<<地主の信条>>
資産を守るのではなく維持・発展させる
戦略的な不動産ビジネスとしての地主業
代々受け継がれてきた土地を守るという責務。これはすべての地主に共通する大きな課題だろう。今までは、土地を守るために賃貸住宅を建てるのが主流だった。だが「今後はそれでは立ち行かなくなっていくだろう」と話すのは、伊波コーポレーション(神奈川県海老名市)の伊波武則社長だ。効率的な資産の組み換えと、地域に必要とされる土地活用を行うことで資産を守る。伊波社長に、現代の地主に必要なマインドについて聞いた。
伊波コーポレーション(神奈川県海老名市)
伊波武則社長

所有不動産の価値を上げる 20年で資産組み換え断行
神奈川県海老名市にある海老名駅。小田急線、相鉄線、JR相模線の3路線が利用可能で東京都心へのアクセスも良いことから、人気が高まっている駅だ。伊波社長はその海老名駅から徒歩10分圏内にファミリー向け物件1棟31戸、単身者向け物件1棟69戸のほか、アパートを2棟22戸所有している。そのほかにも、テナント向けの貸地や駐車場など合わせて5000坪ほどの不動産を所有する13代目地主である。
「とはいえ、私を『地主』と表現していいのかどうかは悩むところです。というのも、家業に入ってからの20年間は、所有する不動産のポートフォリオの見直しと資産の組み換えを行ってきたからです」(伊波社長)
地主にとっては「代々受け継いできた土地を守る」ことが使命だと一般的に考えられる中で、伊波社長は「地主にとって大事なのは土地を守ることではなく、資産を維持・発展させることなのです」と言う。
代々受け継ぐ土地を所有し続けることが地主の役割なのではない。万が一、土地の資産価値が下がってしまうようであれば売却し、組み換えを行う。そうした決断を下すことができる力量こそ地主には必要なのだということだ。
家業に入ったのと時期を同じくして、地主向けコンサルティング会社である伊波コーポレーションを設立した。自身の資産組み換えの経験を生かしながら、クライアントにはまず所有不動産に対する客観的な判断を勧めている。伊波社長の言葉を借りると「土地の健康診断」だ。
「固定資産税や賃料相場といった『数字』で資産価値をチェックしていくのです。採算性の悪い不動産が年々その価値を下げていることがわかります」(伊波社長)
判断に迷いは禁物 駅近の物件を増やしていく
大学卒業後、大手総合デベロッパーで15年勤務した伊波社長は、2005年、家業を継ぐために退職した。当時、伊波家が土地を多く所有していたのは同市下今泉地区。海老名駅からは徒歩で20分以上かかる場所だ。賃貸住宅ではなく倉庫として貸し出していた土地に至ってはさらに市街地からは遠い、市南部にあった。
そこで、伊波社長は父親の代に建てたアパートや倉庫を売却し、海老名駅近くのマンションを購入することを決めた。
父親はその決断に反対することはなかったが、親戚からは猛反対を受けた。
「父親の代まで守り続けた土地を売ってどうするという声が上がったのです。ですが、10年後、20年後にあの判断は間違っていなかったと言ってもらえる自信はありました」(伊波社長)
親戚の意見を聞くべき部分もあるとしながらも「迷う」ことは家を、資産を縮小させることにつながるというのが伊波社長の考えだ。親戚からの反対をいなしながら、五つの不動産を売却。資産性の高い物件に組み換えていった。
- ▲単身向け69戸の「ABITARE海老名」
- ▲満室経営中のファミリー向け物件「フィールドガーデン海老名」
(2025年9月号掲載)
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公共財産である土地に必要な施設をつくる