<<次世代不動産経営実務者養成カレッジ 第3期 by次世代不動産経営オーナー井戸端セミナー>>
生活を守る集合住宅の新しい役割
集合住宅・戸建ての再生で、市民の生活を守る住宅を開発するひとたち
不動産業界において大きな変化が起こりつつある。そうした中、「不動産オーナー井戸端ミーティング」を主宰する𠮷原勝己オーナー(福岡市)が中心となり、貸し手と借り手、そして地域にとって「三方よし」となる、持続的でブランディングされた不動産経営を目指す勉強会を有志で開催している。
当連載では、建築・デザインを学ぶ学生たちと、全国から集まったプロフェッショナルが一緒に受講する場として、九州産業大学建築都市工学部で行った全14回の「不動産再生学」と題した寄附講座を紹介。今回は、神吉不動産(大阪府豊中市)の代表取締役である神吉優美氏の講演をレポートする。
神吉不動産(大阪府豊中市)神吉優美代表取締役

「“住めば都”になるように」大学教員から転身した2代目大家の奮闘記
私は17年間、大学で建築を教える教員をしていましたが、2023年度末に退職し、現在は2018年に父親から引き継いだ大家業を本業としています。
私たち家族が所有している不動産は、「古い・戸数が多い・散らばっている」という3つの特徴があり、管理がとても大変なんです。1955年から1970年という古い時期に建てられたものがほとんどで、戸数は全部で327戸、しかも私が生まれ育った豊中市を中心に、茨木市や大阪市、尼崎市と広範囲に点在しています。当社の特徴は、これらを不動産会社に管理委託せず、自社で大工さんを抱えながら家族で「自主管理」していることです。

「家余り」の時代における大家の使命とは
父の跡を継いだ当初、物件を見回ってまず直面したのは、空室と家賃滞納の多さでした。1割以上の人が滞納しており、中には150万円を超えている人もいるほどだったのです。悪質な場合には明け渡し裁判も経験しました。老人ホームにいる父に話を聞くと「俺の時代は日本全国で家が足りなかった。だから、安い家賃帯の借家を安定的に供給するのが自分の使命だった」と言います。しかし、現代は家が余っている時代です。そんな時代に大家をする「私の使命」とは一体何だろう……と、本当に途方に暮れました。
でも、立ち止まっていても仕方ありません。例えば、子どもがいないおばあちゃんに母の日のカーネーションをプレゼントしたり、お祝いしてくれる家族のいないおじいちゃんの誕生日を一緒に祝ったり、入院中の人に「早く退院しておいでね」とハガキを送ったり。そんな風に、目の前のやれることを1つずつやっていくうちに、私なりの使命が見えてきました。それは「今住んでくれているおじいちゃんやおばあちゃん、若者たちに『ここに暮らしていてよかった』と思ってもらえるように頑張ること」なのではないか。「“住めば都”になるように」していくことなのではないか、と思うに至ったのです。
入居者とつくる「自分好み賃貸」
大家として私が具体的に取り組んでいる3つのことをご紹介します。1つ目は「自分好み賃貸」です。
所有している中で唯一の鉄骨造であるマンション(72戸)で退去が続き、入居率が半分を切ってしまったことがありました。その時、知り合いの不動産屋に「大工を抱えているのだから、先に骨組み(スケルトン)の状態にして入居申し込みを取り、その人の要望に沿ってフルリノベーションしたら面白いのでは?」と提案されました。早速解体ワークショップを開き、「あなた好みにプランニングします」とスケルトン状態で募集をかけました。
ところが、誰も見学にすら来てくれませんでした。仲介業者から「完成形が見えないとお客さんに紹介できない」と言われ、仕方なくモデルルームを造り、インターネットで写真を公開しました。するとその写真がバズり、次々と申し込みが入ったのです。
今では21戸目の工事を進めています。「Pタイルにしたい」「玄関土間を広く取って見せる収納にしたい」「アイランドキッチンではなく水回りを緩やかに隠したい」といった若い人々のリクエストを受け、個性豊かでデザインセンスの高い部屋が次々と生まれています。
「コモンルーム」を拠点としたコミュニティーづくり
2つ目は「コミュニティーづくり」です。マンションには50年近く暮らす高齢者、自分好み賃貸で入居した若者、ベトナム人の技能実習生など多様な人が住んでいますが、お互いのカテゴリーをまたいだ交流が全くありませんでした。そこで2020年1月、空室を利用して新年会を開催したところ、なんと43人もの人が集まってくれました。その後、1階の端の住戸を「コモンルーム」にリノベーションし、忘年会や味噌作りワークショップ、誕生日会などを開催する拠点にしています。

