家主と地主編集部です。
従業員の住宅について、企業側や社員側にとってもメリットが多い借り上げ社宅制度。特に大企業で導入されています。
借り上げ社宅制度は、家主側からしても空室や家賃滞納などのリスクを回避することができるありがたい仕組みです。
借り上げ社宅制度のメリットやデメリット、企業が借り上げ社宅を探す条件などをまとめました。
借上げ社宅制度とは
企業が、従業員への住宅を支給する方法として以下3つの方法があります。
- 借上げ社宅と住宅手当
- 社有社宅
- 寮
借り上げ社宅制度
借上げ社宅とは、企業が従業員のために賃貸住宅を借りて住まわせる制度のことです。
借り上げ社宅制度では企業が賃貸借契約を家主と締結して賃借人となります。家賃は企業から振り込まれます。大企業の福利厚生として取り入れられていることの多い制度です。
その他住宅支給制度
企業の借り上げ社宅制度以外の住宅支給制度は以下の種類があります。
住宅手当
住宅手当とは従業員の住宅に関わる手当(補助)を支給する制度のことです。住宅手当ではその部屋に居住する従業員が家主と賃貸借契約を結び賃借人になります。家賃は従業員が支払います。
社有社宅&寮
社有社宅とは会社が所有する物件を社員に貸し出す制度のことです。社員寮も同じような意味合いになります。
借り上げ社宅制度との違いは、会社が住宅を借り上げているか、所有しているかの違いです。
借り上げ社宅制度のメリットやデメリット
借り上げ社宅制度を利用するにあたって、企業側、従業員側、家主側のメリットデメリットは以下の通りです。
企業のメリットデメリット
<メリット>
1.転勤者の部屋探しの負担を減らせる
従業員が新しい地域に転勤する場合、借り上げ社宅制度があれば自分で部屋を探す必要がありません。
2.福利厚生充実&社員満足度の向上
借上げ社宅があることで、新入社員や転職者へ福利厚生が充実していることを宣伝することができます。従業員は部屋に安く住めるため満足度が向上します。
3.所有社宅より管理費負担が少ない
社有社宅や寮を所有するより、設備維持などの管理費負担が少なくなります。
4.住宅手当の支給が要らない
住宅手当の支給は必要ありません。
<デメリット>
1.空き部屋にも家賃が発生する
従業員が選ぶのではなく企業側が指定の部屋を借上げ社宅として提供する場合は、部屋を長期契約しているため、空き部屋にも家賃が発生します。
従業員のメリットデメリット
<メリット>
1.部屋探ししなくて済む
新入社員や異動などによる転入者が新しく部屋探しをする必要がある場合、企業側が準備した借上げ社宅があれば、不動産巡り、内見、申込・入居審査、契約などの一連の手間が省けます。
2.条件の範囲内で自分で選べる
一方、条件の範囲内で、自分で好きな物件を選んで借上げ社宅として住む方法もあります。
3.初期費用が掛からない
新しい部屋を借りるには、不動産仲介手数料、敷金、礼金などの費用が掛かります。借り上げ社宅の契約は、家主と企業間で行われるのでこれらの初期費用は企業が負担してくれることが多いです。
4.自分で部屋を借り家賃を支払うより割安
会社が借り上げた部屋に対して、従業員は使用料を払う形になります。企業側が全額負担もしくは1部負担をしてくれることが多いので自分で借りるより割安になります。
5.税金が下がる
借上げ社宅に対する家賃は、給与から天引きされるので、所得額が下がり、所得税、住民税、社会保険料が下がり節税になります。
<デメリット>
1.条件がある
借上げ社宅を選ぶに際しては家賃や会社からの距離等の条件があることが多いです。個人で探すことと比較して完全に自由に決められるわけではありません。
家主のメリットデメリット
<メリット>
1.長期的に借り上げてくれる
家主業で一番のリスクは物件に空室が出ることです。借り上げ社宅として企業に部屋を借り上げてもらえば空室の心配がぐっと減ります。
2.家賃滞納の心配がない
家主が恐れる家賃滞納。しかし借上げ社宅は企業が借り上げてくれるので家賃滞納の心配がほとんどありません。
企業が借り上げ社宅を探す方法
企業の借り上げ社宅の探し方は以下2つに大別されます。
- 仲介会社経由
- 社宅代行会社経由
仲介会社経由
個人の入居者の部屋探しと同様に、企業が法人契約を手がける仲介会社に部屋探しを依頼する方法です。仲介会社が企業が提示した入居条件と合致する空室物件を探します。
該当する部屋を見つけた際は、物件を管理している管理会社や家主に問い合わせを行い、依頼主の企業の従業員との内見に同行したり、成約時には賃貸借契約の手続きもしたりします。企業と管理会社や家主との間に立って、入居に関わる業務の調整を行います。
社宅代行会社経由
社宅代行会社を経由する方法です。社宅代行会社は企業の総務部などから、社宅管理の代行業務を受託し、企業に代わって部屋探しや契約業務、物件のメンテナンスなどを行います。
仲介会社との大きな違いは、社宅管理の代行のため、成約後のフォローも行うことです。家賃の入金業務や更新手続き、トラブル発生時の窓口、さらには退去の手続きも対応します。
企業の代理の立場として部屋探しをする場合もあるため、入居予定の企業と管理会社や家主の間に、社宅代行会社と仲介会社が介在するケースもあります。
各地に散在する借り上げ社宅に関わる煩雑な業務を一括して外部委託できることから、企業にとってはメリットを感じやすいサービスです。
企業が借り上げ社宅に求める条件
企業が、物件を社宅として借りる場合、家賃帯や広さ、通勤時間という条件以外にどのような点に気を付けているのでしょうか?
