5月30日、衆院本会議において、所得の低い単身高齢者らが住宅を借りやすくし、家主が貸しやすい環境を整えるための「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」、いわゆる住宅セーフティネット法の改正案が可決・成立。今、賃貸住宅への高齢者の入居受け入れが注目を集めている。
変化する賃貸マーケット
内閣府の「令和4年版高齢社会白書」では、2036年には約3人に1人が高齢者になると予測されている。さらに、40年には65歳以上の単身者世帯が40%を占める可能性があるとしている。人口減少に伴い若年層の絶対数が減少する中で、賃貸経営においても増加する単身高齢者層の獲得は避けては通れない選択肢となる。
家主が恐れる三大リスク
賃貸住宅に高齢者を受け入れるにあたり、家主には大きく分けて三つのリスクが考えられる。一つ目が金銭的なリスク。高齢者は収入が年金のみの場合が多く、さまざまな理由で出費が重なった場合に家賃の滞納につながる恐れがある。
二つ目は、長期入院や認知症発症、孤独死など入居者の健康に関するリスクが挙げられる。特に単身の高齢者の場合は、これらの把握・発見が遅れる可能性があるためリスクが高いと感じる家主は多いだろう。
三つ目は、連帯保証人を立てることが難しく、保証会社の審査に通りにくいことだ。
見逃せないメリットとは
一方で、高齢者の入居にはメリットもある。結婚や子育てといったライフイベントが終わっている人が多く、入居期間が長期化しやすい。また、駅から距離がある物件や、大掛かりなリフォームをしていない物件でも入居が決まるため空室対策になり、安定した賃貸経営につなげることができる。
こうしたメリットを最大限生かしつつ、リスクを抑えるためには、契約時にしっかり対策しておくことがポイントだ。
高齢者受け入れの現状
年齢制限を設けた運営で賃貸経営が成り立つ時代ではない
空室対策や社会貢献などを考慮し高齢者を受け入れている家主はいるが、一方でリスクを恐れて高齢者の入居を断っている家主も多い。そうした現状について、高齢者向けの賃貸住宅ポータルサイトの運営や、見守りサービス事業を展開するR65(東京都港区)の山本遼社長に話を聞いた。
R65(東京都港区)
山本遼社長(34)
減少していく賃貸需要
少子化が叫ばれ続け、ついに23年の合計特殊出生率は1・20になった。「東京の人口は30年がピークという推計が出ています。東京ですら将来的には賃貸需要の減少が予測されるのです」と山本社長は話す。今後は、年齢で入居者を選んでいては経営自体が成り立たないのだという。
断る理由は漠然とした不安
山本社長によると、家主が高齢者の入居を断る理由として、「漠然とした不安」が挙げられるという。その不安を細かく分析すると①孤独死②賃貸借契約の相続③家賃滞納④認知症リスクの四つに分類できる。
だが昨今、法整備や高齢者向けサービスの登場により、四つの不安に対処できるようになってきた。「死後事務委任契約を結ぶことで残置物処理や賃貸借契約の解除が可能です。また実際には高齢者で家賃を滞納する人は多くないというデータがありますし、もし滞納があっても家賃債務保証があれば問題ありません。認知症にしても、地域包括支援センターに相談することができるのです」(山本社長)
▲高齢者の入居はメリットも多い
平均入居期間13年はメリット
山本社長によれば、実は高齢者は「いいお客さん」だという。理由としては、滞納が少ないことに加えて、1階の部屋を嫌がらない傾向があること、騒音などのトラブルが発生しにくいことなどが挙げられる。
高齢者の入居が可能な部屋が少ない現在、入居を受け入れるだけで選ばれやすい部屋となる。さらに入居年数も長いのだという。「高齢者の平均入居期間は13年ほどです。入居時の家賃を13年間払ってくれるのは、家賃下落リスクに対して大きなメリットになるでしょう。入居者の入れ替わりによる原状回復費用もかからないので、収支面から考えると高齢者の受け入れはむしろ得策といえるのではないでしょうか」(山本社長)
最初はターゲットを絞る
一口に高齢者といっても状況はさまざまだ。年金世帯、生活保護世帯のイメージがあるかもしれないが、現役で働いていたり資産を持っていたりする人も少なくない。
これから高齢者の入居受け入れを考える家主は、まずは①資力のある人②身寄りがいる人をターゲットにするといいそうだ。慣れてきたら、死後事務委任契約や見守りといった対策を講じたうえで、徐々に対象を広げていくのが望ましい。
「実際に高齢者を受け入れた家主や管理会社から、ネガティブな声を聞くことは非常に少ないです。賃貸経営へのメリットも多い高齢者の入居受け入れを、ぜひ実践してほしいと思います」(山本社長)
(2024年9月号掲載)
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【特集】事前の対策で差がつく 高齢者の 受け入れ方②
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