<<次世代不動産経営実務者養成カレッジ 第3期 by次世代不動産経営オーナー井戸端セミナー>>
組織の中から動かす不動産再生
『大組織の中から、新たな不動産再生のしくみを創りだすひとたち』
不動産業界において大きな変化が起こりつつある。そうした中、「不動産オーナー井戸端ミーティング」を主宰する𠮷原勝己オーナー(福岡市)が中心となり、貸し手と借り手、そして地域にとって「三方よし」となる、持続的でブランディングされた不動産経営を目指す勉強会を有志で開催している。
当連載では、建築・デザインを学ぶ学生たちと、全国から集まったプロフェッショナルが一緒に受講する場として、九州産業大学建築都市工学部において行った全14回の「不動産再生学」と題した寄附講座を紹介。今回は、無人化が進む地方の駅を活用し、地域の価値とにぎわい創出に挑戦する九州旅客鉄道の園田めぐみ氏の講演をレポートする。
九州旅客鉄道 熊本工務所 助役
園田 めぐみ 氏(熊本市)
駅はまちの「シンボル」であり「玄関口」
私は現在、九州旅客鉄道(以下、JR九州)の熊本工務所にて、建築の職員として働いています。日々の主な業務は、九州産業大学前駅のような熊本管内にある駅の保守管理です。実は、入社当初は不動産開発部門でマンションや商業店舗の開発に携わっており、基本的には「ハード屋さん」として活動してきました。しかし、ここ数年で鉄道部門に異動し、今は地域に開かれた駅づくりという新たな「ソフト」の領域に踏み出しています。
日本の人口減少は避けられません。さらに新型コロナウイルスの流行という大きな影響を受け、私たちJR九州も駅の利用者が減り、駅に滞在してくれる時間も少なくなるという状況に直面しました。駅の無人化や時間配置(駅員が常駐しない時間帯)が避けられない中で、駅舎の維持管理という課題に日々向き合っています。しかし、駅はその街の「シンボル」であり「玄関口」であるという共通認識は変わりません。
「駅員がいないからメンテナンスをしない」というわけにはいかないのです。そこで、私たちは「地域全体で駅の活性化に取り組む」という新しい考え方で動き出しました。私たちが持つ駅という資産を、地域と協力してどのように活用していくか、その事例をご紹介します。
駅舎を譲渡し、酒の駅へ
佐賀県にある長崎本線肥前浜駅は、西九州新幹線に並行する在来線の区間に位置しています。この地域は、江戸時代から昭和にかけて酒や醤油の作り手を中心に発展し、特に日本酒「鍋島」が有名になったことで、蔵のツーリズムが栄えた地域です。
元々JRが所有していた駅舎を、私たちは佐賀県に譲渡しました。昔、駅は荷物の取り扱い(二ツ木)をする場所でもあったため、広いスペースがありました。その旧駅舎の一部と、以前荷捌き所として使われていた空間を改修・増築し、新たに「HAMA BAR(ハマバー)」という酒が飲めるバーを併設した駅が誕生しました。
この再生の目的は、地域が自立した取り組みで観光客の集客向上や滞在時間の消費を図ることでした。その結果、駅舎には地元のNPO法人の人が常駐してくださるようになり、常に人がいる環境が整いました。
最も大きな変化は、これまで停車していなかった観光列車が、駅に停車するようになったことです。停車時間は約10分。このわずかな時間を狙って、地域の人がお酒や地元のものを販売する「おもてなし」をしてくれます。人間は時間がないと逆に購買意欲が高まるらしく、大変賑わっています。佐賀県のほうからも、駅舎改修が地域観光へ与えたプラスの影響は絶大だったと高く評価されており、私たちも譲渡という形が有効活用につながることを実感しています。

