【特集】マンスリー賃貸最新動向

賃貸経営トレンド

<<マンスリー賃貸最新動向>>

人が動けば需要高まる マンスリー賃貸最新動向

1カ月単位で借りられる「マンスリー賃貸」。ホテルよりも長く、一般の賃貸住宅よりも短い契約期間で住めるのが特徴だ。これまで主な入居者層は長期出張で利用する法人のほか、家の建て替えや工事期間中の仮住まいを求める個人だったが、近年はインバウンド(訪日外国人)の影響で、旅行者も増えているという。今回はマンスリー賃貸の最新動向について紹介する。

この記事の目次 マーケット動向
マンスリー運営会社の取り組み
・リブ・マックス
・泉ハウジング
・BraTTo

 

マーケット動向

ホテル宿泊料の高騰で旅行者の利用増加

インバウンド需要けん引 大規模工場建築も影響

 「近年、マンスリー賃貸市場は大きな変革期を迎えており、需要は顕著な増加傾向にあります」。こう話すのは、1991年からマンスリー賃貸のネットワーク「ミスタービジネス」の運営を行っている泉ハウジング(茨城県神栖市)の今泉政直社長だ。変革期というのには、主に二つの理由がある。一つは、インバウンド需要による旅行客の利用増加。もう一つは、全国各地で半導体工場をはじめとした工場建築が活発化したことだ。

 インバウンド需要による増加については、外国人観光客やビジネスパーソンからの中長期滞在ニーズが拡大する一方で、ホテルの宿泊料が高騰している点が大きく影響している。総務省が発表する消費者物価指数では「宿泊料」が、2023年度と24年度では前年度比25・5%上昇した。日本政府観光局によると、訪日外国人旅行客の数は25年1月〜10月の累計では前年同期比17・7%増の3554万7200人で、4000万人に迫る勢いで増加。宿泊費の上昇傾向はしばらく続くとみられる。
「海外在住者からの問い合わせが増加しています」と話すのは、全国で約7000戸のマンスリー賃貸を運営するリブ・マックス(東京都港区)の沖野真也執行役員マンスリーマンション部門部長だ。特に主要都市においては宿泊料が高騰しており、必要な滞在日数は1カ月未満だったとしてもマンスリー賃貸のほうが割安であることから、1カ月間契約するケースもあるという。

 もう一つの工場建築の活発化については、コロナ禍以降、世界的なサプライチェーンの混乱や円安の進行などを受け、生産拠点を国内に移す国内回帰の動きがある。特に基幹産業である半導体工場については、その周辺には関連分野の工場も建築され、マンスリー賃貸の需要増加につながる。

 個人のライフスタイルの変化に伴い、利用目的の多様化も進む。

 具体的には、近年では仕事と休暇を組み合わせた「ワーケーション」や「お試し移住」といった目的での利用も増えている。コロナ禍によるリモートワークの広がりや、人口減少に危機感を持つ自治体の移住促進策の取り組みが影響しているようだ。

 マンスリー賃貸のメリットは、定期借家契約を利用して、マンスリーで賃貸したいその期間だけを貸せることだ。そのため、地方都市も避暑・避寒といった需要を取り込むことができる。

マンスリー運営会社の取り組み

一般賃貸から転用しやすい体制を構築

リブ・マックス(東京都港区)

契約期間中、オーナーは原状回復費負担なし

 2002年からマンスリーマンション事業を展開するリブ・マックスは、約7000戸を運営する。エリアは徐々に拡大しており、25年は青森県、福井県、高知県の物件が増えて、鳥取県を除く46都道府県で運営するまでになった。

 同社ではマンスリー賃貸を運営する場合、オーナーから物件を借り上げるマスターリース契約としている。契約期間は基本年間。その後は自動更新としているため、双方が解約の申し入れをしない限り借り上げは継続する。

 オーナーにとって同社にマンスリー運営を委託するメリットは、契約期間の支出がほとんどない点だろう。家具・家電は同社が用意する。また、オーナーの費用負担は設備が故障したときのみで、契約期間中の入居者入れ替えに伴う原状回復費は同社が負担するのだ。

 また基本的には家賃相場並みの賃料で同社が借り上げるため、契約期間中は空室リスクがない。そればかりか、支出もほとんどないので、収益性を高めることができる。同社は戸からでもマンスリー物件として借り上げており、区分マンションの受託も多い。

 無論、同社もどんな物件でも借り上げるわけではない。家賃相場よりも低い金額で借り上げるケースもある。当然、マンスリー需要のあるエリアの物件が対象となる。とはいえ、「必ずしも駅から近くて築浅の物件だけが対象になるわけではありません」と沖野執行役員マンスリーマンション部門部長は話す。駅から離れていても、駐車場がある物件や築古でも水回りが充実している物件などは需要があるという。