土砂災害警戒区域は対象外
企業が社宅を借りる場合、安全面から、土砂災害警戒区域は対象外にしていることもあるようです。
土砂災害警戒区域とは、がけ崩れや地滑りなどの土砂災害が発生した場合に、住民の命や建物に危害が生ずる恐れがあると認められている区域のこと。
土砂災害という言葉から山間部が対象だと思われがちだが、都市部近郊であっても、急な坂が多い地域も指定されていることがあります。
国や自治体が土砂災害「ハザードマップ」を発行しているため、自身の所有物件が土砂災害警戒区域か確認することが可能です。
耐震性
日本は地震が多いことから、建物の耐震性も重視されやすいです。1981年6月1日以降に建築認可を取得した建物には「新耐震基準」が採用されています。
しかし、同年以前に建築認可を受けた建物は「旧耐震基準」で建てられています。
新耐震基準が震度6~7程度の揺れでも建物が倒壊しないような基準となっているのに対し、旧耐震基準は震度5程度の揺れでも倒壊しないという低い基準です。所有物件が旧耐震基準だった場合は、社宅としての候補からは外れやすくなります。
セキュリティ
防犯性も要件になります。住む予定の社員が女性の場合に気にする企業も多いようです。
そのため訪問者対策として、玄関がオートロックとなっているか、もしくはテレビモニター付きインターホンが付いているかがチェックされやすいといいます。防犯性の向上は、通常の空室対策としても効果的であるため取り入れたいところです。
借り上げ社宅に選ばれる物件の条件とは?
連帯保証人や、家賃債務保証の必要性は案件ごとに再検討する
仲介会社が物件を紹介する段階になってから困ってしまう事柄として、家主から「連帯保証人や家賃債務保証会社をつけてほしい」と言われるケースがあります。
ですが、企業が借り上げる場合は企業が賃借人となるため、そもそも家賃滞納のリスクは低いです。
連帯保証人や家賃債務保証を求めるというのは、企業を信用していないというメッセージになってしまいます。仲介会社や社宅代行会社からすると、とても紹介しづらいです。
特に家賃債務保証は賃借人が加入する保証のため、コスト面で企業側のデメリットになります。
万が一を考えるならば、一律必須にするのではなく、創業から日がたっていない新しい会社や資本金が少ない企業だけを対象にするなど、どのようなケースで家賃債務保証への加入を必須とするのかを事前に決めておきましょう。
原状回復のガイドラインを守る
2020年に民法の一部が改正され、経年劣化や通常の部屋の利用によって生じた損耗は、入居者に原状回復を請求できなくなりました。ですが、退去時に原状回復費用すべてを入居者負担にしたり、敷金から償却しようとしたりするオーナーがたびたびいるようです。
企業はコンプライアンスを順守するために最新の法律や官公庁が公表しているガイドラインにも目を通しています。当然、国土交通省が発表した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」や、民法について勉強しています。
従来の慣習として敷金から原状回復費用を償却していたとしても、現在はできないため、肝に銘じておきましょう。
通常、賃貸借契約などのすべての手続きが終わった後に部屋を入居者に引き渡します。
ですが企業の場合、急な転勤などが起こります。手続きが完了していなくとも、家賃の入金をもって部屋に住むことができるように引き渡すと喜ばれます。
そのため、すべての手続きの完了をもって部屋の鍵を渡すのではなく、家賃の入金をもって部屋に住めるように手配したいものです。
月末の家賃入金を承諾
賃貸借契約書内で、家賃の引き落とし日を、25日または27日にしている家主が多いのではないでしょうか?
ただ企業の場合、月末に請求の支払いをするルールにしている会社が多く企業側は一括して家賃の支払日を決めたい場合も多いので企業に合わせて柔軟に対応する必要があります。
入居条件の確認を容易にする
企業の場合は部屋探しの依頼をしてから実際に住み始めるまでの期間が短いです。
そのため、要件に合った物件を見つけても「家主に確認します」と管理会社から返事をされてしまうと、部屋探しが滞り、仲介会社や社宅代行会社は顧客からの信用を失いかねません。
そうならないように、空室が出た際に前もって管理会社と入居条件をまとめておいたほうがいいでしょう。
契約変更は覚書を残す
例えば、社宅として問い合わせがあった場合に備え、社宅専用の賃貸借契約書を用意したり、家賃債務保証会社をつけない代わりに敷金や礼金を2カ月もらったりするなどの条件を募集の時点で決めておくと、仲介会社は紹介しやすくなります。
結果的に、「あの物件なら入居条件の確認が簡単にできるから問い合わせよう」となります。
借り上げ社宅制度は、家主と企業の従業員の間に、社宅代行会社・仲介会社・管理会社と3社が介在することがあります。そのため、特別な取り決め契約変更は覚書を残したり、契約内容や募集条件を変更した場合は覚書など書面を残したりすることが大事です。
口約束でも契約は成立します。しかし、いろいろな会社が介在するため口約束はトラブルの温床となります。
紛争防止のためにも、契約や募集条件などを変更した場合は、後から誰が見てもわかるように覚書などを残しておきましょう。
まとめ
借上げ社宅制度は、企業側にも従業員側にも大きなメリットがあります。
企業側のメリット
- 部屋探しの必要が減る(企業が物件を指定する場合)
- 自分で選べる
- 初期費用が掛からない
- 割安
- 税金が下がる
企業側のメリット
- 福利厚生の充実
- 管理費負担減
借り上げ社宅制度は、企業が借り上げてくれるため、家主側にとっても、長期的に借り上げてくれる、家賃の滞納がないという大きなメリットがあります。
企業に部屋を貸し出すときは臨機応変に対応する必要があります。
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