自治体にバイクシェアサービスのシステムを提供する「ASPモデル」を採用。このモデルでは、実際の運営を地域の企業が行う。
 札幌市では道路工事コンサルティングが主力のドーコン(札幌市)、石川県金沢市では同じく日本海コンサルタント(石川県金沢市)などの地域企業と連携し、各地の交通インフラとしての役割を共に担っている。こうした地域連携によって、元々地域事業に精通した地元企業の土地勘や生活動線の把握が生かされ、地域住民にとって使いやすい設計が可能になっている。
 一部の大都市においても、ASPモデルが採用されている都市がある。その一例が名古屋市で、運営は中都地方のコインパーキング事業の大手である名鉄協商(名古屋市)が担っている。
 「地元にしっかり根付いて、まちづくりにも課題を持って取り組んでいる強い会社がある地域では、その企業さまに運営を任せるケースもあります。私も定期的に訪問してお話を伺いますが、自治体の動きや、地域の公共交通の状態などをお聞きして学ぶところは多いですね」(武岡社長)

(2025年6月号掲載)
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