 マンスリー賃貸で人気のある物件は、一般賃貸と同様にWi-Fiが完備されインターネット環境が整っている物件や、浴室暖房乾燥機など設備が充実している物件だ。共用部の清掃管理がきちんとされているかどうかも、物件選びで重視されるという。

 同社では、近年のインバウンド需要の増加からサイトも多国語対応している。

 「最近は外国人旅行者からの問い合わせも増えており、当社の物件情報サイトも英語、中国語、韓国語で対応しています。今後も多様化するニーズに対応していきます」(沖野執行役員マンスリーマンション部門部長)

マンスリー賃貸は募集が肝

 マンスリー賃貸は需要が拡大しつつあるが、一方で簡単に始められるのかというと決してそうではない。一般賃貸とは入居者層が異なるため、マンスリーマンションを目的に探す層を取り込まないといけない。
 募集力という点で、個人のオーナーが自身でマンスリー賃貸を始めるにはハードルが高い。また日頃取引のある賃貸管理会社や賃貸仲介会社にマンスリー賃貸の募集を依頼しても、取り扱いがあまりない会社の場合は断られるか、募集してもなかなか決まらないということもある。当然ではあるが、入居者はマンスリーであればいいというわけではなく、その中でさらに気に入る物件に入りたいわけだ。選択肢の多さは重要で、そうなるとマンスリー賃貸を多く取り扱う会社に依頼することがポイントとなる。



泉ハウジング(茨城県神栖市)

無料で情報掲載可能なサイト

泉ハウジング(茨城県神栖市)
今泉政直社長

 泉ハウジングは業界に先駆けてマンスリーマンションを展開し、運営パートナーが122社ある「ミスタービジネス」の事業本部だ。25年1月のサイトリニューアルを経て、現在全国にある4000戸強をサイトに掲載。加えて、現在約5000戸の掲載準備を急ピッチで進めており、年内には1万戸に迫る規模へと拡大する見込みだという。少子高齢化が進む中、「これから先、地方都市の賃貸経営では高齢者、外国人、そしてマンスリー化が重要になってくるでしょう」と今泉社長は話す。

 同サイトに掲載する場合には「プラチナ」「ゴールド」「シルバー」の三つのプランのいずれかに申し込む必要がある。月額システム利用料が各プランで異なり、サイトへの物件情報掲載件数の上限、申込手数料、送客優先順位、入居中の盗難や水漏れに対応した家具付き補償サービスの金額などがプランごとに設定される。

 同サイトでは現在申し込み課金システムを採用しており、キャンペーンで掲載料は無料だ。無料によって掲載のハードルを可能な限り下げることで物件掲載数を増やし、より多くの選択肢を部屋探しユーザーに提供する。同社のパートナー会員になれば、個人オーナーがサイトに直接掲載することも可能だ。

 そのほか、同社が独自に提供するサービスに、ユーザーの希望エリアに物件がなくてもリクエストできる「オーダーマンスリー」がある。同サービスでは、利用希望者のエリア、期間、家具・家電の有無などの要望から、同社が運営パートナーとは別の独自の不動産会社ネットワークから物件情報を収集して転貸し、部屋を提供するというものだ。「多様なニーズに対応し、需要を開拓していきます」(今泉社長)


BraTTo(ブラット:大阪市)

増える外国人向けにベッドサイズ変更

 マンスリー・ウイークリー賃貸物件を運営するBraTTo(ブラット:大阪市)は、25年9月末時点で約900戸を運営、年間平均稼働率は90%だ。

 個人オーナーや賃貸管理会社からの受託によって、借り上げ物件は毎月20〜30件ペースで増加している。対象エリアは全国だが、7割は大阪市、京都市、神戸市を中心とする関西エリアに集中。入居者ターゲットは個人と中小企業の事業主だという。

 23年からは増え続ける外国人入居者に対応するため、ベッドサイズをシングルからセミダブルに変更した。外国人入居者は22年と比べ、4倍近くになっている。

 また近年では、学生入居者が獲得しにくい状況の中、学生向け賃貸住宅の空室が埋まらない状況が出てきている。そこで空室をマンスリー賃貸にすることによって、満室にして売却するケースもあるのだという。

 入居募集は、一つの物件において家具・家電付き賃貸住宅と、マンスリーやウイークリーの短期貸しの双方で同時に行う。家賃は、家具などを設置していない賃貸物件として貸した場合の相場が10万円とすると、家具・家電付きで2割増の12万円、短期貸しで約2倍の月額20万円に設定し、入居が決まっている。マスターリース料は、家具・家電などがない賃貸住宅の賃料相場程度だという。

 統括部の水谷雅也部長は「入居率を上げるために空室の一部を短期貸しで運用したいというオーナーの需要が、委託につながっています」と語る。

(2026年1月号掲載)

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