学生や子育て世代が憩うコミュニティー空間に
次に宮崎県の日南駅です。ここは人口減少が著しい地域であり、定住人口を増やす施策を自治体が打っている地域でした。
日南市に駅舎を譲渡し、市が費用を負担してリノベーションを実施しました。この駅の再生では、無印良品(良品計画:東京都文京区)をアドバイザーに迎え、地域の皆さんとのワークショップを重ねました。学生からは「駅で友達と勉強したい」、子育て世代からは「子供とくつろぐ空間が欲しい」といった、今まで駅になかった機能の要望が多く寄せられました。
駅には列車を動かすために必要な設備が残っています。計画を進めるうえで、自治体の人に気持ちよく改修してもらうため、JR側で設備の分離工事のコストを抑える検討を行い、駅舎の外ではなく一部のスペースにJRの設備を残すことで対応しました。
リニューアル後は、駅事務室があった場所がコミュニティースペースに、休憩室だった場所が畳張りの小上がりの和室へと生まれ変わりました。これは駅とは思えない、居心地の良い空間です。コンコースから改札口までが一体となり、見通しもよくなりました。利用者数は月間で700人を超えることもあり、特に学生の利用が多いと聞いています。地元の木材を使った温もりが溢れる空間は、ゆっくり過ごせる場所として好評です。
無人化時代の駅を「にぎわいの拠点」へ
無人化が進む中で、駅を地域の皆さんにとって身近な存在に変えていく必要があります。私たちは「九州ドリームステーション」という施策を掲げ、「地域を一緒に元気にしませんか?」というパートナーを公募しました。その第一期で手を挙げてくれたのが、鹿児島の建築デザイン会社のIFOO(イフー:鹿児島市)さんです。社長の地元である鹿児島県霧島市の活性化のために、この駅を活用したいという熱い思いをいただきました。
彼らは、駅舎を改修する前から「地域に開けた駅にしたい」という目標を掲げ、駅前でマルシェ(市場)を開催してくれました。これにより「霧島神宮駅で何か面白いことが始まる」という期待感を地域に醸成できました。私たちJRも、マルシェに合わせてウオーキングイベントを開催するなど、IFOO、JR、地域の三者で基盤づくりを約1年間取り組みました。
リニューアルは2024年3月に完了。以前は広い駅事務室がありましたが、今は最少限の執務スペースを残し、残りの空間は物販や待合機能、そして「茶屋」(喫茶スペース)へと生まれ変わりました。特に鹿児島大学と連携し、地元の杉材を多用した内装は、元の駅のイメージがないほど居心地の良い空間になっています。
IFOOさんは駅の改修に留まらず、駅周辺の石蔵を買い取ってギャラリーやカフェバーにリニューアルするなど、街全体を巻き込んだ継続的な活動をしています。駅が終わりではなく、街全体を盛り上げるための起点となっているのです。
建築社員が踏み込む「テスト活用と関係人づくり」
最近特に力を入れているのが、私たち建築社員が中心となって、積極的に地域にアプローチしていく新しい取り組み「駅2.0」です。建築の知識を生かしつつ、地域の賑わいづくりをソフト面からもサポートします。
その第1例が熊本県北部に位置する鹿児島本線の荒尾駅です。同地で開業医をしている中村光成氏(一般社団法人のあそびLabo(ラボ)代表)と連携しています。
荒尾駅では、まず22年に1年間かけて「駅の活用検討会」を開き、何ができるかのイメージを膨らませました。しかし「駅で物が売れるのか」という不安があったため、すぐに回収するのではなく、まずは「テスト活用」を実施しました。駅舎に芝生を張ったり、普段ないベンチを置いて滞在空間をつくったり、臨時販売を3日間行ったりして、お客様が足を運んでくれるかを検証しました。

翌年度は、JRが持つ「スノーピーク」というコンテンツを駅前の広場で展開し、イベントを開催しました。事業者が単独で行うのではなく、私たちJRも力を貸すことで、活用の可能性が広がると感じました。
これらの実証を経て今年度、駅舎の一部を荒尾市に賃貸借し、皆さんが自由に使えるコミュニティースペースにする計画と、のあそびLaboさんがホテル機能として活用する計画を進めています。これは「将来、この駅に何が必要か」を検証するための実証実験です。

特に大事にしているのが、DIYを通じた「関係人づくり」です。地元の子供たちとワークショップ形式で荒尾産の梨の木を使いシンボルとなるベンチを作成しました。また、内装の壁塗り作業は、JR社員と荒尾市の職員が一緒に行いました。ここに携わった人たちが、将来もこの空間に愛着を持って訪れてくれることが、地域づくりにおいて最も大事だと考えています。
約3年間にわたる地道な検証を通じて、私たちは、今後のローカル駅の持続可能性を追求するうえで、「小さな取り組みを地道に検証していく」ことが非常に重要だと感じています。

ハードからソフトへ
かつてJR九州は「偉そうな会社」「話しづらい」といったイメージがあったかもしれませんが、今は大きく変わりつつあります。コロナ禍をきっかけに、今ある駅をいかに「新たな不動産価値」として上げていくかを考え始めました。
私は、有明工業高等専門学校の建築学科で学び、都市計画研究室に所属していた経験があり、元々地域の人と話すのが好きでした。その経験が今、駅の保守管理という「ハード」の視点だけでなく、地域の賑わいを創出するという「ソフト」の仕事に生かすことができています。
さらに、JR九州は駅という枠組みさえも超えて、街づくり全体に貢献しようとしています。例えば、油山(福岡市)には駅はありませんが、油山での工房に参加し、街づくりに取り組んでいます。これは、鉄道会社でありながら九州という地盤をよくしたいという思いから、「線路関係なく」街づくりを担う会社へと進化しようとしている段階です。
私たち建築の職員が活躍する場は、単に建物を維持するだけでなく、その建物を起点に地域との関係性をデザインし、新たな事業性を生み出すことへと広がっています。鉄道部門の建築職でも「地域と一緒に賑わいづくりに取り組む」という、新しいチャレンジができるのです。鉄道の建築部門に入りたいと言ってもらえれば、こうした活動に携わるチャンスは大いにあります。
大きな組織の中にいても、小さな一歩から始めれば、その地域の未来を変えることができる。これが、私たちが日々感じている不動産再生の面白さです。
(2025年11月公開)






