銭湯隣に残る築100年超の⻑屋

賃貸経営リフォーム・リノベーション

<<Regeneration ~建物再生物語~>>

銭湯隣に残る築100年超の⻑屋
「まちの湯上り処」として多世代が集う

稲荷湯長屋

 東京を代表する繁華街、池袋。そのJR埼京線池袋駅の隣にある板橋駅周辺には、10分も歩くと下町の雰囲気が色濃く残っている。そんな街角に突如現れるのが「滝野川稲荷湯」と「稲荷湯長屋」だ。

一般社団法人せんとうとまち(東京都文京区)
栗生はるか代表理事

 稲荷湯長屋は2022年にオープンした「まちの湯上り処」。銭湯帰りにコーヒーや牛乳、クラフトビールなどが楽しめるカフェ・バーとして利用される一方、整体やいなりずし屋の定期出店、イベントなどへの場所貸しも行っており、人々の交流の場として親しまれている。

▲二軒長屋を再生、まちのコミュニティースペースへ

 稲荷湯長屋は従業員の住居だった長屋をリノベーションして誕生した。仕掛けたのは、栗生はるか氏が代表理事を務める一般社団法人せんとうとまち(東京都文京区)だ。栗生代表理事がこの物件に出合ったのは18年。東京都北区の銭湯を全軒取材している中でのことだった。栗生代表理事は滝野川稲荷湯と長屋を登録有形文化財として保存できないかと考えた。「古い建物の維持はとても大変。銭湯もその数はどんどん減っている中、宮造りの滝野川稲荷湯は建物的にも非常に価値がある。興味があれば歴史的な価値を調べてみませんかとオーナーに提案しました」(栗生代表理事)

 そして栗生代表理事は世界的な文化遺産の認定団体「ワールド・モニュメント財団」に申請。翌19年、「稲荷湯修復再生プロジェクト」として申請が承諾され、約20万ドルの援助を受けることができた。

 

 支援金は記録や広報などの各種活動にも充てる必要があったため、全額を改修に使えるわけではなかった。そのため、改修費用を抑えることができるDIYも取り入れた。解体調査では畳の下から戦時中の新聞が出てくるなど、歴史が垣間見えることもあったという。もともと2戸だった長屋だが壁を抜いて1戸につなげた。その半分では耐震補強と断熱材を加えたものの、ほとんどの建材などを利活用。もう半分は土間としてキッチンスペースを造作し、現代社会に合わせたアップデートを行った。近隣の甘味処から椅子を譲り受け、内装には廃業した銭湯のタイルなども再利用。地域のお店の魂を受け継いでいる。

 プロジェクトチームのメンバーだけでなく、土壁の塗装やその土台となる竹小舞の編み込みなど、参加型のワークショップという形で近隣住民も参加し、1年をかけて再生された。

 

 稲荷湯長屋は今、銭湯の利用客が気兼ねなくくつろげる場所であり、若者が銭湯に興味を持つきっかけづくりにも寄与している。

 「稲荷湯長屋の運営は私たちが行っていますが、将来的には地域の人々が中心となって運営できるとうれしいですね」(栗生代表理事)

(2025年9月号掲載)

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