さらに2024年の春からは、長年やりたかった子どもの支援として「宿題ひろば 学びの船」を始めました。経済的な理由で塾に行けない子どもたちと一緒に勉強し、夕飯を作って食べる活動です。夏休みには「絵日記に書くネタがない」という声を聞き、急遽マンションの敷地で花火大会を企画しました。地域の子どもたちのために開いたのですが、マンションのおじいちゃんやおばあちゃんにも声をかけたところ、最初は遠慮していた人が、最後は花火を取り合うように楽しんでくれました。子どもたちが高齢者に火を分けに行ったりして、大盛り上がりでした。この時、高齢者との関係づくりと子どもの支援を「合体(ガチャポン)」させたほうが、みんなが喜ぶし子どもにとっても良いことだと気がついたのです。ハロウィーンでお年寄りにお菓子を配ってもらうなど、世代を超えたイベントを意図的に仕掛けています。
その他に、出張のお土産を配り歩いて直接訪問したり、韓国の視察からヒントを得て始めた「Sunday Tea Club」というお茶会を開いたりと、自分から出向くバージョンと集まってもらうバージョンを混ぜ合わせながらコミュニケーションを図っています。

大阪公立大生と挑む「長屋の再生」
3つ目は、大阪公立大学の学生たちと取り組んでいる「長屋の再生」です。大阪市の南端(住吉区)にある築67年の長屋で、未接道のため再建築ができないという課題を抱えています。建物の傾きもひどかったのですが、𠮷原ゼミの大家の人たちが関西に視察に来た際に大学の先生と出会い、建築学科の学生8人が「やりたい!」と手を挙げてくれました。
彼らは「あびっこぐらし」というプロジェクトを立ち上げ、建築学生向けのシェアハウスをつくるべく、自ら基礎工事の穴を掘り、捨てコンクリートを打ち、ミキサー車を呼んでコンクリートを流し込み、柱や梁を新設するという本格的なDIY工事を行っています。
旧弊を打ち破るための3つのアドバイス
最後に、これから社会に出る皆さんに伝えたいことが3つあります。
1つ目は「セルフプロデュースと情報発信」です。私は大学教員を辞める時、冗談半分で「駄菓子屋のお姉さんになる」と言っていました。すると「それならプロにコスチュームを決めてもらったらいい。これからはセルフプロデュースの時代だよ」とアドバイスされました。そこで𠮷原さんに相談したところ、まんが「めぞん一刻」(高橋留美子作)に登場する音無響子さんのイメージがいいんじゃない?とアドバイスされ、それをイメージした黄色いエプロンを身につけることにしました。今ではこれが私のトレードマークになり、草むしりや掃除を手伝ってくれる入居者のおじいちゃんにも、任務の証しとしておそろいの黄色いエプロンを着けてもらっています。そして、これらの活動をInstagramやFacebookでどんどん発信しています。
2つ目は「オモロイ人とつながる」こと。面白くて良い人の周りには、必ず面白くて良い人が集まります。私も𠮷原ゼミに参加して、全国の熱い大家さんたちや面白い活動をしている人たちと横のつながりができました。SNSで「ここに行ってみたい」と自ら連絡を取ることで、さらに新しい出会いが生まれます。吉原さんの「神吉さん、英語で質問してみて」というちょっとした無茶振りで、英語で質問をしてみたことがきっかけとなり、なんとその1週間後にしまなみ海道で行われた国際会議で自転車ツアーの英語ガイドを頼まれるという不思議なご縁もありました。皆さんも、大人や面白い人とSNSを通じてどんどんつながってみてください。
3つ目は「やりたいことをプレゼンする」こと。夢を口にするだけでなく、パワーポイントなどで資料を作って人に「プレゼン」することが重要です。準備する過程で、頭の中が整理され、漠然と抱いていた夢が具体的にイメージできるようになります。私は昨年の秋、「大学生がDIYできる場所」「ベトナム人実習生が地域と交流できる場所」「困っている子どもを支援できる場所」をつくりたいとプレゼンしました。そして今、長屋の再生や「学びの船」など、その時に妄想して語った夢が、現実となって動き始めています。
私が今やりたいのは、大家だからこそできることを世の中に伝えていくこと、地域の困っている子どもたちとつながってサポートすること、そして入居者の「関わり代(しろ)」をつくり、この小さなエリアから地域を元気にしていくことです。皆さんもぜひ、自分なりの「やりたいこと」をきちんと言葉にしてプレゼンし、誰かの人生や街を豊かにするアクションを起こしていくことを願っています。

(2026年4月公開)






