両利き経営のススメ:事業経営者に向けた賃貸経営と市況(後編)

コラム両利き経営のススメ

<<両利き経営のススメ VOL.2>>

事業経営者に向けた賃貸経営と市況(後編)

 後編では、不動産を経営ツールとして捉え直し、具体的な意思決定へとつなげるために、企業の段階や資本制約に応じた実践の型について説明します。リモートワークの普及を経て、企業のオフィス戦略は「量より質」へと完全に移行しました。その結果、東京都心の優良物件を巡る競争は激化の一途をたどっており、数年先を見据えた戦略的な資産確保が、今や企業の成長を左右する重要な経営課題となっているのです。

目的から選ぶ不動産活用の型

 実践の型は、4類型に整理することができます。「一棟保有(要塞型)」は、ビル一棟を保有し、建物のブランドイメージづくりから運営方法まで、意のままに決定できる方法です。「区画取得(精密型)」は、東京都心の優良地を現実的な投資規模で確保し、管理の手間も比較的かかりません。「不動産小口商品(ゲートウェイ型)」は、不動産のプロが選んだ優良物件に、複数の投資家が共同で出資する仕組みです。「J─REIT(流動性型)」は、多くの投資家から集めた資金で不動産を複数取得・運用し、そこから得られる賃料収入や売却益を投資家に分配する金融商品です。これら4類型は優劣ではなく、目的適合性で選びます。

 優秀な人材の獲得競争が激化する現代において、社員が「出社したくなる」魅力的なオフィスは、もはや単なる福利厚生ではなく、企業の採用力や定着率に直結する重要な「戦略投資」です。区画取得(精密型)は、まさにその課題に応える手法で、企業の資産となる不動産を保有することで貸借対照表(BS)を改善しつつ、東京都心のハイグレードな職場環境を従業員に提供するという二つの目的を同時に達成します。

人と財務に効果的な区画取得

 実物資産でありながら流動性が高い点も大きな魅力です。主要な不動産会社のデータによれば、「区分所有オフィス」(※1)の平均売却期間は約100日、特に1億円未満の物件では平均54日という良好な換金性が報告されています。(※市場や物件の条件により変動します)

 資本効率と管理負担のバランスを取りながら、企業の成長に不可欠な「人と財務」の両面を強化することができるため、特に成長を目指す中堅・中小企業にとって極めて合理的な選択肢だといえるでしょう。

※1:「区分所有オフィス」は、ボルテックスの登録商標


解説
ボルテックス(東京都千代田区)
安田 憲治 主席研究員

一橋大学大学院、経済学研究科修士課程修了。データサイエンスを活用した経営戦略の策定や人材育成に注力する。現在、ボルテックスにて、財務戦略やAI(人工知能)データ利活用、論考執筆に携わる。多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員。麗澤大学国際総合研究機構客員研究員。

(2025年12月号掲載)

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