<<地主のビレッジ構想>>
父から受け継いだ築50年の平屋群 リノベで若い入居者を獲得
ウナギの産地として有名な静岡県の浜名湖。そこから1・5㎞ほどの高台に、ペンキで白く塗装された外観の平屋が15戸立ち並ぶ。手入れされた植栽と共に、どこか懐かしさを感じる街並みをつくっている。
田内孝俊オーナー(静岡県湖西市)

平屋の中に入ると、屋根勾配を生かした吹き抜け空間のリビングや明るい洗面スペースがある。家具工場で作ったドアやペンキ塗装の内装壁、レトロなイメージの照明やスイッチプレートなどがカフェのような雰囲気を醸し出す。専有面積は40~46㎡とコンパクトながら開放感ある空間となっている。

約600坪の敷地に15戸が立つ高台住宅
実は同物件は、築52年の建物をリノベーションした賃貸住宅だ。賃料は築浅物件と同じくらいの5万5000~5万7000円だが、入居者を募集すると、ほぼ2カ月以内には申し込みが入るほど、人気のある賃貸住宅になっている。
「高台住宅」と名付けた600坪ほどある敷地に立つこの平屋群の所有者は、田内孝俊オーナー(静岡県湖西市)だ。建てる際に、田内オーナーの父親がさまざまな賃貸住宅を見て回ってプランニングしたという。父親は効率の良い社宅のような敷地レイアウトを嫌い、あえて不規則に建物を並べることで、敷地全体を見渡せるように計画。各戸には2台分の駐車スペースと庭を設け、敷地内に槙の木を点在させて緑豊かな「ビレッジのような街並み」をつくり上げた。
居心地の良さを追求した結果、新築してから長年満室の状態が続き、退去が発生してもすぐに次の入居者が決まる状態だった。田内オーナーは、幼い頃から敷地内の掃除や草刈りの手伝いをして、管理の知識を身に付けてきたという。
そんな父親の思い入れがある平屋を引き継いだ田内オーナーは、会社勤めをしながらも10年に1回の頻度で外壁などの修繕を行い、建物の価値を維持してきた。だが、築年数による古さは払拭できず、10年ほど前に退去が続き、空室が埋まらない状況を経験。家賃も当時は4万円台にまで下がっていた。
転機が訪れたのは、入居者募集に苦戦していた2015年。不動産会社からの紹介で、新築やリノベの企画・設計を行うプラ(浜松市)の谷野祐司社長と知り合ったことだった。当時谷野社長は築古平屋のリノベを手がけていた。谷野社長自身もリノベした平屋を事務所として利用しているのだが、そこを訪問して衝撃を受けたという。
「それまでの修繕とは一線を画していました。外壁や内装をペンキで大胆に塗り替えたり、壁や天井を取り払って勾配天井の開放的なワンルームに変えたりしていたのです。さらに、照明やコンセントもおしゃれ。細部にまでこだわったアイテムを取り入れることで、築40年以上の借家が生まれ変わったかのようでした」

【Before】昭和の住宅を感じさせるキッチン
- 【After】 キッチンも脱衣所もガラス戸を変えて明るい空間にした
- 【After】 天井を剥がして開放感ある室内に
このように当時のことを興奮気味に語る田内オーナーは、谷野社長と施工を担当する西部リバティ(静岡県森町)の鈴木正巳社長と共に、彼らが手がけるリノベモデルとなっている米軍ハウスが残る埼玉県入間市の「ジョンソンタウン」へ足を運んだ。実際目で見ることで、その価値を理解して、リノベを実施。その後、空室が発生するたびにリノベを行い、約10年をかけて、15棟中12棟の工事が完了した。
1戸あたりの改修費は約500万円。家賃は2万円近く上がった。さらに、入居者層も変化している。リノベ前までは高齢者が多かったが、10年以上前から入居しているリノベ前の住戸以外は、現在は30代や40代に変化。1人暮らしや若い夫婦が多く、中にはそのおしゃれな雰囲気からかばん工房や雑貨を販売する個人事業主も入居する。
2年前に退職した田内オーナーは自治会の役員を経て、この高台住宅からコミュニティーを育んでいきたいと考えるようになった。「今後は年に1回のマルシェやフリーマーケットを開催したり、25年に開設したウェブサイトを通じてこの場所の魅力を発信したりしたいです」
田内オーナーは今年69歳。「これからは『おかえりなさい』と町全体が迎え入れてくれるような場所を目指していきたいです」と笑顔で話す。
(2025年12月号掲載)








