まちづくりを学問的アプローチで考える1冊

賃貸経営地域活性

著者インタビュー
都市・まちづくりのためのコミュニティ入門

空間の在り方や地域社会の仕組みを
都市計画学と都市社会学の両面で考える

――建築学と社会学の視点でまちづくりを学べる本ですね。
 私は工学部出身ですが、都市社会学の理論も多く取り入れました。本書は建築系の出版社から出版し、文系の大学で教科書に採用されています。両学問からのアプローチをまとめたことで面白い反応がありました。

――「多数の目」「割れ窓理論」など防犯理論も語っています。
 ある場所が不特定多数の人の目に触れることで、割れた窓や落書きなど、治安悪化につながる小さな不備に気づきやすくなります。集合住宅や宅地でいえば、同じ属性の入居者ばかり集めてしまうと、誰もいない時間や人目につかない場所が生まれます。すべての入居者に「住む」という目的は共通です。その中でも、例えば高齢者のようにほかの住人と生活リズムの異なる入居者がいることで、治安への良い効果が期待できます。

――住宅セーフティネット制度にも触れています。
 この制度を活用し、行政の支援を得て高齢者を入居させることは防犯や治安対策としていいと思います。入居付けに困らない住宅でも、高齢者のような住宅確保要配慮者を受け入れるメリットがあるのです。

――都市・まちづくり研究を始めたきっかけは何ですか。
 父が不動産関係の仕事をしており、中高生の頃は集合住宅の管理人室で暮らしていました。大学進学時に建築系の学部を選びましたが、少年期の経験から、ただ建築物を完成させるだけの建築学は、単純すぎると感じました。人が暮らす建物が集まり、都市やまちをつくっていく。その過程が私の興味の対象だと気付き、都市計画の研究に進んだのです。

――地主や家主の立場でまちづくりに関わるポイントは。
 日本特有の問題として、地域社会への接点や行政に意見を届ける窓口が町内会や自治会に限られていることがあります。入居者と地域をつなげることができるのは、オーナーです。定期的に更新が必要な防災計画を周辺住民と入居者と共に作り、自分の物件にどのような属性の人がいて、どういう周期で入れ替わるのか知ってもらうのもいいでしょう。私有地の一部を公共に開いたり、住民同士が交流できる共有部をつくったりするのも、コミュニティー形成につながります。

都市・まちづくりのためのコミュニティ入門

著者:小地沢将之
出版社:学芸出版社
価格:2970円(税込)

概要
人々の関係性や行動の場となる都市・農村空間の在り方を構想する都市計画学と、地域社会の仕組みを探る都市社会学、二つの学問の融合を図る。都市の成り立ちから地域社会の歴史、地縁組織・NPOの課題、公民連携の諸制度、公共事業まで、先人の理論と事例を交えながら横断的に学ぶことができる。

著者プロフィール
小地沢将之(こちざわ・まさゆき)

宮城大学事業構想学教授。東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻博士課程後期を修了。工学博士。2001年10月よりNPO法人コミュニティの代表理事を務める。単著に「まちづくりプロジェクトの教科書」がある。ほか、共著多数。

(2025年7月号掲載)

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