都市農家の新しい可能性を探る ―見世

土地活用店舗

<<都市農家の土地活用>>

「2号施設」としての用地利用 都市農家の新しい可能性を探る

神奈川県海老名市で江戸時代から続く農家系地主の長男である鈴木輝彦氏。家業を継いで13年、両親と共に賃貸経営を行っている。鈴木氏は2025年12月、ミカン畑の一部に農家レストランをオープンした。都市部に生きる農家として、農地と観光を掛け合わせた土地活用を目指している。

見世
(神奈川県海老名市)

鈴木輝彦氏


 小田急電鉄小田原線海老名駅周辺に4階建ての商業ビル1棟、単身者向け賃貸アパート1棟、そして「米軍ハウス」として貸し出し中の戸建て2戸を所有・管理している鈴木氏。彼の新しいプロジェクトが農家レストラン「yato.」だ。駅からバスで10分ほどいった住宅地の中にある。

 オープンに際して、鈴木氏は「父の思いをようやく形にすることができました」と感慨深げに話してくれた。というのも、農家レストランが立つミカン畑は、父親が会社員の退職を見越したおよそ19年前、地域住民のために生かしたいと考え、ミカンを植え始めた場所だからだ。

 父親は11月上旬から3月ごろまで楽しめるよう、さまざまな種類のかんきつ類を無農薬で育てながら、ミカン狩りを楽しむ子どもたちに食の大切さや海老名の自然環境について話をしている。

 「以前から父は、先祖から受け継いだ土地を地域住民のために使いたいと考えていました。そこで、人の営みの根幹である『農』を生かすべく、ミカン狩りを通して地域の人との接点をつくっていました。しかし、それにとどまらない、農地の価値を最大化させながら地域住民に喜んでもらえる装置として、飲食店という選択肢を取りました」(鈴木氏)

▲もとの風景を壊さないことを念頭に置いて設計した建物

 同レストランが立つ2264㎡のミカン畑は、生産緑地として登録していた。以前は純粋な「農地」としての固定資産税や相続税の優遇だったが、9年前の改正法で「2号施設」の建築が可能になった。2号施設とは、生産緑地内で農産物の加工・販売・料理提供を行う施設のことを指す。そこで、この改正を利用し、ミカン畑プラスアルファの活用を目指していたのだ。

 その中でも、農家レストランを採用したいと考えた鈴木氏だったが、計画するうえで、ある障壁が立ちはだかった。それが、生産緑地法と用途地域とのダブルスタンダードだった。

 生産緑地法では、2号施設の面積は敷地全体の20%以下に抑えなければならない。つまり、ミカン畑においては最大で450㎡程度の建物が建てられる計算だ。

 一方で、用途地域に鑑みると「市街化区域第一種低層住居専用地域」にあたる。そのため、建築できる建物は、住宅または店舗付き住宅だ。店舗付き住宅の場合、店舗部分の床面積は50㎡以下かつ建物全体の床面積の2分の1未満に抑えなければならない。ミカン畑に建物を建てる際、この用途地域による制限がかかってくることがわかった。

 そこで、鈴木氏は父親と共にこのダブルスタンダードを解消すべく、県との話し合いを進めていった。

 「そもそも、県が協議のテーブルに着くことは異例でした。父の思いが風穴を開けたと思います」(鈴木氏)

 どういう建物を建て、どのように活用していくのかを丁寧にプレゼンテーションしていく中で、店舗付き住宅という形を取らなくてもいいのではないか、あるいは、どの程度の広さなら周辺住宅に影響を及ぼさないか─こうした点を県と鈴木親子とですり合わせていった。

 途中、新型コロナウイルス禍を挟んだことで4年にも及ぶ協議となったが、24年に行われた建築審査会で無事に認可が下り、純然たる飲食店という形で84㎡の平屋建ての建築許可が出た。

 「知事が認める特例という形で、神奈川県では初めての事例になりました。今後ほかの都市農家が同様の農家レストランを考える際の、一つの参考になれたと思います」(鈴木氏)

 一方で、生産緑地で農家レストランをオープンするにあたっての難しさも理解している。

 「そもそも、生産緑地は駅から徒歩5分といった立地のいい場所にあるわけではありません」と鈴木氏が言うように、同レストランも海老名駅から歩いていけるような場所にはない。

 「つまり、農家レストラン自体が『目的』になる必要があります」(鈴木氏)

自然を愛でるための建物 作るより残すを主眼にする

 人々がわざわざ訪ねたくなる場所づくりを目指し、鈴木氏はyato.のコンセプトを「循環」に据えた。

 「今の時代、季節が巡って景色が変わっていくといった自然の循環を感じることが難しくなっていると思います。そこで、yato.に来れば、食や風景、あるいは空気からそうした循環を感じられる、そんな場所にしたいと思いました」(鈴木氏)

 その思いを建物に反映したのが、海老名市出身の建築家、手島伸幸氏だ。海老名のまちづくりという点で、同じ方向を向いて建物をつくることができた。

 yato.に入るとまず目に飛び込んでくるのが大きなガラス窓だ。木造建築ではなかなか取り入れることのないサイズのガラスを使用。眼前に広がる里山の風景にフォーカスするためのフレーミングの役割だ。客席も、ガラス窓に向かうように並びの席を用意した。椅子を使わずに、里山のなだらかな高低差を生かした座席だ。

▲店内に入ると目に飛び込んでくる風景。大きなガラス窓が額縁の役割を果たしている


 「里山の姿をどう残すかに比重を置きました」と鈴木氏は話す。里山の土を利用した土壁はその象徴だろう。

 建築中に周辺住民からは「何ができるのですか?」と注目されていたというyato.。集客にも手応えを感じている鈴木氏は、所有する別の農地でも同様の取り組みを検討している。

 「農家系地主×観光事業という形で、都市近郊農地の価値を再解釈していきたいと思っています」(鈴木氏)

キーワード:用途地域

 用途地域とは、都市計画法に基づき、用途に応じて区分された地域のこと。市街地の環境を維持するために、市街化区域を13種類の地域に分けている。
 地域ごとに、住宅、商業施設、工場など建築できる建物の用途を定め、それぞれ面積や高さなどの建築制限を設けている。第一種低層住居専用地域は、静かな住宅街を守るための地域と定められているため、店舗部分の床面積は50㎡以下かつ建物全体の床面積の2分の1未満に抑えなくてはならないという縛りが生まれたのだ。


(2026年4月号掲載)

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