Focus ~この人に聞く~ コミュニティ形成はDIYがきっかけ

賃貸経営入居者との関係づくり

DIYでコミュニティー形成
参加型改修が新たな担い手を増やす

大阪公立大学工学部建築学科で講師を務める西野雄一郎氏。建物の改修から形成されるコミュニティーに着目し、学生と共にDIYで建物を再生したり、インターネットを通じて職人から技術指導を受けて建物を改修したりと新しい取り組みに日々向き合う。これまでの活動や、新しい修繕の担い手について話を聞いた。

大阪公立大学(大阪市)西野雄一郎講師(39)

――建物の改修を研究テーマとしたきっかけは何でしたか。

 修士論文で政策空き家に出合ったことです。政策空き家とは建て替え予定の公営住宅のことで、原則空室があっても入居募集をしません。ところが、建て替え予定までは安く住むことができる、DIYしてもいいというケースがあることを知り、賃貸住宅をDIYすることに着目しました。内装も自分たち好みの面白い空間に変わるのを見て、DIY可能とするだけでこんなに楽しく暮らせるのかと衝撃を受けたのです。

――建物だけではなく、人間関係にもいい影響があったそうです。

 このケースでは高齢者が多く住んでいた物件に若いクリエーターがどんどん入居しました。新しい人が入ってくることで、元の住人からも「防犯面で良くなった」という声が聞こえてきたのです。DIYを見かけた人が作業内容を質問したり、高齢者の部屋のちょっとした修繕をしたりとコミュニティー形成が促進された結果でしょう。

――DIYはこれからも広まるでしょうか。

 はい、広まると思います。統計ではプロの大工の人数はこの40年で約100万人から約30万人に減少しています。一方で最近は、大工ではないけれど、大工スキルを持った人が現れています。費用も安く済むことから「ユーチューブ」で勉強して自らDIYやリノベーションをする人が増えました。建物の基礎や土台などの作業動画を熟練の大工がアップしているチャンネルからは、私も大いに勉強させてもらいました。賃貸住宅の家主からもリノベをしたいものの職人が見つからないという話を聞きます。こういった人材は今後、賃貸住宅に関わる重要な人材としても活躍する可能性があると思います。

――今後のDIYの展開についてどう考えますか。

 「参加型改修」と呼んでいますが、施主から仕事を受けた人がいろいろな人を巻き込んで一緒にリノベを進めることが広まっていくのではないかと考えています。チームを統括する人はプロの大工ではないので、成果物にではなく、誰に何をしてもらうかといった現場デザインに日当をもらう形にしているそうです。参加型改修では、ある現場に参加した人が、新しい現場では統括を担うといった広がりが見られます。DIYそのものが人のつながりを生み、それが新しい場所に波及していくのはとても興味深いです。(五林麻美)

西野雄一郎講師プロフィール
1985年2月、大阪府生まれ。建築設計に従事した後、福岡大学建築学科助教を経て現職。「建築を使い続ける社会への転換を加速する」ことを目指して研究や実践に取り組む。研究テーマは、リノベーション、DIY、ものづくり教育など。2022年、日本建築学会奨励賞、17年、日本建築家協会 ゴールデンキューブアワード優秀賞などを受賞。

(2024年5月号掲載)

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